第5話「ニセモノの大地」 Part4
そんなこともありながら、更に二章、三章と戦いを重ねていく。
するとオンラインの世界に慣れた結果か、ユウがより多く気持ちを漏らすようになっていく。
〔クロウはかっこいいなぁ~~~~〕
「そう作ったからでしょ……」
〔分かる。作ったキャラには愛着湧くもんだよな〕
〔そういうのもっとクレ〕
「皆求めてるって、ユウさんのノロケ」
「も・と・め・て・な・い・の!」
クロウがどう感じようがクロウ側からは何も抵抗できないのでどんどん想いが挙がっていく。
〔まとまってない黒髪ショート!私茶っぽいから羨まし〕 〔ばつぐんのスタイル、すっきりとしててカッコイイ〕 〔なのにたくましくて強くて 〔黒いのがよく似合っててさー〔声いいのあってよかった〔こういう人と一緒にいたいって〔斜め上から見下ろしで「いいよ」って言われたい〕〔二人きりの時綺麗な魔法みせてほし〔白馬に乗って〔でもかわいくて
「もうやめてくれぇ!!」
他のプレイヤーは面白がってかいいぞもっとやれと囃し立てたり、流れに乗っかって自分のキャラクターへの想いを書き殴っている。
書き殴られた本人はというと、クロウ同様に悶えたりそうだ私は魅力的だとはしゃいだり……と様々である。
しおんはこの大騒ぎを黙って見ていたらしく、何も言わない。ナノハもごちそうさまと言わんばかりにニヤけ顔。
〔でも私ゲーム下手だから〕
「そんなこと」
〔いっつも無理させてゴメンよ~~~~〕
「……」
ゲームだから無理も何も無いだろ、と他の誰かが情報体を送るとユウはもう一度同じようなことを言った。
クロウからしてみれば勝手に作って勝手に動かして……とはもうならなかった。そしてそれは面に出ていたようで、ナノハのニヤけ面をムスッとした顔で上書きし抗議した。
また々々別の日、とある高難度レイドボスに挑んだ時だった。
(おかしい……さっきから攻撃を受けてないはずの味方が次々といなくなってる)
仲間内でない他人同士の協力戦、いわゆる野良レイド。
この日は複数人の連携が重要となるギミックが設けられている当時最高の強さを誇る魔獣との戦いだった。
(もう予備動作が始まっている…盾役と打撃役はどこに……?)
歪な人型のその相手は、一定量HPが減るごとに戦場全域にほぼ即死級のエネルギーを解き放つ。硬化している胸部を打撃で壊し、中にある耐衝撃性の柔らかい肉を斬撃で取り除く。そして刺突攻撃で弱点に刺激を与えて弱体化。しかしそれでも高い火力を持つため最後は盾役に全員守ってもらう。
この手順自体の必要回数は少ないものの、どれか1つでも役割が欠ければ途端に突破が絶望的になる。
斬撃と刺突は両用できる面はあるものの、剣を振るうクロウに打撃は厳しい。まして機動性確保のため防御を捨てているクロウにとっては盾の力などもってのほか。
〔皆さんどうしました?人減ってってますけど〕
〔ユウ、通信障害大丈夫?〕
「しおん?ハナは……」
一旦落ち着いて見回すが、ハナの姿は見当たらない。よくある、言葉だけが飛んできているという状況に残念がる。
〔通信障害?じゃあ急に人がいなくなったのって……あともう少しなのに〕
〔あーレイドか。ご愁傷様…リタイアして帰って来るのがいいよ〕
通信障害という言葉の意味はクロウには分からない。ただ、クロウ自身も撤退に賛成している。
そのためユウに伝わらない意見具申を天へと放つが、応えは敵へ攻撃を続けるクロウの動きが物語る。
〔折角だからこのまま一人でやってみたい〕
「無茶だ、そんなこと……」
〔ここで私のクロウが最強ってことを見せつけちゃう〕
「最強…そんなの誰も気にしない」
〔ハマってんねー〕
〔大好きなクロウなんだもん〕
「うぅ……」
突然の好意に、誰も見ていないはずなのに恥ずかしくなってくる。正確にはしおんがその好意を聞いているのだが。
〔誰かに何か言われた?〕
〔自己満。そろそろ集中する〕
「全く…」
〔がんばれー〕
クロウからはどう操作しているのかユウにどう見えているのか全く分からない。途中参加は不可能のためハナの助けも無い。ただお得意の高機動戦闘で硬い胸部をひたすらに高速で攻撃し続けるのみ。
10回、20回、100回、3段階破壊に防御という手順のためか時間の猶予は多いものの流石に相性が悪い。
「あぁぁぁぁあああぁぁぁああああっもおおおぉぉぉぉおおお」
もはや何も考えないひたすらの連撃。時折距離を乗せてみたり刀身強化のような様々な技を織り交ぜひたすらに火花を削る。クロウは誤差なく同じ箇所を斬りつけ続けようと意識したつもりだが生憎部位単位というマクロなダメージしかカウントされない理。
思い付きの物理法則は存在しない世界、ヤケクソとみられよう蛮行はクロウの限界を超え数人に分身してみせるような激闘を演じる。
(バコン!!)
岩が崩れるような大きな音と共に、無駄かと思われた努力は報われる。
残りコンマ秒の余裕、ただし体勢を崩し少し期間は伸びる。
〔ユウ?〕
「やってみせろよ……!!」
強制噴射。
機動性特化の彼女には急な方向転換を可能にするほどの力や技が必要だった。
『!!!!』
無茶な発射によって崩れかけた姿勢で飛び掛かり、×の字に斬る。
「……レイス……ブレード」
弱点に向けてマナを込め、刀身を伸ばして無理矢理突く。
怪物は叫びを上げて………衝撃波を放つ。
クロウらPCに疲れるという概念は今は無い。しかし、もうクロウは動かない。
「お手上げか・・・悔しいなぁ」
「でもなんだか……」
クロウには自分達の生活がゲーム、遊びであることが理解できている。
更に、強制敗北以外にはほぼ無敗。安定した勝負ができていた。万一負けてもただ自分の部屋に戻されるだけだと分かっていた。
だから、この時はもう命の危険は感じなかったのだろう。
「清々しいや」
よって残っているのは、奇妙な達成感と、ユウへの不思議なシンパシー。
良く言えば吹っ切れた思考。悪く言えば現実から離れてしまった思考。
目が覚めるとやはり彼女は自分のベッドの上にいた。
〔ゆb、ちkreta〕
〔おつー どうだった?あと多分英字入力になってる〕
〔おしかった〕
《大丈夫かい?クロウ》
ドアの向こうにいるストックの言葉が吹き出しとなって見える。声も同時に聞こえるのと情報体の流入のためいつもならば酷くうるさく感じるものの、今は水晶のような頭の中がほどよく受け止める。
「どうやら僕は、自分で思ってるより熱い人間らしい」
〔うーん……どのくらい惜しかったかは明日聞くよ。もう遅いし落ちとこ?〕
《熱病にでも侵されたか?大変だ、一先ず今日は大人しく寝ていてくれ》
〔うん、またね〕
「熱病……似たようなものかもね」
以降、クロウはユウの熱に触れ、認めていくようになる。
(僕はユウ、ユウは僕、その上で友達、か……)
無我夢中の挑戦という一心の最中で、自分と自分のプレイヤーがひとつに重なった気がした。
段落の先頭下げ処理、「」括弧以外の括弧全部下げちゃうんだね