第8話「ドレスアップ大作戦」 Part4
……そんなことを、ふと思い出した。
長期間行方不明の家族というのは重なる。どこか納得がいってなさそうなところも。
「分かった」
「クロウ!?」
「着ればいいんだろ」
「や、やってくれる?」
「まぁ……明日もどうせ暇だろうし」
「クロウにどういう風が吹いたのかは知らないけど……」
(情が湧いてしまった、とは言えない)
「やるなら私も手伝うか!」
「じゃあ明日に備えて流れを叩き込むからね!」
「お手柔らかにね」
どうにも甘くなってしまった。厳しく心掛けたつもりも無いが。
「クロウ、ハナ…!」
「ハナはあだ名だよ。私はナノハ」
「あっ、私はアリエ!服職人のアリエ・マージュ!よろしく!」
こうして3人は明日に控えた合同お披露目会へ向け、速やかな訓練を始めるのだった。
「もっと指先伸ばして!神経を先っぽまで通わせるんだ!」
「くっ…こう…っ?」
「恥ずかしさは捨てて!人に見せるんだからシャキッと!!」
「お披露目会ってこういうものかなぁ!?」
「さぁ?初めてだし」
「さぁって……」
「いいっすね、ファッションショーって」
「な?」
「引き受けるんじゃなかった……ッ!」
しかしクロウにとっては、お手柔らかと感じるような企画とはならないようだ。
「……って、大変革と同時にいなくなったんなら、なんで合同の企画なんて引き受けたのさ。」
雰囲気に流されていたが、改めて考えると兄が出て行ったのは1か月近く前のことである。
なのになぜ合同の企画を引き受けたのか?アリエはそれを指摘され狼狽える。
「えっ、あ、あー、その、こういうのに積極的にならないとさぁ、売り上げとか気になる、じゃん?」
「……そういうもの?」
「本当は帰ってきてほしいって思ってたから、やろうって思ってたんでしょ?」
「うっ」
「おや図星」
ナノハが勘で言った、本心は兄にあり。的中したようで少し驚く。
アリエは恥ずかしそうに吐露をする。
「このお披露目会のことが兄さんにも知れたら、帰ってきてまた私の作った服を着てくれるかな…って」
「やーっぱ諦めきれてないんじゃーん!」
それでいいじゃん、といった明るい風味でツッコミを入れる。
「モデルの人を探そうとはしたけど、なんか兄さんのことを思うとね……だから結局、クロウに無理にお願いするまで何もできなかった」
「後先考えないね、アリエは」
格好つけて自分を魅せることに疲れたか、座り込みながら話に加わる。
「返す言葉も無いや……」
「まぁ手を貸すと決めた以上やれることはするよ」
「うん。ありがとう」
無理矢理なスカウトだったのが今は昔、クロウ&ナノハと身の内を明かしたアリエの間には一種の絆のようなものが出来つつあった。
アリエの生い立ちと目的をクロウが憐れみ、ナノハが理解したことで歪なピースがパズルを完成させる。
各々の向く方向はバラバラだったかもしれないが、二人がアリエのベクトルを迎えに行くかたちで友情というものは組みあがっていき、篝火を支える三脚を作り上げるように重い気持ちが軽くなる。
「何でも言ってね!」
「じゃあ僕と役代わらない?」
「私じゃ男物は無理だよ~」
「僕が男物担当みたいに」
「レディースもあるよ」
「ほうほう」
「私が」
「あれ?じゃあ私は……」
「裏方かな」
「……“二人に”、やってほしいって、言ってた、よね?」
依頼内容を改変するアリエに徐々に迫らんとするナノハ。威圧感が大きい。
「そ、その…出すやつ大きさ合わない……主に胸辺りが……」
「…………」
一気にずーん…となる。そんなにやりたかったのか、と思えるほどに真っ白く見えた。
除外された理由は体型。アリエにはナノハが自分と概ね似た背に見えたようだが、ナノハのバストサイズが裏路地の暗さと暗色のドレスのせいで分からなかったようだ。
「ハナ、重要な役だよ?複雑な手順で着る服に、複数のアクセサリーを付けることだってある」
「それを私の身体に付けたかった……」
「じゃあ僕と代わる?」
「でもクロウがファッションショーしてるの見たい……いい感じのポーズなんやかんや見れなかった分……」
「まだ言ってるだと……」
一昨日の暴走における、一本目の勝負のことである。
ただ、かわいさを求めたその時とは違い、アリエが求めているのはかっこよさだ。例えば頼りがいのある瀟洒な男性や、わんぱくで洒落たシティ・ボーイを作った服で演出する。
アリエのイメージした魅せ方には可愛らしさは含まれていないというのだ。
「残念だけどハナ、裏方は裏方でけっこうやることあるから……」
「ミレナイ?」
「……見れないことはない、かな……」
「人手増やせー!!ローキを呼べー!!」
「ろ、ロウキって何!?」
「あ、ストックに遅くなるって言っておかないと」
ナノハの自由さに振り回され始めたアリエを尻目にストックのことを考えるクロウ。と言っても現在は直接話す以外の手段が無いが。
そんな賑やかな事態にもなりながら3人、いや“4人”はお披露目会の当日を迎えることになった。
既に大型の舞台やバナー、別の店による背景セットが用意されており、何が始まるのかと興味を示す人もいる。
クロウらは彼らを避けて、邂逅の際と同様に裏口からアリエを訪ねる。
「お!アリエお姫様みたい!」
「いいでしょ、私のとっておきその2!」
明るさをプラスする黄色のドレス。説明の中でクロウとナノハには1度見せているが、着て見せるのは初めてだ。
お姫様のようとは称されたものの儀礼用というわけではなく普段使い想定であるため、色は派手だがフリル等の装飾は少ないシンプルなもの。生地自体も比較的安価なものだという。中へ招きながらそう解説した。
しかしながらそれだけではこういった場で披露するには地味と考えてか、ネックレスやブレスレット等の装飾品や外付けであろうをレースを多く取り入れている。
「その1は?」
「それはクロウが着…あれ?そっちのひ……と……」
「やぁ、君がアリエだね?よろしく」
ストック、合流。
「え、あ、え??」
「あっこの女ほっぺなんて染めてやがるぞー!!」
「……ストックっていう。僕の家の使用人やってる。事情話したら手伝ってくれるって」
「今日は君に召し使えることになった。ぱっぴー気分でヨロピクねん?」
「わーおやっちゃった」
「ストック……」
「かまわない、ねん……」
「無理しなくていいから」
頼りがいのある人物と紹介したいクロウとナノハであったが、いきなりアリエとの距離が近く、モテ意識とやらで謎の挨拶を行ったことにより不安が襲いかかる。
アリエは一言目の時点で落とされそうになり、面妖な挨拶が半分耳に入らないほどの別の弱々しさを見せているが。
「あれっ?じゃあ私観客席でゆっくり見れるのでは?」
「いや、見たところこれでもギリギリに見える。前衛に負担が行かないよう二人で頑張らなくてはね」
「えーっ……まそれもいっか!!」
ストックと一緒に仕事ができれば、ナノハはそれでも満足らしい。
「アリエ君、服はクロウと君で2着ずつだったね?」
「え、あ、はい、そう……うん。です」
「これ大丈夫か?」
アリエはまだ美人に当てられている。
「できる人なんでしょ?大丈夫だよ!アリエちゃん・オン・ステージ問題が迫ってきてるけど」
「いいと言ってくれたのはクロウだろう」
「二人ともどーも……」
何も大丈夫になってない会話に、クロウは不安を覚えた。
「ハッ!?私は何を」
「あよかった帰ってきた」
なんとか正気に戻るアリエ。ナノハに続きアリエも陥落させるストックの魅力もここまでくると、クロウは異常な何かではないかと疑いたくなる。
「ストックには精神攻撃のパッシブスキルでも付いてるのかな」
「そんな能力が私にあったのか……?」
「無いから。そんなスキル」
ナノハにより一刀両断。プレイヤーのしおんが長くやっていたためにゲーム知識は多い方である。
ただ、こうバッサリと突っ込みを入れるのは珍しい。次のストックの声に隠れて自らハッとなっている。




