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第6話「大変革」 Part6

「壁が…無くなったのか?」



 見もしていない壁の消失に、追手はショックを受けた。一方、壁を望まなくなった方の追手も、おおとやったと勝鬨かちどきを上げる。


「オイ……オイ、オイ、オイオイ!!」


 しかし中には当然、突っかかろうとする者もいた。


「お前ら……タダで済むと思ってんなよ?この世界を護る防壁を、一存で取っ払った。大犯罪者だ!!この責任を、どうやって!!」

「責任を取るには、どうすればいい?」

「えっ……はぁ!?」


 食いかかる者に食い気味で。


 やったことの自覚はある。ただそれはそれとして、彼らのブーイングは本当に贖罪の道へ通じているのかが気になった。


「分かってるさ。ただの暴走だってぐらい。だからその埋め合わせは、何をすればいいのか聞いている」

「それはッ……その……牢屋だ!!一生牢屋に」

「ほいっ!!」


 ナノハが黙らせる。


 加減はしただろうが、怪力少女が後ろから巨大な剣の柄頭つかがしらで殴るというやり方は、間違いなくされた方が心配になるだろう。



「ハナ」

「こういうのはただ責めたいだけなの。だから、口だけさんに行動の大切さを教えてあげたんだよ」

「えー、その……行動に移し過ぎるのもどうかと思うよ?」

「でも、分かってて質問してたんでしょ?」

「ハナの“教える”が致命傷を設けるやり方だと分かってたらしてなかった」

「ホレ!キュアーしてあげてるから!これでいいっしょ!?」

「そういうことじゃ……あーもういいや……」


 全ての追手は、ナノハにドン引きなる感情を持たざるを得なかった。こんなのに喧嘩を売ってはマズいことになる、図らずして彼女は抑止力となった。



「一緒に来てた二人は?」

「こっちだ、こっち」


 冷静な方が声をかける。


「ナノハちゃんと追手からの防衛に回ってた。今はその子が怖いが……」

「失礼だなー」


抑止力というものは、得てして味方でも恐ろしいものだ。



「まぁとにかく、目的は同じでもあんたらの事情は知らん。ただ俺からしても、俺らに押し付けてここまで来なかった連中を思うとちょっとは気がスッとするな」

「実際、僕らもそういう動機があったと思う」

「そうかい。さて報告は……山賊らしき勢力との小競り合いの中で壁の発生源パリィ及びハルパリィーンの群れが殲滅された……こんなもんでいいか?」

「山賊?うーん……」

「バスターだろうが俺たちの任務を邪魔しに来た曲者であることには変わりない。事実、犯罪者に堕ちるバスターも少なくないからな。十人ぐらいの小隊に遭遇しても不思議じゃない」

「あー……まぁ、庇ってくれて助かる。……あれっ」



 もう片方、ひどく怯えていた同行者は、パリィが焼き尽くされた後をただ、見ていた。


「何か、あった?」

「……」

「ねぇ、あなたはこの群れのこと……どう思う?」


 保守派が興醒めと言わんばかりに去り、周囲のクロウ派バスターがここまでのいきさつやクロウの為したことで盛り上がっている中、彼はただ呆然と見届けていた。


 クロウとナノハに続けざまにその様子のわけを問われるとようやく、彼は口を開いた。



「“怯えて”たんだな、あれ全部……」



 ここまで怯えてしかいなかった同行者バスターが、そう呟く。


「怖いから、バリア張って、消されて…またバリアを張っては消されて……そん中であいつらを見つめさってたからかな、なんとなく分かったんだ……」

「アレは全て……あなたと同じ理由で、と?」

「震えてた。怖かったのかな?だからみんなで集まって、壁を張って……そしたら、全部すっぽり覆うぐらいのデカい“家”になった」

「魔獣が、怖がってる?連中に感情があるとでも言うのか!?」


 冷静だったはずのもう片方の同行者バスターがそう強く聞くが、ナノハが付け加える。


「魔獣はボルツェンカボーネって感情の神様が作ったものだから……もしかしたら」

「世界が変わったから感情が宿ったとも言えるかもしれない」


 クロウも、ほのかに感傷を乗せたように続いた。



「俺も同じだ……あいつらと同じ。怖いからバリアを張って危険から遠ざかろうとしてた。でも同じってわかった途端、ちょっと怖くなくなったんだ。じゃあ何を俺は怖がってたんだって」

「道中の魔獣とか?」

「ハ、ハナ……」

「いや、いいんだ」


 腰が抜けていたかと思われたその男は、誰の肩を借りるでもなく、自力で立ち上がる。


「怖いといえば正直まだ怖いけど…」

「お前……」

「さっきよりは少し、自信があるんだ」


 その言葉と表情には、述べている以上の気合が満ちているように感じられた。


「もしまたパリィが出たら、その時は別の理由で倒せないだろうけどね……」

「さっきは私に隠れてただけだったのに見違えたよ。……えっと……」

「俺はヨンド。姓は無い。元NPCだ」

「あ、俺も名乗っておこう。トッツ、トッツ・トッツァー。同じく元NPC」


ヨンドとトッツ。目に輝きを取り戻したヨンドは、しっかりと相手の目を見て話し、トッツも彼にならって自己を明かす。


「俺たちも帰ろうか、トッツ」

「そうだな……もしリガトピークに来て困ったことがあったらいつでも頼ってくれ」

「ありがとう」

「礼を言うのはこちらの方だ。またな」

「またなー」



 別れを済ませ、二組は帰路に就く。

 クロウがマボーグで浮かぶのを見ると、他のバスターがこの地を探索する一部を残して後に続いた。


 しかし、集団の前での思い切った宣言に恥じらいを感じる程度の胆であった彼女が、この一団を導く先導者のようにされてしまうのを善き哉などとは感じるべくも無い。負い目すら抱え込んでいる。


「こういうの、得意じゃないなぁ」

「たまにはいいんじゃない?」

「僕が独断で壁を消したのは本当だから……」

「気にしない気にしない!なるようになる!!」



「……ん」


 クロウの視界の隅に、小さなウインドウが現れる。個人メッセージ機能だ。


 ウインドウに触れるといつもの大きさのウインドウにシアーズからの伝言が映る。



〔拝啓 過ごしやすい時期のこの頃、クロウ様とナノハ様におきましてはますますご清祥のことと存じます。〕


 シアーズのメッセージは図体に見合わぬ丁寧さだ。クロウはなんだこれと思いつつも後ろから覗くナノハと読み続ける。



〔 このたびは正体不明の魔法障壁の件の解決という大業を成し遂げられたこと、お祝い申し上げます。〕


「組長に聞いたのかな?」

「だろうね」


〔つきましては組合長ペイガニー・クラフト様より御二方へ、当ウインドウを通じて言伝ことづてを申し付けられておりますのでこの場を借りてお伝えさせていただきます。〕


「普通に言えばいいのに……」

「てか私の方には届いてないあたりどうせ一緒だろとか思われてそう」


〔 曰く、組合長執務室にて仔細の報告を願う。とのことです。〕


「あー……」

「ん?組長またあっちゃんに頼りきってない?」

「組合長は元NPCだから遠隔の連絡手段使えないよ。それこそ手紙ぐらいなんじゃないかな」

「なるなる」


〔 さて、大陸を覆っていた障壁は晴れ、より一層清々しき心地を浴びております。先刻発生していた青い円に怯えている人々はおりますが、此方で収拾にあたっているためご心配には及びません。〕




〔 最後になりますが、〕

「んまだあるんだ…」

〔この度、当世界の変容を示す言葉が――〕




「『大変革』と決定したことを、ご報告申し上げます……」





 クロウとナノハがバリアを壊そうと出発していたその時、何度目かの首脳会議が行われていた。


 会議では世界の変容のために発生する様々な問題を検討しており、その中でついに、その変容現象の名称が“大変革”と定められ、統一されたのだ。



〔これからより気温が高まる季節のためどうぞご自愛ください。 敬具 ああああ〕

「そこは本名にするんだ……」


「大変革、まんまのような…そうでもないような」

「名前が決まったんならなんでもいいさ」


 了解、とだけ返信して、ながら運転を終了する。

 もう数分もすればセレマだ。




 全てのキャラクターが命と感情を得て、全ての世界が現れる。


 あらゆる事象が大きく変わり革新されたこの現世。



 大変革という名称に決定されたこと自体は特別な事件ではない。しかし奇しくもその決定が成された瞬間とは、壁が砕けるその瞬間だった。



 この重なりこそが、変化した世界の真の始まり、その皮切りだったのかもしれない。


~第6話「大変革」~


――――――――


菜の花:「大変革、まんまのような…そうでもないような」

クロウエア:「名前が決まったんならなんでもいいさ」


了解、とだけ返信してながら運転を終了する。

もう数分もすればセレマ


菜の花:おっとっと

クロウエア:あっ、あああっ!!

菜の花:ヤバ今ので変なとこ押しぃぃぃいいいいっ!!

クロウエア:ハナああああああああああ


――――――――



舞台となるジーディス大陸だけど、大体モンゴル前後ぐらいという大陸というには不足気味な大きさをしているイメージ(もちろん、敢えてもっと大きい/小さいとイメージしてもいい)

だって・・・!“大陸”って付ける方が、なんかそれっぽいじゃないですか・・・ッ!

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