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第12話「亜人ラプソディ」 Part1

「だからもういいって……!」

「いやいや、俺を救ってくれた女神さまにはこれぐらいじゃ」

「イゴルスだっけ、恩人の嫌がってることをするの?」

「というか私あなたを殺しかけたからね!?お礼なんてなんか変な感じだよぉ……」

「す、すまない……だけどみんな元に戻してくれた恩人なのは覚えておいてほしい」

「わかったからとっととおサラバ!!」

「あっ、ハナ!」



 事件解決の後、クロウはフシュケイディアの宿に滞在していた。

 ナノハはとっとと去ってしまったが、クロウ自身ももうペイガニーへの報告しかやることは残っていない。

 フシュケイディアに特別な思い入れも無いため自分も帰ろうかと準備するが、イゴルスとの入れ替わりで“やること”が舞い込んできた。


「やぁ、キミがクロウだね?」

「そうだけど……」


 またしても白衣の男。

 その前に見た白衣男よりは具合がよさそうだが、ほんのり猫背に無精ひげとやはり不摂生に見える。

 心の中で医者とはこんなのしかいないのかと愚痴りながらも男の次の手を待つ。



「……」

「……」

「…………」

「…………」

「あの」


 謎の沈黙をクロウが切り拓く。

 気だるげにああ、と呟いて彼は意識をクロウへと戻した。


「ごめんごめん、ガム嚙むのに夢中になって」

「ガム?とにかく用件は何。僕もう帰るだけだよ」

「そう言わずに。すぐ終わらないことだけどさ」

「困りごと?」

「それもいっぱいの」


 こちらも面の皮が厚いのか、ずずいっと詰め寄られても顔色一つ変えずにガムなるものを呑み込みながら話を継続。


 ……詰まりかけたようで、胸をドンドンと叩く。


「フー…、キミ達好きでしょ?私もナビキャラとかいうものだったからねぇ」

「ナビキャラ…?」


 クロウは記憶を辿る。

 ナビキャラ、主人公を…ひいてはプレイヤーを導く、セレマで言えば行方不明のイッカ・クラフトに相当する存在。

 他の都市では誰か?クロウの中では彼らが一堂に会する“お祭り的”と言われたイベントがふと思い浮かんだ。


「エイプリルフール……ナビキャラ王決定戦……」

「私達の黒歴史を発掘するのは止めてほしいのだが」


 そう言われても、クロウが他の都市のナビを意識したことはあまり無い。数少ないその機会がその王座の戦いなのだ。


「他のNPCもはっちゃけていて、イッカとか鞭持った黒い……」

「ストップ、ストップだ。私はウェンディゴ、ウェンディゴ・ブルースだ。思い出してくれたかい?」

「娘と結婚しちゃうとか言い出したロリコ」

「文章のスキップを要求する!」


 冗談、冗談と流すクロウだが、宿には囚われていた他地域のバスターも泊まっているためこのウェンディゴという名の男からすれば堪らない。彼は軽い咳払いで場を仕切りなおす。



「まー…積もる話は無・い、わけだが?簡単にお願いを話そう」


 ここまでの話の内容が内容だったので、話すべき思い出は無いと強調しながら本題に入る。


「他の都市はどうだか知らないが、こっちは大変革とやらが起こってすぐあんなだったから色々遅れているんだ。そのせいで現実化に対応しきれていない」


 クロウはペイガニーが(半分は)冗談、と流した使命を思い出した

 。余所者である自分が今ここでやるべきこととまではいかないが、彼らに必要なことは山積みなのだ。


(僕が目覚めた時は何日か経ってたけど、直後……いや、その瞬間に立ち会ったような人はきっと大変だったんだろうな)


 クロウは大変革の混乱を目の当たりにしていない。むしろ、ほとんど順応している部分しか見れていない。

 プレイヤーを想うPCもいれば記憶や使命との齟齬に悩むNPCもいた。このフシュケイディアは解放された正にその時、遅ればせの混乱真っただ中なのである。



「都市運営についてはまぁ…私は門外漢だから然るべき所に任せる。問題は民衆だ、誰も彼も何をしたいか何をしてたか迷走してる」


 窓から外を眺めると、来訪当初の静けさが嘘のように賑わっている。隠れていた人々も囚われていた人々も外へと進出し、社会生活を始めている。


 しかしその一挙手一投足のどれもがぎこちなく、まるで部外者同士の取引である。

 本当にこれでいいのか、をお互いに確かめ合い、別の方面では苛立ち争う姿も見られた。


「こればっかりは時間がかかる。とはいえ長引かせるわけにもいかない」

「僕にできることなんだよね?」


 ウェンディゴの目が怪しく光る。

 獲物が釣り糸にかかってくれた、そう言わんばかりに。


「……そう、難しいことは無い。ただ、フツーー…に過ごしてくれればいい」

「フツーー……に」

「そう、フツーーに。見本を見せるんだ。それこそ、難しいことはないよ、普通にしていればね」


 何かしら見透かしているような指教にクロウはハテナを浮かばせるが、それ以上を追究せんと言わんところでウェンディゴはさてとと重そうな腰を上げる。


「じゃ、よろしく」


 断りきることができないまま一人きり。仕方がないので、もう少し街を見て回ることにした。




「そのあれが…えっと……頭がこんがらががっ、うまく言えな、ろれつもまわんなくて」

「えっとこれどこ?違う?おいどっちやればいんだよ!!」

「なぁあんた……俺は何すればいいんだ…どしたらいいんだっけ……」

「儂に訊くなッ!!」


 街の音は悲喜こもごも、複雑な仕事をいとも簡単にこなす者もいればこれまでやっていたことが簡単にできなくなった者もいる。話そうとした内容に矛盾や忘却を感じ絡まったり滑舌が悪くてうまく話せないという例まで。


 その様は正に当初のセレマの再演で、こんな感じだったのかという困惑を初見のクロウは得た。



「普通に過ごせと言われても……普通…普通かぁ……」


 改めて考えると“普通”とはなんなのか「いや、過ごせるね?普通」


 …クロウは言われた通り普通に、見て回ることにした。今まで通り、そう、難しく考えることはない。

 ふらっと歩いて、気になる所に立ち寄って。小腹が空いたら……混乱が比較的少ない店を見ればいい。


 このひと月と数日、自分で思うのもなんだが仕事以外は一般的と言える暮らし方をしてきただろう、と思い返しつつ都市のほぼ中央にまで到達した。

 このフシュケイディア中央部にはパイドンの泉なる大規模な泉、いや噴水がある。

 この噴水には医術の都市らしく癒しの力があると伝えられているが、科学的にも魔法的にも確認されていない完全な迷信と現実化を待たずにそう判明、いや設定されていた。


 ただ、パイドンの泉を見物しその迫力から「おー」と感嘆するクロウはそのような設定までは知らず、知ってる人物といえば、それこそ泉の周りにいる現地人となるだろう。



「だからさぁ、治してもらいなよ」


 焚火の燃える様を眺めるように、豪快な滝に見入るように、癒しの楽器を奏でるように、不思議な心地よさを受け止める。


「世界はとっくに変わってんのにお前はそんなでさぁ!」


 厳しい戦いが続いたからなのか、いつまでも見ていられるような気がした。…疲れているのだろうか?

 しかし分かることは、このように頭を空にしてぼうっとしてるのもたまにはいい、ということだ。


「やめて…や、ごぽ……」

「ん何よせっかく“チリョウ”してあげてるのにさ!」

「あの、えっと……!ちょっとうるさい!」


 ただ、そのためにはもうちょっと頑張らないといけないらしい。


「は?え、何?オジゾーサン?」

「ひ、人のことに首突っ込まないでくれよ!」

「ちっ……」


 何か言われて気にするという暇はない。

 いつもの通りの目にも止まらないスピードで被害者を救出、その彼の頭を抑えつけていた男は突然の浮遊感の後尻もちをついた。


「あれぁ?がっ!?」

「やば、こいつバスターじゃん!」

「すんませぇーん!!」


 その超人的な力を見てバスターだと判断し、不良は逃げていった。

 悪事の自覚がありながら窒息の危険しかない暴行を行っていたのか、と胸に嫌な熱さを抱いたクロウは奪取した少年の感謝に応えた。


「げほ、ゲホッ……ありがとうごぁいまひゅ、けほ」

「大丈夫落ち着いて……ん?」


 咳き込む口に当てられた少年の手は、竜か何かのような鱗と爪が生えていた。

 鱗は鋭く、爪も太く頑丈そうで、更には長い尻尾も確認できた。


「亜人か……?わっ!」

「ごめんなさいっ!!」


 力が元に戻っていたクロウの腕の中から抜け出し、そのまま走り去っていった。

 子ども一人で駆け出してしまった彼のことを心配に思ったクロウだが、しかし周りの状況からそれどころでもないとも気付く。



「亜人が……いじめられている……?」

なんというか問題回って感じがする、そんな仕上がり

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