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第7話「クロウの女苦労」 Part3

「そういえば名乗っていなかったね。私はストック。ストック・ブーゲンビリア。ハナと呼ばれている君のことはクロウから聞いているよ」

「はぅ…!!……ん?ストック、ブーゲンビリア?……あ゛ーっ!!思い出した!!」「うるさっ」

「ほう?」


 びっくりしたクロウの口から茶が噴き出された。

 ……飛距離は短く、大きな被害は無い。


「しおんとユウさんがいつか話してたクロウの従者……花の名前がどうって……」

「よく覚えてるね……」

「でもそれ以外知らない」

「よく思い出したって叫べたね……」

「そっかストックって人こんなに…イケ」「ん?」「うわ眩しっ」

「茶番かな…?」


 大変革前、他人の拠点内には入ることはできなかった。そして従者は戦闘要員、つまり部隊の一員としてのみ外に出すことができる。


 二人は共に“存在を知ってはいるが今が初対面”という状況である。初対面補正のインパクトか、ナノハはストックの美顔に目が眩んでいる。



「おっと、“我が主”を置いてきぼりにしてしまったかな?」

「いいよ、二人で乳繰り合ってれば。その方が相対的に静かだ」

「クロウ構ってほしいの?」

「そうではなく…」

「はいはい、ツンデレ主人は置いておき」

「デレてないつもりだよ?」

「私は女性だからクロウと子供は作れないよ」

「そこ触れるところだったの?」

「……」


 ナノハ、須臾しゅゆの停止。


「イケメンなら女の子でもえーやー!!」

「いいんだ!?」

「おやおや、嬉しいことを言ってくれる」

「嬉しいなら……いっか」


 異性と恋をしたいのかと思えば、同性でもいいというクロウには意外な答え。ただ、顔がよければいいという判断基準は心配という思いも生ませる。


 同時に、まぁナノハだからなぁ、とも思っているが。

 彼女のことはそう測れるものではない。



 しかし、顔がいいといえばもう一人。


「しかしそれでいいのならば、君の隣にもいい子がいると思うのだがね」

「は?」


 ずっと彼女の隣にいるのは美少年の相貌、クロウ。顔で決めるならきっと外せないことだろう。


「特別枠」

「特別枠…?」


 その時、ハナの雰囲気がいつもと違うように感じられた。一瞬だけですぐに元に戻ったが。


「シード権」

「シード権??」


 いや、やはりいつものナノハだ。


「なんだよォォォこの性別迷子の館ァァァァ棲みてェェェェ」

「人の家をなんだと思ってる!!」

「いや、ははは…君の友人は本当に面白い子だね」

「まぁ…否定はしないでおくけどさ」

「んー?」

「なんだよストックー…」

「折角だから、このまま見せつけてみようか。私達の間柄というものを」

「っ…… はぁ?」


 クロウとナノハの仲を問いただすような接近からそのままペア・ダンスのような状態へと派生。着席していたクロウは下側、そしてストックは上側。


「な、なにさ……」


 そのまま抱き上げると、数回転の後に額同士が触れ合うような距離まで2人の間は縮まった。戸惑うクロウをよそに、流し目でナノハを捉えながら。


 主従の関係とは言いつつ従者優位で親密な光景。そこへナノハは――


「クロウ!!」

「へ?」

「ストックさんを賭けて、私と勝負しろぉぉぉぉっ!!」

「……なんで?」


 突然の提案にクロウもストックも姿勢を直しナノハの方を見て閉口する。


「古よりこの世界では欲しいものは決闘で奪い取るルール……それが女でも!男でも!!」

「この世界歴史あったの?」

「私を巡って争うとは、興味深いねぇ。どうだい?私のクロウ様」

「変なこと言わないでよ二人とも……」


 無論そんな決まりはどこにもない。しかし乗り気でないクロウを無理矢理連れてナノハは外へ出る。



 家の前は何の変哲もない道路を臨むと、クロウから離れ鞘を被せたままの大剣を大仰に構えた。

 もういつでもおっ始められると言わんばかりに。



「ルールは簡単……」

「……」

「……」


 ストックも玄関口で様子を眺めている。


「ストックさんが良いと思った方がストックさんを手にする!!」

「ルールを言え!!」


始まる前からメチャクチャである。


「はっはっは!私の裁量で全てを決めろと言うんだね。いいじゃないか、他人様に迷惑のかからない範囲でやってごらん」

「やってごらんって……うーん……」



 広い場所ではない。幅は4mかぐらいで道として使うに不便しない程度。


 その勝負が戦闘ならば、他人の家を蹴らなければクロウの高機動戦闘は大幅に制限される。

 一方のナノハも閉所では取り回しに難のある大きな剣。2本と少しで道幅と同程度の大きさというのは中心で振り回さなければ容易に周囲と接触・破砕する。


 ただしそんな大物を怪力で素早く振り回してしまうような無茶苦茶さは、動きを立体から面へある意味――他人の家を蹴り進むわけにはいかないので――制限されているクロウに対し、優位性を五分・五分以上にまで引き上げる。


(いざハナと戦うとなると厄介だな……周りの家を足場や隠れ場所にできればおそらく僕が勝つ。でも、迷惑のかからないようにと言われると意識しちゃうな。地形を利用し辛い)

「まずは――」

(あ、剣は二つとも……まずは取りに帰るか?)


 今クロウは各種強化効果を備えた防具を着ていない。しかし素の能力でも暴れまわることは可能だ。ただ、二振りの剣も置いてきたのが痛い。


 勝負のゴングは鳴りかねぬ。ストック……ではなくナノハからその対決の内容が発表された。



「かわいいポーズでアピールせよ」

「…………」

「…………やらないのかい?クロウ」

「もうハナの勝ちでいいよ」

「ダメ!クロウもやるの!!」


 ロスマギにはPvP要素があった。育成したPC同士で戦う、闘技場的施設での試合だ。

 だがナノハは剣を掲げながらも全く別の試合を提案する。ストックも乗り気のようで、クロウを茶化している。


「見せてほしいなあ、主人の可愛らしい、そう生まれたての子鹿のような姿を」

「僕が立つのもままならないか弱い生物に見えてるの?」


 住宅地ではあるが皆この時間に何かしら仕事でもあるのか人通りは全く無く、閑散としている。

 しかし全ての人間が消え去ったわけではない。いくつかの家からは騒ぎが気になったのか覗く者がいる。

 ……その中で、ナノハはポーズでのアピールを要求している。


「ハナ、その……」

「ホラ!クロウも!!ホラ!」


 内股前傾になり、両拳を外側に人差し指で頬を指して舌をペロリと少し出す。これが彼女の今考えたカワイイポージングなのだろう。


 ……剣を逆手で握りながら、しかもそれがほぼ平行にブレ無く持ち上がっているという不釣り合いな事象を勘定に入れているかは定かではないが。


「見てる人いるって、恥ずかしいよ」

「強情なやつめ……」

「いい考えがあるよ」


 そう言うとストックは、クロウを羽交い絞めにして家へ連れ去り始める。


「ストック?ちょっ……!」


 やろうと思えばバスター特有の膂力りょりょくは制御できるため周囲を傷つけることなく簡単に抜け出せるが、いつも世話になっていると考えると力も萎えてしまう。



(無理に抜け出すのもなぁ…、いや、ん!?)


 しかしそれよりも、心地いい感触と共に身体の力が抜けていくことの方が問題だった。


「無駄だよ。バスターの使用人たるもの、その身体を素早く癒すほぐし方は身に着けていないとね」

「きいたこと、にゃぃ…ハッ!?」

「ストックさんおかわりもらえますか?」



 戦闘から長距離移動に調査まで。バスターは肉体労働だ。


 特異な力を持つ新人類だったとしても、謹慎中であまり動かなかったとしても、睡眠や食べ物等で癒せない潜在的な疲れというものがあるのだろう。全く疲れが無いと考えていたクロウが甘い声を上げる。


 しかし、使用人の間にそんな嗜みが本当にあるかというと……意識の高い者ぐらいだろうか。


「いいとも。ほら吸ってー、吐いてー」

「すとっ……」

「ほらほら上手ー」

「やるから!!やるからやめて!!見られてるから!!あとそれは苦しい方のやつだよね!?」

「苦しい方とかあったんだ……」


 玄関に差し掛かったあたりでついに根が折れる。駄々をこねる幼子をあやすように声をかけられていると感じ、ついに屈したのだ。


「おや?これからだというのに。まぁいいこのまま行こうかクロウ」

「は!?」


 屈するに至る絵面は副産物だった。クロウはそのまま――


「いや!これもうクロウの勝ちだね!悔しっ」

「えっ? あっ、あー、うん。終わるならいいんだうん」


 クロウの嬌声に満足したのか、ポージングなどしていないにも関わらず勝負が決する。観衆は少し残念そうにしている。


「いいのかい?せっかく、主人に着てもらう用の服を色々着せてその気にさせようとしたのに」

「拷問か?」

「残念だ」

「物凄く残念そうにしても後で個人的にやるとか一切無いからな。というか何を買ったんだ服を」

「ゆるいワンピースにフリフリのドレスに……」

「それがお前の性癖か?」


 フリマで売ってこい、とクロウがもう一言毒づくも、ナノハも気になるようで、


「クロウ…きっといつか必要になるから……着ようか、今……!!」

「着ないよ」

「ワンピにドレスには女の子の憧れだよ!是非!!」

「着ないよ」


 バッサリと二刀両断された。


(俺は一体何を書いてるんだろう・・・)




(まぁええか・・・)

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