第11話「メディカル都市S.O.S.」 Part1
1歩踏み入れるまでもなく、他と違うと感じられる神秘の地。
清浄なる独特の空気が、隠すに余りあるはずの都市という大きな単位を秘境という連想にまで転化させる。
「フシュケイディア……」
「ここなら……」
街中にも関わらず森の中にいるかのような雰囲気に包まれる、ここはジーディス大陸の五つの大都市の1つフシュケイディア。
大陸中央は黒溶神殿窟を挟んでほぼセレマの反対側に位置する医術の街だ。
「――他の都市との協力体制を?」
それはセレマにて組合長ペイガニーから伝えられたクロウへの依頼。
「かつて大陸内で争っていた各都市が魔獣の出現を受けて一丸となった……この歴史は知っているな?」
「正直忘れかけてた」
こないだ思い出したけど、と付け加えられたそれはクロスマギアの導入部。
魔獣が蔓延る前のジーディス大陸は5都市それぞれが敵対関係にあった。
理由は簡単に言えば領地、他者を蹴落としてでもより豊かな国になろうという企みの渦。
「無理もない、大変革でバタバタしていたからな」
「……各都市の関係って今どうなってるの?」
「ゲーム時代当時の協力関係のまま、特に問題ない。いや、むしろ拍子抜けしてしまうほど友好的でな……ほら、前も怯え過ぎと言われたと伝えただろう。話は大体決まっているようだがより綿密に擦り合わせるために何人かバスターを集めている」
「でも、それこそ外交職の人達で十分じゃないのかい?」
「いやなに、実際に戦場に立った現場の人々の目線を投入したいと思ってな。そしてご意見ついでに組合の各支部との連携も取っておきたい。既にいくつかのバスターを各都市に派遣していて、今回は実質的に第二次となる」
「現場の目線ね……、それ僕でいいの?」
そう聞くと柔らかだったペイガニーの顔が少し真剣みを増す。
「それなんだが……クロウ、君にはフシュケイディアに行ってもらう」
「フシュケイディアに?」
「この任務は本来模範的なバスター数人による使節団に4つの都市を巡らせる……それで十分のはずなんだが」
「何か不安でもあるの?」
むぅ、と確かに心配そうな声が漏れる。
「……フシュケイディア側の態度が妙なんだ」
「妙、か」
「これまでの会談にフシュケイディアも出てはいるんだが…曰く、心ここに在らずだという」
「実際に見てないの?」
「組合は都市政に介入しないようにしている。都市からの出資を受けているから強くは言えないし、それに都市庁を信用しているからな」
気の置けない友人でもいるのだろうか、信用を語る時真剣さが僅かに緩む。
「うーん…そういうものなの?」
かつての時代、都市運営に関わる人々が実質敵に回るような展開が全く無かった訳ではない。例えばバスターを暗殺者のような私兵として抱えようとしたり、依頼の内容に馬鹿らしい経緯があったり。
それを思い出すと、人は本来もっときちんとしているものだと思う反面、自分達の過去があくまでお遊びのフィクションだったのだなと、それはそれで少し寂しい気持ちになる。
「本題に戻ろう。フシュケイディアからの外交官はまるで抜け殻かのように虚ろで、更に事前に送ったバスターとの連絡も取れなくなっている」
「それを力づくで解決してほしいの?」
「力づく…とは言わないが。ただ、何かがおかしい……だから実力のあるお前の出番ということだ」
「早速懐刀を抜くって言うんだ」
「道具のようには使わないよ…」
冗談の皮肉だったが、ペイガニーの中のやさしさ故なのか本気にしたかのような反応だった。それによりクロウも少し気遅れしてしまう。
「……で、具体的にはどうすればいい」
「それとなく見て回ってくれればいい。ただ内部調査の権限は無いから……透明になって入り込むとか」
「……あんたもバスターだよね?」
「そうだけど……」
「いや、いい」
「?」
透明になり調査する。それはまるで異能を悪用するようで気が引けた。
ペイガニーがそう思わないのは彼が純心でものを言っているからか、クロウが深読みしただけだからなのか。
その両方がクロウの天辺に候補と浮かび、いや、いいと首を振る。
「他にやることは?できる限りはやってみる」
「そうだな……バスター能力行使制限の詳細な取り決め、納入される物資の種類と量の調整、保険制度ディスカッション、これまでの活動からのフィードバック反映、それらを纏めた各種書類の記述と整理にああ他にも諸々……」
「ぼくこどもだからわかりません」
「遠慮するな、社会勉強にぴったりだぞ。……ちなみに何歳なんだ?」
「設定上17」
「設定上……」
やりかけの仕事はまだいくらでもあるが、ひとまずはその偵察様の任務を引き受けることとした。
「まぁ半分は冗談だ。ちょっと行ってあっちの組合長に外交の進捗聞きさえすればそれでもいい。事務的な方はね」
「スパイ活動なんてすることになるとは思わなかったよ。早速行こうかな」
「他のバスターのこともある。早く取り掛かってくれるのは助かるよ」
「じゃ、また」
そして、ペイガニーの執務室を出る。
「クロウ、やぁ!」
そして、すぐにナノハと遭遇した。
「ん。じゃあね」
「ちょちょちょちょちょちょ!!」
自然に流そうとしたものの止められてしまう。
妙に強い握力を含めどうしたものか、とまさしく親友のために困っている。
「隊列の編成を進言しますリーダー!」
「暑っ苦しいっ」
「嫌?」
嫌かと聞かれると、仕事がスパイじみたもののためここで断るべきだろうという考えが数秒後に浮かぶ。
だがその数秒までの間物理的にぐいぐいと迫るナノハにたじたじとなりつい、断れず素直な感想を述べてしまう。
「…匂い以外は」
「よっしゃ行くぞー!!」
「えぇー……」
一つの要素が浮かびそれに関する言葉を述べたただそれだけの単純回答、しかしそれに気をよくしたらしいナノハはフシュケイディアまで付いてきてしまうのだった。
これによりクロウにいいことがあったのだとすれば、せいぜい道中の話し相手にはなってくれたという程度である。
「それで、ハナはどうするの?」
クロウは目的があるが、ナノハは勝手についてきただけである。
その目的をナノハに話してはいないが、ナノハ側の動きも念のために把握と訊いた。
「ん?んー……クロウについてく!」
「今回は一人!」
「えぇー……」
少し悩んで、同行の意思を示す。しかし都合上単独でいたいクロウからは強く断られてしまう。
「僕は仕事で来たんだ。邪魔しないようにしといて」
「そんなこと言ってたらモテないぞー」
「モテなくて結構。十分だよ」
「はーぁつまんない!」
急ぎ足で組合のフシュケイディア支部へ去るクロウは速度を上げナノハを振り切った。
「……ぶらぶらしよっかぁ」
ぶらー、ぶらー、と鳴きながら、ナノハは不気味なほど静かな街……その奥へと消えていった。




