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第8話「ドレスアップ大作戦」 Part3

「……あいつら、ちゃんと大人しくしてるかなぁ」


ふと、執務中のペイガニーはそう零す。


「あ、入ってくれ」


ノックの音に気付き招くと、彼は姿勢を正し厳格な面持ちで対面した。




「誰もついてきてないよね?」

「自意識過剰じゃない?」

「なんかちょっと前にきいた気がする」


 避難先は店と店の間、裏路地。


 表は立派な広場であり逆に割られる可能性はあったが、素早さによる速やかな隠れ身で無理矢理撒いた。

 追っかけは名の有るバスターが見つからないと諦めており、人の寄り付かない裏路地であることも相まった静けさが訪れる。


 ……実のところ数人ぐらいしか追いかけてこなかったため目が届ききらなかったというのはあるが。

 


「でもいいの?首突っ込んじゃって。これっきりにしときなよ~?」

「でもなぁ、何かあった時にただ見てるだけでいられる?」

「……そう聞かれるといられないかな」

「そういうことだよ」

「日本人は親切だよなぁ~」

「にほ…いや、ゲーム作った人が日本人なら、僕らもそうなのか?」

「哲学だね」

「じゃあ親切ついでにウチのことも助けてくれないかい?」

「……」「……」


 割り込む影。突然の3人目。

 とりあえず、怖い部類の笑顔をした女性だということはわかる。気を抜いてしまい気配を感じとれなかったことにしまった、と感じつつ穏便に脱走を試みる。


「そ、そろそろお昼にしようかなーって、ねぇ?ハナ」

「うんうん!だからここらでしつれ――」

「いやその本当に!!頼む!!お二人にモデルの代わりをやってほしいんだ!!」


 土下座。それも見るからに清掃が行き届いていない地面へ勢いよく。


「仕方ないね、私達の美しさに免じて」「ハナ」「やってあげないこともなーいわ♡」「少しは取り繕え腹黒設定」


 そうだ、ナノハは(一応)天真爛漫であり……お調子者なところがある。そう思い出した頃にはもう了承されていた。


「助かる!詳しくは中で話すから上がってって」

「お願いする前にすることでは?」

「細かいことはいいのですよ。オーッホッホッホ」


 “モデル”という役職にスカウトされただけでその気になるナノハに、コイツは一人で生きていけるのだろうかとクロウは心配になる。


 二人はそのまま裏口に案内され、事の経緯を説明される。


「あれは世界が変わった……今は大変革って呼ばれているんだったよね。それまで兄さんがこの“ダイニーボタン”でモデルをやってたんだけど……あ、私が試作した服をどんな感じか見るために着てもらったり、そのまま街を歩いて宣伝してもらってたの。これお昼ご飯の代わりにどうぞ」

「Sandwich」


 入った室内はかなり丁寧に掃除されてるように見えたが、なんらかのメモがビッシリと貼られている箇所がいくつかある。

 ナノハは出されたものを頬張ると、余程気に入ったのか元からの笑顔が更に輝いていく。


「ダイニーボタン、そんなショップがあったような……ここなんだ」

「そのお兄さんはモグ…どこにいるの?」

「……こんな窮屈な仕事はご免だ、俺は自由だー…って言って、大変革の直後にどこかに行っちゃった」

(元NPCの過去ってそうなるんだ)


 プレイヤーとの活動がそのまま過去となりそれ以前の記憶はゼロ、というPCとは違い、かつてNPCだった人々はゲーム中の意識の他に、生まれてから現在までの記憶を記憶できる範囲で持っている。

 そして、同じく今に至る過去も。


 無論、それが幸福とは限らないのが変化したこの世の常ではある。その兄というのが、最たる例だ。


「モデルはお兄さん、つまりクロウを狙って?」

「いつまで僕を男扱いするのさ」

「こ、この人の兄じゃなかったんだ」

「初めましてなのにもうしつこく感じるよ…それで、君の作る服を着て街を練り歩けって?」

「いや、そうじゃなくて……明日、別の店との合同のお披露目会があるの」


 モデルの代役、お披露目会。女子にとっては憧れのステージ!と言わんばかりにナノハは爛々と目を輝かせる。

 一方のクロウはとても嫌な顔を隠さずに浮かべた。眉間にしわを寄せ、とても嫌な顔をしている。


「そんなにイヤ?」

「……明日って、それまでにお兄さん…自宅に戻るんじゃない?」

「いやいや、そんな家族喧嘩で家出した子供じゃないんだから」

(帰ってこないことへの信頼……)


 勢いで飛び出したように語るが、その大変革からはもう既にひと月以上経っている。それだけ戻ってこない兄を放っておいているのか?


「でも心配じゃない?家族が、お兄さんが飛び出したっきりずっと帰って来ないなんて」


 妹を持ち、可愛がっているナノハからすれば人の心を問いたくなる事件だ。



「……一度、ちょっと離れた町で見かけたんだよ。…とても、幸せそうだった」

「……」

「何人かの友達がいたみたいだけど兄さんが混じってるってすぐ分かった。でも、本当に私の服が束縛だったみたいにいい笑顔で……見たことないぐらいだった。だから……もういいんだ」

「……それならいいか  ってよくないよくない……!!」


 それでいいと肯定だけするものではないと思い、途中で取り繕ってノリツッコミのようになる。ナノハが家族を大切に思っている故のことか。


「おねーさんはどう思ってるの!そういうの!」

「まぁ……兄さんがそれでいいなら、それでいいかな……」

「思ってないでしょ、そんなこと」


 ナノハに押され少し弱くなり、もう一声でうっとなる。きっと納得がいっていないのだろう。

 とはいえ他人の問題、あまり深入りすべきではないともクロウは考える。


(でも、こんなこと聞かされたら……)




 ……数日前、クロウに謹慎が言い渡された直後のことである。


「――とりあえず、言われた通りおとなしくする。長期休暇だと思っておくよ」

「念のためあまり外に出ないようにな。それと――」


 まだおどおどした感じだったそれまでの会話とはがらり、急に神妙な面持ちになるペイガニー。弱さが滲み出ていたこれまでとは違うシリアスなオーラ。



「イッカの捜索は打ち切る。今まで気にかけてもらってたのに……すまない」



彼は隙あらばすぐイッカの行方不明で絶望する様子を見せるほど、イッカのことを気にかけていた。

あれほど、あれほど家族の安否が常に頭にあった彼にこんな決断ができるわけではない。

暫し絶句の後、思ったことを投げかける。


「……あなたはいいの?それで」


 “諦めざるを得なかった”者の一人であるクロウは内から燃えるような何かがせりあがって来たのを感じた。


 しかしペイガニーも


「いいわけが無い」


 想いを嚙み殺しているようだった。大切な一人娘の失踪、その事実はペイガニーを強くしてしまう。


「……これだけ時が経っても見つからないし帰っても来ない。これ以上、できることが……無いんだ」



 静かな憤りにかつての弱さは微塵も感じられない。


 まだ諦めるな、と言うことはできなかった。



「本当はまだ足掻いていたいが、色々と言われてしまってね」

「……でも、探す人は探すよ?」

「………そこまでは関知しない」



 それ以上、何か言ってやることは、できなかった。


 せいぜい「じゃあまた」と、その日の別れを告げたぐらいだ。

汝の意志がうんぬんかんぬんで法がなんたら

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