第5話「ニセモノの大地」 Part5
ゲーム時代のクロスマギアの評価、
「自由度の高さは凄まじく、それに関しては極めて高評価。しかしストーリーは凡作でサービス終了までの数か月は不具合まみれで、結果それまでの高評価打ち消した上で最後マイナス」
もっと言えば☆4→3.5→2.5……
ぐらいに考えてる
〔カバーは任せてしおん!〕
「やるのは僕だけどね」
「そう言いながら、顔は楽しそうだよ?」
「そう…か?」
〔ユウ!約束通りクロウちゃんの新武器名前考えてきたよ〕
〔おー!〕
「自分で考えてほしかったって顔してる」
「顔見すぎでしょ」
〔右手のやつはピーリスレイド、左手のはヒュッペリィカ〕
〔変わった名前だね。でもいいね!〕
「そういうのはもっと――」
「はいはいそれまでそれまで」
〔あ゛ーテスト期間で明日から触れない…むごご・・・〕
(なんだろう、この張り裂けるような……)
《キシャア……》
「わークロウ刺されてる刺されてるー!!」
「人相手だとこう…」
〔人間相手はちょっと嫌な感じするなぁ〕
「クロウ…その割にお相手さん数秒で」
〔PvPだからこそ遠慮はいらないよー〕 〔嫌らしいことする方が悪い〕
〔し、しおんさん?〕
〔最強の胴防具やっとできやぁあああああああああああああああああああ〕
「嬉しいのは分かるけど落ち着いてよユウ」
〔おめ〕
〔おめー〕
〔これでユウさんトップ勢の仲間入りかな〕
〔ク゛ロ゛ウ゛や゛っ゛た゛よぉおおおお〕
「いいから!」
「いいコンビだなあんちゃんとこ」
「僕女!!」
〔クロウがかわいそうだから、回復しよ・・・〕
〔一応いっとくけどゲームだし入れ込み過ぎないでね…?〕
「あ、まんざらでもなさそう」
「う、うるさい…」
そして――
「最終形態だ!」
「よぉぉぉおしっ 今度こそ倒すぞぉぉ…!」
「全員分の回復終わったぞ、下がる!」
「全員最善を尽くすぞ!てかそれしか言えねぇ!!」
「頼むよユウ……!」
超高難易度レイドボス、崩壊神ホーブラーとの戦い。
「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「おおおおおおおおおおお」
大ダメージの波動を飛ばして第3は最終形態。朽ちた骨のような翼を持つ人型人間大の白き魔人。
ここまで来るのに何度も討伐隊――それも何十人ものトッププレイヤーを束ねた――を撃退したその超高難度の肩書に相応しき理不尽の具現化を、とうとう追い詰める。
しかし長い戦いであったがために、蘇生を待つのみの瀕死者も既に数多い。
〔もうむりっす〕
「ここまで来て終わるのか…?」
「いやまだ動ける!攻撃を途切れさせるか!!」
もうプレイヤーもPCも皆ハイの状態になりながら、様々なパッシブスキル・技スキル・マジックスキル・アイテムを駆使し攻撃を重ね続ける。
「ヤベェ、何もかも尽きた」
そういったPCが参戦者の9割になる頃だった。
「音斬斬紅」
クロウが持つ二振りの剣を組み合わせ、次にマナを大量に集める。誰もそれに気付かないほど激しく攻撃し・され続けるこの戦場。数秒が生死を分けるという言葉の意味が飛び交っている。
(〔合体ギミックもあるんだよね?その時は音斬斬紅とか考えた〕)
(〔合体はロマンあるからね!〕 〔でも合体後にもう一味、切り札があるんだよね〕)
色とりどりに変化したマナが絵の具のように混ざり、溶けて、自らの重さで鮮やかさを塗り潰した真っ黒の剣。
たった10秒。それを何倍にも感じさせる周囲の必死の攻防。
わずか10秒。それを何倍にも感じる回避は混ぜても攻撃はしない無力感。
緊迫の時間を終わらせるため、白き者に放つのは
(〔だからそれもじってこう……〕 〔その名も ――)
黒き巨刃、
「――【乙斬斬甲・瑛】」
〔ユーザー名ユウだっけ、あんな必殺技でトドメ持ってかれたらそりゃあ〕
〔たまたまHP減ってただけでしょ〕
〔でもけっこうエグい減りだった気がするミリだけど〕
〔どっち?〕
〔十字に斬って終わらせちまって、こりゃもう玄のサザンクロスとでも呼ぼうか。キャラ名的に〕
〔♰玄のサザンクロス♰〕
〔やめたれwww〕
〔付けたお前が恥ずかしくなるだろwそれ〕
玄のサザンクロス。困難な戦いの終結という興奮に流されるまま、本人のあずかり知らぬところで聞けば恥ずかしがるような二つ名が作られていくのだった。
――〔そういえば第二の黒サザとかそろそろ現れそうじゃない?〕
〔あれが復活したらな〕
〔直後に不具合で封印するとか無能運営すぎる〕
……〔アッッッ待って待て待てもう現れないどこrじゃ〕
《運営からのお知らせ(重要)》
《「クロスマギア・ミッション」サービス終了のお知らせ》
その報せは得てして突然訪れるものである。
なにかとこじつけて嗤い愉しむ者はこの世界であっても少なくないが、そういった戯れとは関係なく終幕は訪れる。予想できるようで予測できない最後の時。
魔法が解けるその時は、殊オンラインゲームという媒体に於いては付き物である。
〔こんな規模のゲームなのに、たった3年ちょいでなくなっちゃうなんて〕
〔ねぇしおんサービス終了って本当にもうこれできなくなるってこと?〕
しおんはユウにかける言葉が見つからず、正確にはあっても放つべきだと思えず、しばらく黙り込んでしまう。
〔一生懸命に、クロウ育てたのに。ゲーム内でトップクラスに強くなれたのに?〕 〔もうできなくなるってなんで〕
クロスマギアがオンラインゲーム初体験のユウにはまだ実感ができていない。
3年、懸命にクロウを強化してきた青春の日々。ゲーム初心者だった彼女にとって、この知らせは大きな衝撃となってしまった。
同時にそれは、自らがゲームのキャラクターであると理解しきってしまったロスマギ世界に大きな混乱を招く。運営告知は会話のように頭に入ってこなかった。
しかし、人々が話題にすれば当然会話として頭に不可避で投入される。
誰も彼らに意思が宿っていることなど知る由もなく。いや、この意思の数々が本当にあったかなど、未来の彼らの中には信じ難く感じる者も少なくなかった。
そんな世界で、天の声が世界の終末を延々囁き続ける。
そしてそういった被害は当然クロウとハナにものしかかる。
「遊びというからにはいつか終わるって、本当は心のどこかでわかってた。でも……」
「いやだ……しおんと一緒にいたい……」
普段の明るい顔のままただ信じられないように嘆くハナ。
「皆いっぱいひどいこと言うんだ、急に全部を裏切ったみたいに悪口言い続けるし、運営ってところがダメダメとか、そしていっぱい笑うの。自分の作った人達は愛してるみたいなこと言うけど、些細なことで言っちゃ駄目なこといっぱい言うの。笑うの」
何かが溢れ出すようにクロウに……ひいてはもっと天へ向かって絞り出すように多くの愚痴がこぼれ出ていく。
無邪気さが常にはみ出しているいつもの彼女とは真逆のか弱さに打ちのめされたクロウは、そのまま想いが吐き出されるのを聞き届けるしかない。
「でも、今までお疲れ様とか、最後までやり遂げようとか、ちゃんと想ってくれてる人もいて、しおんもその一人。反論もしてくれるの。言い負かされても、無視されても、あんまり突っ込んではいかないけど、護ってくれるの」
「ハナ、君は…」
「ねぇクロウ」
改めてクロウの目を見る。
「私、しおんのこと、いっぱい…いぃーーー…っっぱい大好きだよ」
「……」
「目が覚めなくなっちゃった後も、一緒に覚えていてほしいな」
「……うん」
〔私、覚えておくよ〕
「ユウ?」
まるでハナに同調したかのように、ユウが続けて話し出す。
〔高校の卒業式も終わったし、就職も決まってる〕
「学生だったんだ。初めて知ったよ…」
〔終わったちょっと後から社会人で、場合によってはゲームのこと全然考えられなくなるかもしれないけど〕
「……うん」
〔クロウも、ストックも、ナノハちゃんも、そしてしおんのことも、ずーーーっと覚えてるよ〕
「クロウ」
「……」
「幸せだね」
「………うん」
〔分かった〕 ……〔そうと決まればボス巡りでもしよっか!あ、バグは本当に頻発してるから気を付けないとね〕
〔行こう!!!!〕
「ハナ」
「よっしゃ!」
〔私達のロスマギはこれからも!!〕
〔ユウそれ今終わっちゃうやつだから!!〕
こうしてある時、1つの世界が終わった。
クロウとハナは、共に走り抜けたプレイヤー二人を愛し愛され、そして二度と覚めない眠りに就いた。
……はずだった。
「…………」
ベッドの上、鎧も外套もそのままに。
「…………ユウ?」
後は、語った通り。
~第5話「ニセモノの大地」~
――――――――
気付けば、差し出された書面に名前を書き終わっていた。
“Satan Air Clow”……ミドルネームの頭を小文字で描く癖は、この時はまだ表れていない。
<※プレイヤーキャラクター(PC)の名前は、いつでも変えることができます。※>
クロウエア:あれ、字が違う…ちょっと今変えてもらっていいですかー?
正直者:え?あらっ、小道具さーん
“Sathan air Crow”……ミドルネームの頭を小文字で描く癖は、この時はまだ表れていない。
正直者:これ1話目のやつ!!
クロウエア:遊び始めてないかな!?
“Nanoha Saineria”……ミドルネームの頭を小文字で描く癖は
クロウエア:ハナ!!
菜の花:テヘッ♡
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私もけっこうオンラインゲームをプレイしているのですが、そのサービスが終了してしまうということも多く経験してきました。
……という話は変なことになっちゃうので、あとで活動報告にでも書き殴っておきます。
あ、正直者って今回のモブの一人の名前として考えてるトーマスの語源からね
覚える必要きっと無いけど