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第9話「十字星に花束を」 Part4

                  ☆

「そうだね、仕方がない…渡すよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ノザンの表情がぱぁ……っと明るくなる。つい先ほどまで同情的なものを抱いていたはずのクロウも、もう不気味さしか感じなくなっていた。


「お前が不審で、今有る危険であると疑っている。だからだ。本当はユウとの思い出のひとつも手放したくはない」

「結構です。僕はそれで満足ですから」


 聖人君主のようにはにかみは絶えず、張った気を緩めればすぐに心を許してしまいそうだ。


 だが、これさえ、この小さなペンダント一つくれてやればそれで解決する。

 ウインドウを通して取り出した遺品を、そう思い、握る。



(〔悲しいよ、こんなの〕)

(〔だからこれはゲームなんだって 感想ならまだしもそんなに入れ込んだらヤバいよ!〕)

(〔私がクロウ動かしてるのに、結末変えちゃダメなの!?〕)

(〔ここまでゲームに疎いとは〕)

(〔ドラマとかと違うんでしょ?〕)

(〔いくら自由度あるって言ってもストーリーはそうじゃないんだって!〕)


 クロウがユウを想うのは、彼女の熱量に当てられたのがきっかけだ。

 それは見つけた“好きな作品”への熱中ということだけではなく、この形代を手に入れた際のことを含むユウの高い感受性とやさしさの表明も、クロウの心を溶かす熱となった。


 手の中から伝わる思い出が、在りし日の情景を浮かばせる。

 この汚された結晶体を、惜しいという感情と戦いながら、拳をほどいて差し出した。


「……」


 なんらかのマジックスキルなのか、形代は宙に浮き、ノザンのもとへと吸い寄せられる。ノザンは結晶体をやさしく見つめ、時に慈悲深く瞬きを行う。

 形代はノザンの出した手に収まると、俄かに輝きを強め、


「あっ……」

「なっ…!」


 何処かへと飛んで行ってしまった。



「こ、これは……」

「……なんてものを仕込んだんだ!!」


 恐れはどこへやらと激昂し再び詰め寄る。手放す覚悟を踏みにじられたと言わんばかりに。


「あれはおそらく僕ではなくなりました…!少し長く離れすぎたせいで、僕のことを戻るべき家ではないと判断したのでしょう…!」


 想定外と焦るノザンも早まった口で釈明する。


「ならもうお前に未練は無いな!?早く空の彼方にでも飛んで帰るといい!」


 飛んでいった方向へと少し乱暴な動きで向き直り、垂直にジャンプして屋根に乗る。


「何をする気ですか…!?」

「ッ!?」


 マボーグを出しウインドウを閉じると、ノザンのまるで瞬間移動のような突然の出現に流石に驚き、つい次の行動を説明した。


「形代を追うんだ、こんな異常事態を放ってはいけない!」

「クロウさん!」


 興奮した様子そのまま、クロウはマボーグで駆け出していった。

 ……本音は、諦めきれないということなのだろう。




 加速する中で見つかる、流星の如き形代の光。その飛んでいく方角にクロウは覚えがある。


「“ポウラの麓”……」


 他でもない、件の始まり。

 正確には「無銘遺跡」と呼ばれるエリアで、古代の住民が暮らしていたとされる住居遺跡だ。

 この土地自体は特別な存在ではなく、イベント期間にて舞台とされたのみである。


 ここでは天文台を思わせる施設が1つ、形代がそのこえを拡散させた現場がある。

 特別なアイテムが存在するわけでもない、気を引く隠し要素があるわけでもない、ただ天窓が在ったであろう天井の大穴が虚ろに有るのみの誰も見向きもしない一戸建て。

 大陸の中心でも何でもない場所故に、極星の“麓”と呼ぶにはいささか乱暴である。


 マボーグを降りてその中に入ると、やや雑な作りながらも古代と云うには似つかわしくない望遠鏡のような三脚オブジェが目に入る。

 これを用いてポウラなる遠方の光を始めとした天空を観察するのだろう。



「あった……」


 かつて形代を保存しようとした箱が朽ちかけた机に置かれている。北極星の形代はその直上で小さな白の輝きを、しかしやさしく包まんとするように放っている。


 恐らくは失われたはずのマナによるもの。現実化した世界に浮かぶ幻想的な六花は、魔法が常識の世界ですら異彩を放つように思えた。


 移動中に冷えた頭が見つめた景色は、これこそがあるべき姿だったのではと拘りへの悔悟を感じさせる。


(あの時、違和感はあった)


 当事者が現地で当時のことを思い返す。あの時、拡散して消えたはずのマナをユウは懸命に掴み取ろうとしていた。

 その行動は自らの思考とイコールにはならず、無理矢理操られたような感覚を生じさせていたと彼女は記憶する。


 本当ならば、使われたマナは効果を失い大気の一部として次の活性化を待つ。しかし、クロウの手には微かに暖かさがあった。

 それは運動の結果とも言えるだろうが、もしかすると……。


 大変革にあたり過去を創造された例も、例えばそれこそ両親存在の発覚がそれだ。かの行いが過去へ遡って実を結んだとでもいうのだろうか?

 クロウは、この大胆な考察をこじ付けだと自ら一蹴したくなった。我ながら夢追い人のようだ、と。



「君も」


 夢想家ついでにと、浮かぶ形代に話しかける。


「君も、ポウラに届けたかったの?」


 結晶体は応えない。あの時のように記録された音声を流すようなこともしない、ただ浮かんでいるだけの沈黙。


 当然だ。そのような効果を全て出し切ったから記念品として手に入ったのだ。それが物語だったのだ。



(少し、悲しいな)


 目前の形代を手に取る。それでいい。……だが、なんとなく、手が出ない。


 何か躊躇のようなものが阻害している。一歩動くことすら億劫おっくうな、動作移行の迷い。



「……ふぅ……!」


 もういいと吹っ切るように大きく息を吐く。そしてついに行動に出る。


「……【トルン】」



 分かりやすく名称を言い放ちながら風を起こす。いや、形代へ向かって手から一直線の細い旋風を放った。


 旋風は形代を芯で捉えるが、吹き飛ぶことも破砕されることもなく、平然と浮かび続ける。ただし、形代の後方には風が通らなかった。


「なんとなく、こうするのがいいと思ったんだ」



 ノザンによれば独自の意志が宿ってるという北極星の形代。その意思に向かい再度話しかけた。


 かつてのユウの影響か、遺跡と形代が織り成す独特の雰囲気からか、悟ったかのように協力的行為を()へ捧げる。


「きっと、ポウラという子には届かない。でも、やってみたいんだ」


 やってみたいんだ、と文字だけならば自分の希望の様に述べたが、その実、それは形代に宿る意思を理解したような呟き方だった。


「もし、あの……ノザン。彼に会ったら伝えてくれないかな。言い過ぎてごめんって」


 形代は、沈黙を守っている。



「落ち着いて考えたら、ユウなら……あんなプレイをしたユウなら、迷わず渡したんだろうなって思ったんだ。勿論ノザンが僕らの危険となる可能性だって、ノザンは考えてないだろうけど、僕はストック…使用人のことも考えないといけないからどうにかしなきゃいけない。分かってくれ」



 クロウは独り言のように話しながら形代に背を向けて座り込む。いくら意思があるとはいえ、無機物相手では小っ恥ずかしいところがあるのだろう。


 いや、それだけではない。


「失礼なのは僕の方でした。僕は人との関わりに慣れていないとは自覚していました。それでも土足で踏み込み過ぎていた」

「お互いに思いを押し付け過ぎたわけか。 ……こういうのはちょっと納得できないところはあるんだけどね」

「結局は譲らない。その意志も、素敵だと思います」

「何でも肯定してこられると……なんだかなぁ」


 クロウは姿勢を特に変えず、喋り続けた。


「僕は今までこのクロスマギアという世界を見守っていました」

「……」

「しかし、もうじき僕はこの世界から消えて無くなる」

「フゥー……」



 クロウは少しの間だけ話を止め、一息ついた。



「変わった世界での僕は幽霊のように不安定で、ここにこうしているのを、誰にも見られることは無かった」

「……」

「クロウさんの“北極星の形代”に僕の分け身があったから、クロウさんには、僕がここに居る……それを知ってもらえた」

「……忘れない、か」


 クロウは形代から、微かに声を聞いた。


「僕はポウラにはなれない。でも、この形代を()()()()()ことはできる」

「短い間だったね」

「色々、ありがとう、ございました」

「形代は置いていく。気が変わらない内に持っていくといい」

「……はい」



 クロウは、ポウラの麓の宝と奇跡について思い出した。



(「ポウラの麓には宝があると伝わるが、恐らくは実際に財宝だったのだろう。文献から読み解いて特定した場所に荒らされた形跡があったんだ」)


(「でも不思議なことに、その遺跡の文化から予想される骨董品が出回った話はどこにも無いんだ」)


(「彼本当に金銀財宝じゃないかと思ってるけど、きっと抽象的なものだったんじゃない?それか、ただの石とか」)


(「いや、封印されたユーレイかも!」)



(〔変えられないって、フィクションでもこんなに悔しいんだね〕)

(〔そうかな 進めてみな〕)

(「すまない、俺の魔法に欠陥があったようだ」)

(「いいんだ、私の自己満足でしかないことだったから。それに――」)

(「あの声は、私のものではなかった」)



「貴方との散策……決して忘れません」

「……いいよ、そんなの」

「では、さようなら……」



 振り向くと、六花の結晶体はどこにも無かった。


 ただ、桃色の小さな花の束が、そこに置かれている。



「……律儀なんだから」





 その日、遠いどこかで巨大な爆発が起こった。





~第9話「十字星に花束を」~


――――――――


マボーグを出しウインドウを閉じると、ノザンのまるで瞬間移動のような突然の出現に流石に驚き、つい次の行動を説明した。


クロウエア:「形代を追うんだ、こんな異常事態を放ってはいけない!」

北極星:「クロウさん!」


興奮した様子そのまま、クロウはマボーグで駆け出し



クロウエア:……

北極星:……

クロウエア:エンストした

北極星:結構繊細なんですね、コレ……


――――――――



他の回と完全に切り離された不思議回をやってみたかったのだ

星って、なんかいいよな

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