第8話「ドレスアップ大作戦」 Part2
「およ、なんかめっちゃ人集まってる」
「人?」
ナノハのウインドウに味方を表す青色の矢印と非戦闘員を表す青線のみの矢印がビッシリと表示されていた。
少し先を見渡せば人の山のできたエリアがある。近づくにつれ、人々のがやがやとした声の集まりを貫くなんらかの演説が聞き取れるようになる。
「この……は……!」
「行ってみる?」
「いや、ここからでいい」
人の群れというのはそんなに好きではない。……かもしれない。
ので、かつての能力により相手を感じやすい五感を使い、ちょっと遠くから耳を傾けて群れの長を探る。
「続いて紹介するのはこの外套!一見ただの布切れですが、スキル【隠密 Lv.10】により気配を消して環境に溶け込むスグレモノ!纏ってみればこの通り」
いわゆる実演販売。セールスコピーで煽りつつ、実際に使用して見せることで購買意欲を刺激する。意識を集中させていたクロウもこの通り。
「……ッ!耳が遠くなった?」
「急に歳取るじゃん」
「……通り!今……万……!……っと……今なら50万Gでお譲りします!!」
「本物か…売りに出されるなんて」
クロスマギア内においては装備の特殊効果も含めあらゆるレベル付きスキルの最大レベルが15と設定されている。
大変革によってレベルはそのまま能力や物品の質へと転じたが数値自体はほぼ飾りとなっている。
クロウの感覚に同化したハイド&シーカーズは最大であるLv.15。かといって気配を消す効力がLv.10相当だからと無効化するわけではなく、元より景色への同化やレーダー表示されづらくなるようなものなので、クロウからすると感覚が鋭いにも関わらず音が遠くなったり集中していても見失いそうになる厄介な品質ということになる。
要は強大な敵にも効果がある有力な装備なのだ。
(気配を消せる外套、持っておくべきか……)
しかし思うところがないわけではない。
プレイヤーが作った装備とは、即ち彼らと共に戦い、築き上げたという証。形見と言っていい。
手放すなど、考えられない。
しかし一方でプレイヤーのことをよく思わないPCも存在している。
脳内に住み着き操っていたよくわからない誰かが作らせた物品など、愛着が湧くわけがない。
明日を暮らすための資金を工面するためならば、仕方なく手放す例もあるだろう。
それに、作られた装備は強力な能力を持つものも多い一点もの。例え失敗作だろうと必然的に高額で取引される。
バスターに憧れる一般人、今の世界で武を極めたいバスター、果ては装備自体の芸術性に目を付ける者まで……数に対する需要は尽きない。
ならば、形見だとか愛着だとかはあっさりと捨てられるのもまた、“現実”というものである。
「……行こう。僕には必要のない物だ」
「んぇ?本物って呟いてたから凄いのあったんじゃないの?」
「だからって、全部が全部入り用なわけじゃない」
「そう?欲が無いねー」
「……有り余ってるからこそ、かもしれないけど」
意識をもう一度、何気ない風に向けた。
そうは言ってもやっぱり結末は気になる、というものだ。
「くっそ~~やっぱ高ェな」
「諦めましょう、そういうものなのよ」
「おい!俺にさっきの速くなれる靴売ってくれ!20万ある!!」
「あっ抜け駆けしやがって!」
「おっ、じゃあそこのにーさんに銅の韋駄天を!」
「50万…ええい私が買う!!」
「そっちの大きなねーさんには外套だね!毎度ありー!」
盛況なようだ。
ハッキリ言えば気に食わない。
しかし他人の持ち物、自分が倫理を問うようなものではない。今はただ、ここを去ることで今あったことを忘れよう。
「オイ!嘘吐きめ!この服着てもちっとも力が強くならねぇじゃねぇか!!」
「ん?なんだ?」
「どけ、オイ!聞いてんのか!?」
「ええあっは、はいそれは……ああ、昨日お渡しした、筋力強化Lv.6に防御力強化Lv.5の……」
「そ・ん・な機能無かったぞ!!金返せ!!」
「ええっ!?でも昨日はちゃんと」
「おっさん落ち着けって、あいつのは本物…」
「なんか手品でも使ってたんだろ!お前らこんな詐欺師に騙されんなよ!?偽物だ!」
「いや、ほら、さっきも外套で実演してますし、さっきの人にってあれ、どこに」
「あら?もしかして早速使ったのかしら」
「どこにも見当たらない……やっぱり本物……」
「そうだ、やっぱりあいつが雇った“サクラ”だ!じゃなきゃ証明してみろよ、そのガイトウとやらが本当に気配を」
「どうやってするのさ」
いつの間にか、その人はいた。
ハイド&シーカーズ……探知の他にも忍べる力。同化したそのスキルは気配を薄くする効能もある。
最も、効果があるとてそういう立ち回りを意識する必要はあるのだが。
「お前誰?」
「本当は気にしないつもりだったけど、そんなに騒がれると気になって」
「そうだ、お前からもなんか言ってやれ。あのペテン師に…」
「少なくとも外套は本物だよ?」
「はぁ?」
「いや本当だって」
「お前もそっち側だな?もういい、部下をとっ捕まえりゃアイツ」
「こうしないと落ち着かない?」
突然掴もうとしてきたので、顎に一撃。落ち着かせるどころか落としている痛恨の一撃。
何か違う騒ぎ方に後ろ髪をひかれ、忘れられなかったが故に事件はあっさりと沈められた。
「……バスターが暴れちゃマズいんじゃなかった?クロウ」
クロウって、あの……? 少し周りがざわつき始めた。
ずっとなんらかの小ぶりな鎧か外套に身を包むかだったため、ラフな格好では鮮やかな手際を見せられた今になるまでそうと気づかれなかったようだ。
「自分の背ぐらいの剣を道で振り回す人に、護身の気絶を責められたくはないかな」
「でもバスターがぼーりょくに頼った!」
「うーん、おあいこということにしておこうか。あ、できれば皆僕のことは気にしないでいてくれると……」
「あ、ああ、あありがとーございますっ!存ぜぬ方ァー!」
いきなり嘘吐き、詐欺師、偽物だと罵られた売人は流石に焦った。そこに助けをくれた相手にセールストーク中とあまり変わらないテンションで礼を述べる。
一方で、少しずつ人の山が移動してこられているその本人は、長居はよくないと感じとっとと去ることにした。
「ぼ、僕は行くから…ハナ行くよ!」
「ここはねー、この色のコスメが……」
「ハナ?」
「はい、直ちに!?」
集まって来た人々に自分の化粧法を教えていたナノハを引っぺがし、通りから離脱する。




