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第7話「クロウの女苦労」 Part6

「僕は……友人のままでいることを要求する!」


 顔を更に近づけ言い聞かせるように放つ。甘やかせと言われても、これぐらいしか出てこなかった。



「うん!?んー、それでいいの?」


 少し驚いたが、頭を持ち上げて迎え撃つ。


「……親友じゃ、ダメかな?」

「親友の頼みじゃ、仕方がない」

「ク……クローーーーウ!!」

「わっ!何!?」


 先んじて伝えた通り、拘束を軽く解き放ち逆に抱きしめる。ナノハが勝てばクロウはナノハのものという賭けが無意味だったかのように思いっきり。ただし怪力は抑えられている。



「えへへ……あ、そうだ」

「どうしたの?」

「アップルパイ、一緒に作り直してくれないかな。クロウは味見役ね!」

「ええっと……ストック?」

「ふふっ、いいよ?あんなものを見せられては心配になるからね。さ!私の指導は厳しいよ」

「アイアイマム喜んでー!」

「相変わらず……何考えてるかよくわかんないや」


 言葉の割に、クロウの顔には笑みがこぼれていた。




「ただい……あっ」


 帰って来たナノハを迎えるのは、似た容姿だが確かに別人といった風の女の子。


「お姉ちゃん」

「あっ、カンナ、そ、その~……えと……」


 ナノハの妹として造られた(クリエイト)NPC、カンナ・サイネリアだ。


「……アップルパイ……勝手に食べてゴメンナサイ……」

「……」

「うぅ……」


 微妙な沈黙。

 クロウの家に訪れる前に、どうも一悶着あったらしい。機嫌は相当悪い。


「ちゃんと謝ったから、もういいよ」

「カンナぁ……!」

「今度はせめて半分ぐらい取っといてね!約束だよ」

「うんうん!約束する約束するー!!」


 謝罪を受け、カンナはふぅと自然体になる。

 元気だが芯はしっかりした、バスターでもなんでもないごく普通の女の子である。


「……私見て突然出てったから、ムカつくのもあるけど……寂しかったよ」

「カンナ………よし、ぎゅう~~~!!」

「わ、何、お姉ちゃん!」

「ごめんね!もう大丈夫だから!」

「何なのお姉ちゃん……ほら、コムラさんも起きて来たしまずは入って!」


 奥からガサガサ、アゥンと何らかの生き物が覚醒した気配が放たれつつある。


 その真相はごく普通の犬、おおむねゴールデンレトリバーと呼ばれる種族の形をとっている“コムラ”と名付けられた犬だ。

 確かにその存在は犬ではあるが彼も家族の一員、つまり、造られた(クリエイト)NPCである。


「そうそう、お姉ちゃんちゃんとアップルパイ作ってきたから食べよ!」

「晩御飯食べたしこんな時間……えっ、お姉ちゃんが作ったの?」

「1回失敗した後、友達と一緒にやり直したんだ。悪いのは……私だし」

「そこまでしなくてもよかったのに……でも、ありがと!…あ、コムラさんこれは食べちゃダメだよっ!わわ、お姉ちゃんの足に!」

「コムラさんいい加減懐いてほしいなぁー」


 少しの仲違いはあったものの、既に戻った賑やかな家庭。

 仲直りして、姉妹愛を示して、そしてそこ犬のコムラも混ざって、サイネリア家の真の晩餐が始まるのだった。


 ただしコムラだけは、残念ながらナノハには懐かない。


「マズイ!!!!」

「マズイ!!!!」

《ワンッ》





 戻って、クロウとストックの様子。


「――で、なんであんな焚きつけるような真似したの?」


 クロウには、そこが分からなかった。


 ストックを、そして途中からはクロウを賭けた三本勝負は確かにナノハが持ち掛けたことだ。

 しかし、元はと言えばストックが急にクロウとの関係を、仲を、見せつけたことから始まった。

 クロウはナノハからの想われ方をいまいち理解しきれないが、それ以上にストックの行動に違和感があった。


「ん?ああ、ちょっとからかいたくなってね」

「本当に?」

「まぁ、ちょっとは対抗心があったかもね」

「ハナに?君が?」

「取られたくない時だってたまにはあるんだよ」

「ハナが僕を取るって?取って食うなんてするわけないでしょ」

「どうだかねぇ……」

「襲いかかる時のナノハのことなら、確かにそうだけど」



 結局、調理中に聞いてもナノハをいつもより奇妙な爆走に至らしめた何かはつかめなかった。


 戦闘前に言っていた「クロウが凄い」「独り占めしたかった」以上のことが何も話されなかったためだ。



(本気じゃない、か……)



 一方でストックはナノハに何かを見たらしい。

 それが勝負の三本目で溢れたものなのかと、クロウは思った。


 同時に、それがこんな事にまで及ぶとはと、女は怖いとも思った。自分も女性なのに。



「とりあえず、口直しに紅茶を淹れてくれないかな」

「仰せのままに、ご主人様」


~第7話「クロウの女苦労」~


――――――――


 ただそれゆえに、まともなレシピ無しで完璧はあり得ないとも実感している。


 基本的に手間のかかる煌びやかな菓子類とあらば、なおのことだ。


紫羅欄花:「……ま、まぁ、せっかく私のために作ってくれたんだ。見た目通りの味かもしれないし…いただくよ」

菜の花:「どうぞ召し上がれ!」


ナイフで8分の1ぐらいのピースに切り取り――


クロウエア:「…………」

紫羅欄花:……普通、だねぇ。



紫羅欄花:……普通とは、この味のためにある。NGで。

菜の花:なんで!?


――――――――



(そういやこいつらクロウのこと苗字でしか呼んでねぇ)

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