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第6話「大変革」 Part1

なんというか、一段落した感じになると思います(別に第一部完ッ!というわけではない)


 帰還した作戦部隊は、心なしか出発時よりも引き締まった表情だった。


 人々はそれを読み取ることはできなかったが、出発時と似た数で帰還したため何かしら成果はあったのだろうと感じている。


 神々の不干渉契約をとりつけたのは間違いなく成果と言えるだろう。しかし彼らの多くは一度忘れた“死”という終着をクロウからワンテンポ遅れながら、人々のあずかり知らぬ所で意識していた。



「敬礼!」



 神の下へ向かい、生還した彼らに組合の職員らは敬意を意味する姿勢で出迎える。

 遠征中組合内では、セレマに存在する軍の挙げ手敬礼と差別化を図ろうと模索していたが、やはりわかりやすい方がいいと挙げ手の礼そのままの採用となったという。


 一方で隊の方は、誰が言うでもなく一斉に同様の礼で返す。一部嫌々な者も見られるが、馬車を降りながら・歩きながらでも自然と手が動いた。



「軍隊っぽくて違和感がありますね」


 ヒトシもそう漏らす。


「人のため戦うという点では似たようなもんだ」

「そういうもんでしょうか」



 礼はすぐに解いて総員ロビーへと集まった。

 そして副長によってこれまでにあったことが簡単に、かいつまんで報告される。


「やはり神も相応の力があるのか……」

「ええ、しかもおそらく底は見せていないでしょう……。とはいえ、あちらから不干渉契約を申し出、受理したのは大きいかと」

「う~~~ん……まぁ、詳細は後で聞き協議するとして……イッカちゃん見た?」


唐突な、作戦と無関係の質問。一瞬戸惑ったものの素直な返答を副長は送る。


「はひ?それらしきむす……グフンゲフン、お子様は見かけておりませんが……」

「ああぁ………」


 隊の前にも関わらず、ペイガニーは分かりやすく落ち込む。同時に周囲は副長に口悪っ、と思った。


 とはいえ3日出たままの娘が更に一週間も見つからないというのは不可解だ。その場の何人かは副目標としてのイッカの捜索を考える。



「セレマの中にいるかなぁ、イッカちゃん」

「さぁ……でも、手が空いたら僕らも探してみよう」


 ナノハとクロウも同調した。


「セレマ中のPCが知ってるはずの女の子が10日も目撃されない……むしろ調査クエストとして手配し、集中した捜索を行った方がよさそうですね」

「頼めるか!?」

「えっ、あ」


 食いつくペイガニーに、状況を嚙み砕いて復唱・提案するヒトシは少したじろいだ。

 その様子が面白く映ったか、クロウも茶化す。


「あー…ヒトシ、組合も忙しいらしいからその機会に転職したら?今なら組合長のいい右腕になれるよ」

「イヤ…転職するとしたら弓職や魔法職の方が興味あるかな…ハハ」

「私の主夫にも転職しない?」

「け、結婚の予定は無いですよ、ナノハさん……」

「ちぇー、顔はいいのに」


 ペイガニーにそろそろ、と囁くシアーズを抜いた3人で駄弁っていると、ペイガニーの演説が始まる。



「皆聞いてくれ!ひとまず、偵察任務ご苦労だった!」


 娘のことで落ち込んでいるとは思えない、いや、その感情は抑えているのだろう。変わらず通る声でまずは労いの言葉を送る。


「報告は副長から後で受けるが、簡単に聞かせてもらった!……1人、帰らぬ者となったことも」



 部隊の雰囲気は静まり返り、逆に他の人々はざわつき始める。ペイガニーは、目に見える傷心をどもることで刺激してしまわないよう精一杯の思いを込めて、続ける。


「それでも、ここにいる面々はその英霊の意志を継ぎ、それ以上欠けることなく帰還することができたのだ……彼はきっと誇りに思うだろう」

「……死んだら誇りもなんも無ぇよ」


 どこからか誰かしら、小規模な毒を呟くが、構わず続ける。


「君たちは我々に代わり始めの一歩を、偉業を果たした。1週間に渡る遠征の後だ、どうかゆっくりと休んでいただきたい」


 これから彼は締めと入る……と思われたが、もう少し、話は続く。



「――と言いたいところだが、一つ問題が発生している」



 緊急?問題?解散してさぁ帰るかと思っていた部隊の一人々々(ひとりひとり)にまだあるのかといった半ば呆れた感情か、もしくは何か厄介なことが起こったのかという緊張が走る。



「海上に見えない壁があるという報告があった。貿易業や大陸外の出身者、そしてこの世界の“範囲”に関わる重要な問題だ。長旅の後だから休んでも構わないが、可能であればすぐに調査に向かってもらいたい」




 ――この世界は平面で、世界の端にはなんらかの終わりがある。そう唱える者がいた。

 それは、未だこの世界の全容が明らかになっていないことによる空想の余地から出づるものに他ならない。


 おそらく水平線の向こうには下の無い終端があって、落ちてしまえば二度と戻ることはできないだろう。


 おそらく地平線の向こうにはまた同じ地平線があって、一方向に進み続ければいずれ元いた場所に戻ることだろう。


 地上は平らか?それとも丸いか?証明する者が、というより調べる術を持つ者がいない中で――


「こっから見るとなんか奥が沈んでるなぁ」

「案外、世界って丸いもんなのかもな」


 ……いや、都市防護壁の見張り台にいる、なんか理解しかけている衛兵らには術があったと言えよう。



 とにかく、あまり戦闘の機会がなかったため消耗の少ない内の2人であるクロウとナノハは帰ってきたその足のまま、早速と港へ向かってみることにした。


 色んな意味で、彼女らは消化不良だった。



「いや大変だったよ。ウチらは機械動力の無い帆船でやってるから引き返せずに壁に当たり続けて……」

「いやいや、スクリューある俺んとここそ生きて帰れただけでも奇跡だ!勢いそのまま見えない壁なんだから船が半分は砕けちまって」

「とにかくどうにかできねぇか?これじゃオイラたち商売どころか故郷にも帰れねぇ!」

「あー…皆さん大変みたいだねぇ」

「一応一人一人喋ってくれて助かる」


 二人は一先ず、壁にぶつかった船を見せてもらうことにした。



 まず、風のみの力で動く帆船。外つ国の事情は知らないが、もう一方の船にある機械動力機構はおそらく高価なものだろう。そうそう導入できるものではない。


 だが、それが功を奏したようで、被害は棒状であったろう船首に切断の跡とそれに伴う一部の帆の切断処置。

 これは帆を上げて停止するまでの時間に長時間接した壁との摩擦による火災被害を止めるためだったという。


「これが動いたんだ」

「そういえば船って乗ったことなかったよね。どんな感じなのかなぁ」

「気ままなもんさ。風がある時ゃ進んでく、なぎの日ゃ止まりの釣り日和……」

「ふーん……」

「ま納期と食糧が十二分な時に限るがね」



 次に、機械式の動力を持つ蒸気船。帆船の方に比べて大型、二回りは大きい。


 乗員の故郷では中型とのことらしいが元はさぞ立派な輸送船だったのだろう。動力は螺旋の推進力で進むスクリュー駆動。


 曰く故郷では輸送速度を大きく向上させる最新鋭の技術で、スクリュー以外にも推進機関には種類があるという。

 セレマにはまず無いだろう技術だが、機械技術の発達した都市アルキテクならば船が不要な地域ではあるものの作れるかもしれない。


 ただやはり高額なようで、場所を取るし燃費もかかるでいいことだけではないようだ。


 そのコスト苦に追い打ちをかけるかのようにその船体はぐしゃぐしゃで、前半分を巨人に殴り折られたかのような傷跡が凄惨な場面を想起させる。どんな手腕があればこの船で全員生還を達成できるのだろう。


「船ってこれでも動けるんだ……」

「むしろこれで動けたのが不思議なぐらいだよ!港に引き返し終わるまで生きた心地しなかったぞ」

「このセレマで他の船を譲ってもらうしかなさそうだ」

「あ゛ーー金が飛ぶゥーーッ」



 一方で、ひとまずは外国船だけ外交を兼ね親書と共に帰投させるという手はずだったためセレマ側には出港予定が無く、被害が無い。


「海の壁、か……」

「大陸の中心の次は海の向こうかぁ。冒険、してるね!」

「そう言うと聞こえはいいけど一応は仕事だからね」

「クロウ固いなぁ、そんなんだったっけ?」

「さぁね。さて――」

「おっ?」

「僕達も見に行ってみようか、世界の壁」

「あ、ちょっとカッコよくなった」



 帆船の乗員の記録により海上の壁までかかる時間は判明している。細かいことは本職の船乗りに任せ、セレマの帆船で件の壁へと実際に訪ねることにした。

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