第11話「メディカル都市S.O.S.」 Part2
「初めまして、フシュケイディアでの組合長リーヴ・エイドスと申します」
「セレマから来た。サザン・エア・クロウ……専らクロウと呼ばれてる」
「私のことはリーヴで結構です。まずはこちらへ」
すらりとした褐色の女性がクロウを迎えた。
その女性、バスターズ連合組合フシュケイディア支部組合長リーヴ・エイドスはクロウを執務室に案内する。
外観内観共にログハウスのような温かみのあるフシュケイディア支部の建物は、街中同様不思議なほどしん、としており、ランプの灯の柔らかさとは真逆の冷たさを背負うように感じさせる。
「正直なところ、来てくれるだけで嬉しいです」
「もしかして、話はセレマの組合長から聞いてる?」
「聞いてはいませんが……セレマから来たということでなんとなくは」
手振りから座っていいよという意志を察知し、テーブルを挟んで置かれたソファの片方に腰を掛ける。
落ち着いた雰囲気のリーヴは紅茶を淹れながら、必要と判断した情報を分け与える。
「まず、今まで派遣されてきたセレマのバスター達ですが……中央医術研究病院に収容されています。」
「話が早いのは助かるけど早すぎて見逃した。収容とは?何か病気に?」
「いえ、よくは分かっていません……どうぞ、普通の紅茶ですが」
「え、ああ、どうも……」
茶を置き、座る。それに伴い一息置いた会話を再開する。
「中央医術研究病院…中央院は、大体ひと月前でしょうか。フシュケイディア中のバスターを重要事項として中へ呼びました。セレマから来た人々も同じように、ここへ来るより前に中央院へ来るように促され、或いは略取され……彼らは全員、未だ帰って来ていません」
リーヴ自身は終始冷静に見えるが、言葉尻に混ざる吐息から事の深刻さが伝わってくる。
クロウは黙って耳を傾け続けた。
「現在、フシュケイディアもまた治療専門のバスター及び少数の“元バスター”、そして私を残して中央院に囚われています。この不可解な抑留、もし出来るならば……」
「解放のため協力してって?」
「話が早くて助かります」
「そーですか…」
クロウは心の中で目を回す。
「実のところ焦ってはいるのです。ひと月前と言った通り余りに長い時が経ちました。保護しているという亜人の方々も心配です」
「亜人…そうか、フシュケイディアはそういう場所か」
「彼らのほとんどは中央院に保護されていたので……」
この世界にもファンタジー世界の例に漏れず異種族というものがいる。それは何らかの要因で通常の人間と異なる姿や性質を持った人々、亜人である。
フシュケイディアでは彼らを多数保護しているが、リーヴの言った通りその大多数は中央院に収容されている。
彼らもまた、人質のようなものである。
「……ひと月。今まで何か手段は取らなかったの?」
「理由は一つ……“戦力差”、これに尽きます」
「戦力差?」
「はい……何度か突入を試みましたが、都度バスターが大勢現れたことにより諦観せざるを得ない状況です。私が未だ広範囲作用の魔法を扱えないばかりに……」
「軍とは協力しないの?ここにもあるでしょ」
「確かに彼らも現体制に反感を持っています。ですがバスターの力には対処できません。それに、他地域の治安維持や魔獣駆除のこともありますから」
こんな時でも魔獣は放置するわけにはいかない。
なぜならば壁に囲まれているから安全というわけではなく、特別な素材や能力の無い城壁という邪魔者の突破を試みる個体も存在するためである。
また当然ながら、壁外のみでしか調達できない物というのも多分に存在する。医学の都市であるフシュケイディアでは薬剤の原料等、特に顕著である。
「うーん……あなたはここの組合長では?顔も知れて発言力もある……説得しようとは思わなかったの?」
「話しかけてはみました。しかしこちらの言葉は無視しあちらの命令に従うのみ」
「洗脳……」
「おそらくは投薬によるもの、精神や行動に直接作用する薬剤への知識は我々には無く、しかし魔法は使おうものなら味方だった人々が物量で襲い掛かる……」
「ということは?」
「元凶たる現都市元首、アーク・ミンツを直接叩く」
ひと月。人質を取られながらの雌伏には長すぎる。
その間一人でトライアンドエラーを繰り返していたリーヴ・エイドスは話すにつれ発話を微妙に加速し、語気を強めていった。
苛立ち、アークという者への怒りか自らの無能への呪いか、褐色の肌がより燃えるように見えた。
「貴方は中央院の妨害を受ける前に来てくれた。援軍を呼ぶにも連絡手段に乏しいこの状況では……」
「……待って、僕は妨害なんて受けてないよ?」
「私が見たのは都市庁の役員が指示するか睡眠薬らしきもので連れていく場面。貴方は遭遇していないのですか?」
「とても静かだったよ……?」
「まさかクロウさんは見逃されている…?いや、まさか捕らえるのをやめたということなの……?」
「こ、怖いなぁ…………あ!?」
呟きながら考察を組み立てようとするリーヴだが、クロウの方も懸念すべき事項に気付き大きな声を上げてしまった。
「ど、どうされました?」
「……ハナのこと置いてった」
「連れがいたんですか!?」
「ピンクと黒の女子だ……」
クロウは面倒な仕事になるだろうかと速やかに済ませるため、そしてナノハを振り切るために、この街が最悪の治安だと知る前に韋駄天の歩で組合へ向かった。
しかしそこに残されたもう一人の人物は、クロウの予測だとフシュケイディア内の各地を回っていることだろう。
「――っ!」
いない。
別れてからそこまで経っていないフシュケイディアの入り口付近、そこには黄色い花びらが少数ボロボロになりながらも残されていた。
どうも大きめの戦闘があったらしく、何か所かに物理的な傷やまだ固まりきっていない血糊が付着している。
「ハナ……」
花びらは見つけてすぐに、花びらの色のままマナの粒子として消えてしまった。
「……行きましょう」
リーヴは振り返り、拳を握り呟く。
「アークとの決着を着けます」
「でも相手の戦力は……」
「それでも、やるしかありません」
その固い決意に、クロウも応えないわけにはいかなかった。
「僕も…ここまでされたんだ。やってみないわけにはいかないよ…!」
リーヴは頷くと、ひとまずの作戦を話した。
「私は正面から引き付けます。クロウさんはその反対側……裏手からお願いします」
「分かった。行こう」
「元は同胞、殺すわけにはいきません。ただ一人アーク・ミンツを除いては……」




