第10話「戦士を名乗る」 Part1
謹慎期間終了後まず向かったのは組合だった。
あれから何か変わったことはあったかと気になる心はあったものの、顔を出すのは少々怖い。それでも行くところといえばそれぐらいのものだった。
2週間ほどでは誰もバリア破壊の件を忘れることなど無いだろう。むしろ歴史に刻まれかねない。背中に冷めた視線を幻覚してしまいそうな後悔を自らが抱くことすらある
それでもバスター業を続けると決めたからにはそんなネガティブに沈んでいられない。気にせずに、ただ、専念するのみだ。
……なお、ペイガニーには案の定「謹慎って言ったよね……?」と疑問を呈された。
「なんだか久しぶりですね、クロウさん」
「そうでもないよ」
なんとなく、掲示板ではなく受付のクリケを訪ねた。
久しぶりと言うほどではないとは思ったが、なにぶん世界が変わってから――各々の真の人生が始まってひと月強しか経過していない。相対的にはその言い方もアリだろうか。
「何か変わったことはあった?」
「てんやわんや、です。大変革の影響で各地から様々な要請が届いており…掲示板の数を倍に増やしたぐらいには」
「ここ最近で、急に?」
「ある程度落ち着いたからこそ、そしてそれと同時に“赤い虹騒ぎ”による不安の励起のためとシアーズさんは分析していました」
「あの人絶対ここのブレーンにするべきだよ」
「本人が嫌と言っているので……」
「そう……それで、消化はされてるの?」
2週間前、やる気を失った者が多くたむろしていた。
それに、バスターの仕事を辞めた者もいるだろう。多くの要請、依頼が届いているのだから、人手は足りないかもしれない。
「意外とスピーディーですよ?積極的にやってくれる人もけっこういますし、セレマトッププレイヤーのあの人なんか……」
「あの人?」
「ええ。あの人です。幻の最強バスターと噂されてるあの人です」
「……わかんないや。名前は?」
「それが、この組合にも全く顔を出さないぐらい幻なので……」
「いるんだ、そういう人」
現実化に伴う様々な問題ごとが速やかに解決されていくのはいいことだ。
一旦見回してみると、2週間前よりは活気があり、大変革の後初めて来た時のような雰囲気…そう、ゲーム時代に似た賑やかさがあった。
それは依頼が多くててんやわんやというものとは違う、また仕事の選択が自由だからこその余裕感とも違う雰囲気。
流石にバスターの数は少なくなっているのが寂しさを感じさせるが、それでも、あのバリア破壊に意味があったと思えるのはクロウには慰めだろう。
ただ、見回したのは、件の幻とやらを探してのことでもある。
いくつか候補が記憶上に浮かぶが、やはり実際に会ってみないことには分からない。プレイヤーの影響下に無い本来の意思が如何なるものかを知らないということが多いのも輪をかける。
とはいえ、他人を気にしすぎる趣味が薄いこともありその偵察は一瞬で解散となる。
「…クロウさんがあの時飛び出してから、何かが変わった気がします」
「気のせいじゃないかな」
「そうでしょうか?皆さん顔色がよくなったと思いませんか?」
「人のカオなんてジロジロ見るものじゃないし。壁がなくなってホンモノの太陽浴びたからじゃないの」
「意外と詩的なこと言うんですね」
「揶揄ってるの?」
「じゃあ、そういうことにしておきますね」
「幻にしといてよ折角なら」
段々気恥ずかしくなってきたクロウは足早にして離脱し、掲示板を探ってみる。
「よっ」
「……」
あの時クロウを止めようとした一人である。クロウと知り声をかけるが気まずそうである。
「俺はあん時自堕落だった。他の奴は知らんが少なくとも俺はただ楽したいだけだった」
クロウの方を向かず、むしろ背を向けて独り言を聞かせるように話す。
クロウは彼を無視して壁の掲示板を物色しているため、恰好は他のバスターに打ち明けるようになってしまっている。
「あんたを止めないとその……楽な生活が終わると思っちまったんだ。でもそうやって外に出て追っかけてみた時……火が、なんというか……付いて……」
「クリケさーんこれ受注されてないのだけだよねー?」
「あ、はいできそうなのどうぞー!」
「……相手にもされてねぇや」
「僕に言ってたの?」
独り言の男はそれを覚悟していた。しかし、実際にそうなればしょんぼりとはしてしまうものである。
「……楽な生活ができるなら、それもいいと思うよ」
「へ?」
「ただ、踏み出したいと思えたのなら……そのまま駆けるのも悪くない。好きなことをやればいいんじゃないかな」
クロウもまた、彼に背を向けている。
「……迷うなぁ、はは…!こんな時代じゃあなぁ……!」
(それっぽいこと言ってみたけど、いいんだこれで…)




