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第6話「大変革」 Part2

「帆を畳めー!!……予定ではもう30分もすれば着くはずです」

「分かった。聞いた?ハナ」

「もうちょっと見てたいな、海」

「終わったらいつでも見れるから」

「そういう理屈キラーイ」


 クロウとナノハは残り時間を聞いて準備を始める。道具の確認、武器の確認、周辺状況の把握……。


 しかしどれもさほど意味はないだろう。被害に遭った者は皆壁なるものに接触した「だけ」であり、要は事故。

 衝突で破損した船に混乱した人類……そんな絶好の隙など、敵がいれば狙われないわけがない。逆説的に安全なのだ。


 それにそもそもの話、この海上という場所に魔獣はいない。

 というのも、飛行型の魔獣はいても海棲の魔獣は存在していない。というよりも、今のところ確認されていないというレベルではあるが。


 海上を飛行する魔獣の内いくつかは他のバスターの手で、少なくともセレマ付近の海を飛ぶものは全滅したという。その甲斐あってまたもや戦闘……は前回は少し参加していたが、今回はその戦闘も無しに目的地まで到達できた。



(……全滅?本当に?)


 ふと、クロウは違和感を感じる。


(全滅……絶滅?魔獣は強さに差はあるけど共通点として繁殖ができる。世界が変わってもうどれくらいだ?3週間?1ヶ月?魔獣の繁殖に詳細な設定はあったか……?)


 ウインドウ展開。海のように美しい半透明の青い板。

 その中にはゲーム時代にあった機能として、敵の詳細なリストやいくつかの用語をまとめた欄が設けられていた。



(魔獣…でいいか)


 魔獣に関する説明。ボルツェンカボーネが放ったというその正体に関する記載はどこまで進んでも載ることはなかった。

 従って通常の動物との違いは記載されず、バスター同様マナを利用した魔法攻撃を扱うことができることと生物学的に突飛な姿の種が多いという特徴が記述されている。



(ここはいい、本題は……繁殖力について何か……)


 目的の記述はたしてそこに存在していた。



 “――繁殖力が高く、種類にもよるが大体数日~数週間で元の数を取り戻す。絶滅に成功した例は未だ無く、他の生物と根本的に異なる発生条件も同時に存在するものと――”



「それが、全滅……?」


 他の生物と根本的に異なる発生条件、というのはボルツェンカボーネの暴走による絶滅種の補充とストーリーで語られた。そうクロウの記憶が示す。

 人類に敵対していない今ならそれは行われないはず。


 しかし、数日、数週間でという繁殖力。おそらくは戦闘を主とするゲーム、それも後から物語が追加され続けるようなエンドレスが前提にある、オンラインゲームにおける敵個体数の説明付け。

 わけを付けるからには必然的に再生力というものが必要になる。


 当該種族の生存戦略による個体数の維持、ゲーム時代と違うかもしれない魔獣の生態……そういった希望的観測がよぎる。だが、それが無いとしたら現実は?



「どぅしたの?クロウ」

「いや……なんでもない」

「そ?ならいいんだけど」


 とはいえ見えない壁という事件に関係の無いこと。今はついに停止した船で目の前のことに集中する。それ以外にやるべきことは、無いはずだ。



「……目的地に着きました。係留まではできませんが」

「うん。見るだけ見てみよう」


 見てみるとは言ったが、報告にあった通りの透明度。


 ただ水平線が彼方へ広がるのみでそれらしきものは全く見当たらない。正確には、見えているのに分からない。


「本当にココー?」

「ならたしかに、わからないなこれは……」


 その存在を立証すべく、ナノハはウインドウを経由して小石のようなもの、価値の低い素材アイテムを取り出し、思いっきり投げる。


「見えないけれど、其処にあるもの……ッ」


 投げられた小石はコン、とまさに壁にぶつかったように軌道を反転させ海へ落ちる。


 傷も波紋も何も無い、ただ透明な壁としか言えない何か。これは世界の果てなのか、それとも。



「ハナ」

「おん?」

「ハナの“花園”なら壁までの道作れないかな?」

「う~んやってみる?無理だけど」

「無理なら仕方ないか……別の」

「第2の花園!!」

「えっやるんだ」


 ナノハは両手の平を前方に突き出し、それは無理と言っておきながら第2とナンバリングされたその力を放つ。


金盞(グレイトブルゥム)()花園(クリュティマリー)!!」



 手のひらから離れた所からオレンジ色に煌めく粉のようなものが追い風をも無視して広がっていく。

 粉は数m下方の海に舞い降り、土も無いのに立派なキンセンカの花畑を形成させ……枯れた。


「ね?無理でしょ?」

「そう…、そー……」


 花は実物に違わない姿や性質ながらも構成元素がマナに置き換わった存在だが、急速に育つ過程で他の物質も取り込むのだという。それで海の塩水を多分に吸収したことが塩害となったのだろう。


 枯死した花畑はその色を失い、茶色の浮揚体としてその場を揺らめいている。



「あれっ?」


 と、クロウが目の前の光景に違和感を覚える。


「ちょっとだけ……」

「?」

「ちょっとだけ奥の方が小さく見えた……?」

「うっそだぁ、目よすぎでしょ」

「これでも高速戦闘型だから、目はよくないと」


 続けて見てみると、海の方も何かおかしいことに気が付いた。


(……いや、それだけじゃない。波だ、波ができてる。違う。途切れている?そしてさっきのフィールドの規模の違い……)

「で、何か変だった?お花の様子」


クロウは感じたことを整理して、推測を述べる。


「多分この壁、マナは通すんだ。ただし……」


 クロウも魔法を放つ。

 攻撃のマジックスキルでありながら属性を持たないレーザーのような見た目の魔法、【ピュア・レイ】を前方やや上方向へ。


 高い威力を持っているであろう太い光線は、ある一定の地点で極端に細まってしまう。


「やっぱり。大幅に減衰してる」

「……クロウ」

「そう。これは――」

「もっとこうバーン!とかどりゃー!とか思いっきし手を突き出してナンダカビィィィィィムってやらないと!!」

「僕を見てどうするの!?」


 クロウはローブから少しだけ手を出して、技名を唱えずに光線を撃っていた。

 名前を叫んだり予備動作を挿むことはどの方法を使うかの合図ともとれる。今の使い方も、どっちかというと言っておけばよかったかもしれない。


 というのはともかくナノハはノリを重視する。


「いい?これはあくまで壁だったんだ。ただし、壁というよりはバリア。魔法の障壁だ」

「魔法障壁…?これが?」

「何のために、どうやって存在しているのかはわからないけど、マナでできてるなら原因はあるはず」

「そういう性質の世界の端っことかじゃなく?」

「……だったらどうしよう」



 さて、クロウにはこれがそれだという予測が立った。しかしだから解決できるかというと否である。


 悪魔の証明には敵わないのもそうだが、結局のところ2人はとりあえずで見に来ただけである。


 この天文学的規模の防壁の発生源など見当がつくはずがないし、戦闘で解決できるならとっくになされているかそもそも船は戦う相手の仕業で帰らずの船となっているはずだ。



「うーん……そうだ。ハナ」

「あい」

「魔法障壁特効のスキル、持ってたよね」

「ん?あー! でも近くまで行かないと当たらないよ?」

「まぁやるだけやってみようよ」

「どうやって?」

「攻撃力バフ」

「えぇ……?」



 ――悲鳴。

 人が高速で投げられる……当人には慣れることなどできないだろう。普段怪力なのはナノハの方なので投げられた方は内心逆じゃない?と思っている。


「ピュア・レイ!」

「っっっつえぇぇぇいっっっりゃぁぁぁああああああ」


 技名という合図がナノハに聞こえているかは不明だが、見えない目標物への距離を測らせるためにすぐさま光線を照射。

 細くなっている境を大体で見定めて「バリア自体にダメージを与えるような技」を放つ。



「【ブレイクバリア】ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 【ブレイクバリア】。マジックスキルによるバリアを解除またはバリアの耐久力に大きなダメージを与える技スキル。読んで字の如く。


「……!これは……」


 ナノハの持つ大剣が壁に一撃入れた途端、そこから波紋のように赤い輪が広がっていく。


 それは空を駆けて大陸の上、遥か上空。そこから下へと弧線を広げる。



「ぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁ」


 パシャーン!!


「あ」


 クロウ、後のことを考えていない。



「うわぁぁーーんクロウのバカぁぁぁーーー」

「分かった分かった。今度えっと……焼肉でも奢るから」

「ダメ、肉じゃなくてイケメンほしい。それかマカロン」

「マカロンって何」

「わかんない。しおんが言ってた食べ物。多分マカロニ」

「なんとなく違うものだと思う……」

「それで、何か分かった?」


 船員から拭くものを渡されつつ、半泣きのような顔のままで「しょっぺっ」……成果を聞く。


「魔獣のバリアは、バリア特効のある攻撃で一瞬赤くなる。この壁は魔獣の仕業で確定した」

「え?こ、これが……?」

「そしてこのバリアは……おそらく大陸全土をドーム状に包んでいる」

「じゃ、じゃあ……」

「中心点がどこかまでは分からなかったけど、ジーディス大陸のどこかにこのバリアの主が潜んでる」

「じゃあ……!」

「その魔獣を叩けば、この見えない壁は消え――」

「じゃあクロウが空飛んでバリア対策突っつけばよかったじゃん!!」

「ごもっとも……ッ!!」



 高機動攻撃はスキルによる高威力化が無ければ、攻撃力を大きく育成しても一撃一撃が軽くなりがちだった。よって力づくでバリアを壊すことが難しいためクロウもいくつか習得済みだった。


 飛ぶことに関しても以前の戦闘のように、1度ごとの回数制限があるとはいえ空中を蹴って方向転換する力を使えば誰も濡れずに済んだ。


 ……彼女は、いや彼女に限らず強いPCたちの多くは非常に多彩な技を持つが、多いがゆえに忘れることもある。

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