第8話「ドレスアップ大作戦」 Part8
「……1分、もう終わっちゃったな」
あまり速く走れば、先ほどのように突風やら衝撃やらが舞うことになる。そのため大幅に速度を落として追跡した。
しかしそれでも健脚であることには変わりなく、1分と経たずに賊は捕縛された。
「なんだよこの服、やっぱアイツが叫んでた通り偽物なのかよ!?」
そしてぼやく賊の言葉で、昨日の騒動の元になった攻撃力と防御力を上げる服はどうにかしてこの男の手に渡ったのだと知る。
「本物だと思うよ。持ち主がバスターというのもあるけど、僕一度人に試させてみたことがあってね……」
「おいデュッカ!!おい、どこだよ!!」
途中別の道へ行ったもう一人のことだろうか、固有名詞を唱えはじめる。しかし、返事も姿も無い。
「その人は装備の力を何一つ使えなかった。装備の効果はバスターしか使えない」
「じゃああいつの言ってた秘密兵器も」
「…何それ?ああ、一定時間透明に……ぶっつけで使ったの?」
「何で、知って」
「あれ、確かに何で……とりあえず、もう済んだっぽいから解除しておこう」
クロウの使うマジックスキルの一つが、音も光も何も発することなく、この街のどこかで解除された。
他のどこも騒ぎになっている気配が無いことから、それは普通に過ごしていれば見つからないような死角にて敵を追い詰めたのだろう。
「化け物か……」
「敵ってそう見えるんだよ」
そうして男は、クロウから事情を聴いた兵士に連れていかれるのだった。
(少し汗かいた?いやこれまでにも変な汗たくさん……ん?)
《それではこれにて、カーマインクロス、服屋マーガレット、ダイニーボタン3店合同のお披露目会終了とさせていただきます!!》
進行役の声が聞こえた。どうやらイベントは終わりを迎えてしまったらしい。
心地よくはなかったといえ、いざバックレてしまうとむしろそれによる不安の方が高まる。
とりあえずクロウも戻ることにした。
「みんな! あれっ?」
犯罪者が出たこともあって急いで帰って来たクロウを勢揃いで迎える。盗人の形跡も見られず無事そのもの。
が、一人多い。
「男の人…もしかしてあなたが」
「ああ……アリエの兄のディレク。初めまして」
すっきりとした好青年…だが、顔が兄妹と言うほど似てるようには見えないのは、深く考えずに作られたNPCだったからだろうか。
「何やってたのクロウ、急に飛び出して」
「う……ごめんごめん」
「店の前に大きなヒビ、あれでは営業に差し支えるだろう」
「あぅ、う、ごめんなさい……ちょっと敵襲が……」
「あれを元に戻すまでが決着だ、私も手伝うから行こう」
「でもつまり…何かあったんでしょ?私手伝うよ!」
「いやいや初めに誘った元凶は私だし私も……」
ストック、ナノハ、アリエと続いて道の片付けと補修を手伝おうとする。
「いいや、アリエ君はダメだ」
「えっ?」
「折角の兄妹水入らず、二人きりで話すといい」
「ストックさん……」
ほらほら、と自分ごと追い出すようにクロウとナノハを連れていく。
「…いやまず着替えよう?服を汚してしま」
「君達なら魔法での修復ぐらいできるだろう?クロウに至っては実演もしてくれただろう」
「それはできることの確認みたいなもので……」
「それに、服はくれるそうだ。…安心して。洗濯は私がするからさ」
「はあ……あ、そうだ」
ただ、その前に。
「ん?」
「何があったかはアリエから聞いてる。でもだからこそ聞きたいんだ」
もし戻ってきたのなら、クロウには聞きたいことがあった。
責任追及の後ではあるが、聞いてみることにした。
この時代を生きることにおいて、一つの捉え方。
「自由は…見つけられた?」
「見つけたと思ったけど、少し違った」
決まり悪そうに委縮する。
当然だ、解放を求めていたとはいえ妹に強い言葉を吐き捨てて去った過去がある。
「ああいや、責めようとしたんじゃないよ。大変革って言うぐらいだ、僕達も本当にやりたいことを見つける方がいい」
「そうは言っても、一度突き放してしまった場所だし…」
「もういいって言ったでしょ?たまに顔見せてくれるだけで私は良いのだ!」
クロウが戻るまでに全ては終わっていたようだ。蟠りどころかアリエは嬉しそうにしている。
「じゃ、行こうか」
「うぇー」「うぇー」
同じような鳴き声で二人は連れていかれ、店内はアリエとその兄ディレクの二人きりとなる。
「……だけど、この街に住んでるわけじゃないのによく気付いたね」
「ああ、たまたま近くにね。友達にバスターがいるんだけど、彼の用事の手伝いに来てたんだ。そしたら突然、大きな音が聞こえたからなんだろう、って……」
「大きな音……」
「お待たせしましたとか、大きすぎたとか」
「ああ、司会の…凄かったなぁあれ」
「音をたどってみたら僕がいたここだ」
「何が起こるのか、何が繋がってるのか……ホント分からない世界だね」
「ああ……でも、僕はその“繋がり”を……束縛を、怖がった」
「もういいよって、言った」
「そうだったね」
外はもう既に道の修復を終えている。3人は1分と経たずに戻ってくることだろう。
「アリエは…僕がいない時どうだった?」
「……みなまでゆーな」
「…そっか」
「――終わったよ、無事元通りだ」
「疲れた……」
「あれ一つ直すのにこんな根性いるなんてぇぇ……」
「お疲れ様、3人とも」
「私は少し掃除をしただけだがね」
クレーター状の破損は直径2mほど、それに加え長いヒビもいくつか。
それを魔法をかけて即座に回復するような直接的速効修復の力は無いが、水のスキルやマナの糸を生じるスキル、周囲の物質を固めて利用するスキル等を応用して蓋を接着するように補修することができる。
ただし生命体の回復力を増幅する回復のマジックスキルとは違い繊細な操作力を求められるようで、使った時間に対してかなりの疲労を見せている。
「トコロデー、プロのモデルさんから見てクロウはどうだった?よかった?」
「クロウ?この人の名前?どうって……着こなしてるなぁって」
「複雑だけど…どうも」
通して気の乗ってはいなかったクロウだが、褒めてもらえてまんざらでもなくなっている。素直に送られた評価に声は甘くなる。
「それで、これからどうするの?」
「新しい土地に住む場所も仕事も作っちゃったからね、色々義理もあるしこっちの仕事に戻ることはできないよ」
このことはアリエも予感はしてたが聞いたのは初めてらしい。身体が若干ブレる。
「けどたまには戻るよ。兄として、そのぐらいはしてやらないと」
「それがいい。きっと」
「本当に、絶対だよ!?」
「ああ。あっちのもの、いっぱい買って持ってきてやる!」
「私も行く!兄さんの友達の分もいっぱい服作って持ってく!」
「――ええとええと…あ、あった!」
兄妹の約束の合間にナノハはウインドウの倉庫を素早く捜索し、何かを取り出した。
「二人とも、1足す1はニーだよ!」
カシャッ、と軽い音が重なった後に、ナノハが抱えるように持つ大きな長方形から精巧な“像”が2枚出てくる。
「ナノハさん、それは……?」
「アルキテクの試作型インスタントカメラ!イベントっていうのでちょっとねー…ほら、アリエとお兄さんで、1枚ずつ」
像を映した写真は両方アリエとディレクを撮らえている。写真というものが普及していないことから二人は不思議そうにそれを見つめる。
……1+1の答えを撮影者自身で割り出したのもあって、写真の中の二人はポカンとしている。逆に言えば、表情がよくわかるぐらいには綺麗な画像だ。
「これ、絵……?」
「まるで風景をそのまま切り取ったみたいだ」
「離れていても、これ飾ったら兄妹一緒にいるみたいでいいでしょ?あ、これあるからって帰るのサボらないでね!」
写真をネタに釘をさされるディレクに、本人とアリエは「ははは…」と苦笑を浮かべた。
「……何から何までありがとう、クロウ、ハナ、ストックさん」
「とりあえずアリエ君はこれから従業員の確保だね。そうすれば私達を無理矢理動かす必要はなくなる」
「うっ……ゴメンナサイ」
「ま、そこそこ楽しかったからいいんだけどね。暇だったら遊びに来るよ」
「是非」
「ア、アリエ?」
二つ返事の如き未来への歓迎は、ディレクの記憶にあるアリエの姿とはかけ離れていたようだ。
「ふー、じゃ僕達も」「さて……」
服屋騒動は一件落着、クロウとナノハも肩の荷を下ろすように……
「次はクロウの番だねっ!」
「ぁぇ?」
気を抜いていたため、素っ頓狂な声が出る。
「こういう瞬間はそうそうないからね……撮れるうちに撮っておくよォォォ…!!」
「ああ、そ、そろそろ買い物、そう、野菜のどれかが切れてて」
「切れてないよ」
「ストォォ……ック……」
からかう風ではなく特に何も考えてない反射の一言で逃げ道は潰れた。
だからと背を向け外へとは、強い力で引っ張られたことでかなわない。
「さぁーあ逃げられんぞぉークロウ様ー……!」
「圧が圧が圧が圧が圧が!!」
先ほどは抱えるようだった大きな写真機を、片手で……いや、片手の握力で制御している。もう片方の腕はクロウの背に回り自分を含む2人を映す自撮りの恰好となる。
「ほらほらもっと寄って!」
「よせ、僕は嫌……」
カシャッ!シャッターが切られる。
「永久保存版!かわいークロウとの自撮りスクショだー!!」
クロウは不運な2日間だったと思い返しながら、ナノハの享楽に暫く付き合わされた。
そうして長い午前を終えた3人は、その後お披露目会の影響で突然増えた客への応対を一時的に手伝いつつ、元のなんでもない日常へと戻っていくのだった。
「……」
執務室。開きっぱなしの彼の机の引き出しには、どこかの裏路地を映した写真が収められている。
「許してくれ、イッカ。都市の混乱を防ぐためにお前を切り捨てたことを」
写真下部には一欠片の、光を放つように白く輝く小さな粒子が映っている。
その写真を彼は封筒に入れて小型の金庫の中に伏せて封じ込めた。
「いつか、迎えに行くからな……」
裏には丁寧に、“第一級機密情報 00-00-26”と書かれていた。
~第8話「ドレスアップ大作戦」~
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像を映した写真は両方アリエとディレクを撮らえている。
……1+1の答えを撮影者自身で割り出したのもあって、二人共ポカンとしている。逆に言えば、表情がよくわかるぐらいには綺麗な画像だ。
服屋:「これ、写真……?」
服屋兄:「まるで風景をん?アリエ?」
服屋:あっごめんちょ自然に言い間違えた!
クロウエア:これ判定は?
菜の花:んー……ナシで!!
服屋:あちゃー
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そういや人より描けるか程度には絵描けるから入れてみるとかとも思ったけど面倒なのでナシ!!
ちゃんと描くと一枚一ヶ月とかになりそうなのと、あと指描くともれなくバケモノになる




