第8話「ドレスアップ大作戦」 Part1
「クロウ!どれが似合うかな!?」
「疎くてね」
「そも、無視!そこはどれも似合うって言ってくれなきゃー!」
「ハイハイ似合う似合う」
「もぉー!」
とある服飾店を訪れた理由は(ナノハのしかないという意味で)一つ。自分達のセンスを確かめるためだ。
用意された衣装は主の好み。ならばクロウ自身はこの手のものをどう感じているのか?そこを彼女は疑問に思った。
だがここに至るまでの会話で、特にそんなものはないということは分かってしまった。
しかしこれで終わるナノハでもない。
「これ!これ!これも!!」
「……」
「クロウ!これ着てみて!!」
「多い!!」
これでもかと言わんばかりに畳みかける。まさしくパワー・ファイターだ。
「なんだったら私が着せてあげるっ」
「そん…一人でできるから!」
挙げられたものの中からナノハ自身によって選ばれた衣装を、抵抗する力が弱いクロウへ装着していく。
身体を許してしまったのはまんざらではないからか、それとも力み過ぎて商品や周囲への加害へ繋がらないよう落ち着けているからなのか、それは本人にしか分からない。
一通り作業が終わると、ナノハは更に箱状の機械を取り出す。
「撮影準備開始!!」
「止めろ!!」
その機械は写真撮影の機能があるらしく、クロウは今の自分の姿が永久に残されることを全力で嫌がっている。
二人の今日のファッションといえば、防具のものと似てふわっとしているが別の黒ドレスのナノハ、ジーパンと長袖ポロシャツに加え各部にチャックが複数付いた緩い上着のクロウ。クロウの方はつば付きの帽子も被っている。
ドレス姿のナノハとは違い、とても典型的な中世ファンタジーベースの世界で育てられたとは思えないモダンなセンスだ。一応、そういった服しかユウに持たされていないという事情はあるが。
「ふー、いい仕事した!」
「くっ……僕には可愛すぎるんだよ」
「私がかわいいって言った?」
「自意識過剰って言われたことない?」
今はそんなマニッシュを上塗りするように胸元が開いたディアンドル服を被せられ、どんな世界観で造られた世界かを指標する女性へと一気に変貌させられる。
どうも完全に趣味趣向の問題というわけではなく、肌を露出させるのが恥ずかしいと感じて布面積の多い衣服を好んで着ていたらしいクロウの肌は、赤みを帯びた光を柔らかく纏っていく。
納得の出来らしい着付け師は、この胸元から見えるまだ白みの強い球の肌にそっとなぞるように手を当てる。
「……胸板って、いいよな……」
「喧嘩売ってるのかビッグフット」
豊満と、スリム。そう考えると2人は謂わば“対極的”と言える。普段クロウはコンプレックスに思わないが。
とにかくクロウは元の服装に着替えなおした。着せられた服は気に入らなかったらしい。
「そういえばハナ、一昨日は派手に暴れたけど、組合からは何か言われた?」
「えっ、あぁー……」
「言われたんだね」
ナノハが持ち掛けた勝負が最終的に凶器を持った戦闘へと発展した2日前。傍から見れば一大事だろうに、不思議と大きな騒ぎにはならなかった。
途中いいぞもっとやれと煽る観衆もいたためなお奇妙に感じられたが、組合の知るところになってもおかしくはないはずだ。
この店は家とは少し遠い場所にある。着せ替えから抜け出して店先に設けられたベンチに二人、その手前の道を通る人々の中にあの時の観衆が混じっていたらどう思われていることだろう。
「ゴキブリに驚いたって…言っといた……」
「oh……」
「速効でバレた嘘」
「おぉぉ……」
クロウはもうしばらく組合に顔を出せないが、案の定知られていたようである。
「えと…、喧嘩したってハイ…言いました……厳重注意された……」
「当然」
厳重注意ということは実刑が課せられなかったとも言える。あれだけ武器を振り回していたにも関わらず。
喧嘩が理由と言われた通り理解しその理由を尊重したからなのか、それともナノハもペイガニーが言うような貴重な実力者の一人だからと大目に見られているのか。
なんにせよあの暴走が起こる心配はなくていいとクロウは安堵した。無理矢理した。
「もうやんないならいいよ。でもまたああいうことやったら、分かる?」
「ハイ、すみません。」
「よろしい」
「もうよろしいのであれば!服の続き!」
「えー……僕これでいいって」
「それじゃ私がつまらないの!」
「歴史を繰り返したいのか」
「それとこれとは別の話でしょ!ほら、少しは未来のことを考えなくちゃ!」
「服が未来のことなの?」
こういう時だって、言い方の割にクロウの口元から笑みはこぼれるものだ。
友人との会話が、クロウは案外好きらしい。
「他にお店は……」
「歩きながらで前見えてる?」
「あたぼー」
「棒に当たっても知らないよ」
別の場所へ移動しようとナノハはウインドウのマップ機能を開いている。
歩きながらのウインドウ使用の危険性は既に広まっていた。
前方不注意による衝突事故をはじめ、自動車の通らない世界ながらも時々使われる馬車に轢かれる可能性だってある。
ただ幸いにか、この時は何か起きてしまう前にそのやり方は解除された。
こういうこと書かない方がいいそうだけど・・・多分現時点で一番迷走した回第8話。2、3回ほど全体的に書き直しても「これでいいのか?」って思ってしまうレベル
でも今後のためにはこうしないといけないっぽいところが多い気がする不思議
なんとなくや勢いでやったつもりが他の所を補強したり、繋がって、トリミング作業とはならない取捨選択の覚悟が要る因子にまで成長する。
だから創作はやめられない。創作って奥が深いですね。




