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第11話「メディカル都市S.O.S.」 Part5

  機械が半濁音を叫ぶと巨腕を手近な、突撃陣形中央のナノハへと向けた。それを見たアークは非効率的な、と零す。


 左右の味方が弧を描いてアークへ向かう中ナノハは大剣で真正面からぶった斬ろうと横一閃斬りつける。

 しかし、かかった相手の左手は金属音を上げ、鋼鉄の如き硬さを持つことを知らせる。


「硬っっった!?」

「バスター化実験と言ったろう。攻める、守る等の意思を持ち行動する時、感情が強いほど全身が都合よく強化されるその性質……別室でモニタリングさせてもらうよ」


 そう捨て台詞を残すと、開いた床に据え付けられている梯子で階下へと降りていった。


 一方都合よく、とはよく言ったもので。瞬時に防御力を上げる――肉体の硬化をもたらす魔法を使用したとはいえ、アークの言った通りに「ヤバい!」の念がこもった左腕の強度で、ワンテンポ遅れてやってくる握り拳を耐えて見せた。

 流石に態勢は崩すがなんとか火球を左の手の平から顔面目掛けて放ち、その回避に気を取られた隙に立て直す。


 広くはない部屋を巨大な腕を飛び越え潜り抜けアークへと向かった2人はその間護衛と1on1×2、双方実力は高く2人の機動力を見切った末のつばぜり合いの間にアークは逃げてしまった。


「手荒なこと!」

「仕方ありません…」


 クロウ・リーヴ双方下がり、クロウは剣に青の、リーヴは拳に紫のマナを纏い始める。

 相手は待ちの態勢、おそらく彼らは俗にいう盾役なのだろう。ナノハの一撃を受け流したようなテクニックを両翼が準備している。


(【フラッシュアクエリア】)

「打ち消せ、【闇速拳】」


 水の刀身、光消す拳。得意技である速度を乗せて、受けきれない重さを出せばいい。

 ナノハが2人がかりで防がれたなら、1人ずつにしてハードルを下げよう。そう息巻いて振り抜く。


 高鳴る金属音、そして倒れる音。

 相手は洗脳されることで行動を制御されながらも実力を出させられている。

 手加減は作戦の成否に関わるかと割り切ったが、皮肉にもその状況が死亡ではなく気絶に留めさせた。


「……息はあります」

「よかった……」


 戻ってナノハ、事情は一応理解しているためごめんね、と一言呟いてから仕掛ける。


「【砕芽(バベッド)】!」


 巨大な刀身に緑色の、風の力を乗せたマナを纏う。

 クロウの使う刀身強化、今で言えばフラッシュアクエリアと同系統の技で突きを行ったが惜しくもガード、纏っている間に作られた巨腕のクロスに防がれる。


「【奮砕芽(ウェルベド)】!」


 技名を叫びながらもう一度。風の力を纏ったまま今度は斬撃バージョンで腕それ自体を斬ろうとする。

 目的が違えば威力も変わるか、少なくない量の血が飛び出る。

 しかしそれでもなおバッテンは崩れない。


「むぅっ!?【砲砕芽(スッポリア)】!!」


 ムキになってか砕芽もう一つの派生技、気の抜ける音の名称でその名の通りすっぽ抜けたように纏っていた風のマナを飛ばし突き刺す。

 しかし、質量も乗った斬撃・奮砕芽よりも軽い衝撃なのかそれでも余裕でガードして見せる。


「足元が!」


 しかし瞬時にターゲット変更、メインウェポンたる両腕がふさがれば他がガラ空きになる。


「お留守だよっ!!」

「…!」

「【霜突(バッシュピン)】!」


 体勢を地に()が着くかというほどに低く構え別の技でもう一度突く。ただし、今度は脚へ向かって。


 目論みは成功し常人程度の脚は挫かれた。

 ただし、その脚はナノハの攻撃の威力に耐えきれず両方とも胴から離れてしまった。

 ……こちらは元からバスターだった者とは違い性質は常人、容易く傷付いてしまう身体だったようだ。


 ナノハは前のめりに倒れる身体を勢いそのままに抜けることで回避すると、即座に追撃を行った。


「くらえっ!どりゃあーっ!!」


 先ほど言ったような剣の側面、フラーでの殴打を頭部に。

 彼の頭部には機械化されている部分があったが気絶と同時にそれを破壊した結果となった。


「…………大丈夫かな?これ……」


 ナノハは力が強い。その割に戦闘での加減が不得手である。

 目の前には広がる血液、それを見て罪悪感を抱く。



「え、えと……ぉお客様の中にぃ!お医者様はいらっしゃいませんでしょうかぁ!?」

「どうしました!?」

「ちょ、ちょっとその……これ……てへっ?」

「…………」

「え、へへ、へ……」


 見た目だけ見れば凄惨な様をかわいく誤魔化すナノハ。クロウは俗にドン引きと呼ばれる仕草に動く。


「……少し時間はかかりますが、治すことはできます」

「うそ!?」

「これでも治癒に類する魔法は得意なので」

「お医者様ぁぁぁ……!」


 フシュケイディアは医療の都市、治療に関しては通常の医術も魔法も秀でているという傾向にリーヴも含まれている。

 離れた脚を集めるとすぐに頭部から……ではなくまずは脚を、手を包む神聖な雰囲気の光を(かざ)すだけで完璧且つ速やかに繋げて見せた。


「……二人共、先にアークを。砕けた機械を埋め込まれた頭部…魔法だけではなく別途の細かい作業が必要です」

「助けるんだね?」


 回答はせず、いくつかの魔法を自身に重ねた後の手術開始という態度で示した。

 彼女はアーク・ミンツを憎んでいる、しかしそれでも目的はフシュケイディアの解放、ひいては人々の救出だ。目の前の重傷者を見捨てはしない。



「ハナ、一応扉から外見張ってて。無防備だから」

「それくらいはするさ!」


 ナノハは手術中のリーヴとイゴルスを軽く飛び越え、かつて扉があった場所に仁王立ちする。


「…行こう」


 そして、それを見たクロウもアークの行先へ、下の階へと歩を進めた。




「マナの収束いや脳への影響治癒の力で修復しながらの駄目だそれじゃ……」

「あるんだろ、洗脳された人を元に戻す方法」


 いくつもの画面、大型の入出力装置。言うなればコントロール・ルームの如き機械部屋。

 神秘の世界フシュケイディアに置かれるには場違い極まりない本拠地だ。


 それを扱いながら思考を繰り返すアークの真後ろに音もなく現れる。

 剣を首に突きつけるとこれまでの有様を元に戻す方法を、その首を材料として交渉する。



「さっきはあれでも殺す覚悟を決めていた。迷わないぞ」


 護衛を倒す時に使った攻撃はやむを得ないと考えての全力だった。

 奇しくもそれは比較的穏便な解決へと繋がったが、この交渉の失敗の痕には命が残る余地は無い。


「邪魔するな、気が散る」


 余地は無い、はずだったが意にも介さない集中っぷりに却って覚悟が(にぶ)る。

 手をのけられて2、3秒呆気にとられると慌ててもう一度脅す。


「警告はした!みんなを元に戻すんだ、取るぞ!」


 根が冷酷になれないのが見え見えで声もどこか上擦っており、そもそもが他人への関心が薄いと思しき自己中心的なアーク相手には全く通用していない。


 しかしアークは方法を教えた。


「……ちょっと考えれば分かるだろう…!カーコンの組成から彩化リド塩を抽出して、今回使った薬品の量3に対して1の割合にまで希釈してその水溶液にアドミ剤を……」


 それは命を天秤にかけられた恐怖から来るものではない。

 うるさいな、やりたきゃやりゃいいだろ、という煩わしさからくる対処であり、だからもうどっか行け!という態度である。


「……あとはそれをスプリンクラーか何かで散布すれば頭皮が吸収する。ほら、邪魔だからどいてくれ。これで満足だろ?」

「……リーヴに伝えるよ」



 クロウは剣を収めた。そして鈍い音が静かな部屋に鳴り響く。


「お前はやりすぎた、という言葉では表しきれない。でも、いやだからこそ……元通りになった人達に任せる」


 肩を鷲掴み振り返らせられたところで腹を殴られて気絶したアークに、その声はおそらく届いていない。


 審判を他人へ任せ怒りも抑えた拳の力は、その程度だった。

部屋滅茶苦茶になってそう

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