第5話「ニセモノの大地」 Part3
〔しおんのスキルがおもしろくて、綺麗で、だから作ってみたの!〕
〔いやぁ照れるねぇ。どんなの?〕
〔使うねー〕
クロウの身体が七色に光り、
「????」
「わっ」
その中から赤い色のみがクロウの身体全体へ広がり、そしてオーラとしてふわり纏う風になる。
〔ゲーミングクロたん〕「ゲーミングクロたん」
「息ピッタリか」
効果は対応する7種のステータスの内選んだ色に対応する1つの一時強化。例えば赤はこの魔法において攻撃に紐付けられた色である。とはいえ特別強いとまでは行かず、見た目だけである。
この時期にはクロウの育成方針は固まりきり、速度と攻撃力を重点的に上げる高機動戦法が板につき始めた頃だった。
その戦法には暗殺じみた部分も大いに含まれているためこんな派手な魔法は使えたものじゃない。
(プ、【プリズムセンス】……また変なものを作ったなぁ。効果は単純だけど使い辛いし恥ずかしい)
「面白いね、クロウのご主人」
「ご主人?んー……ご主人?」
〔ちなみにそれ意味あるの?〕
〔色に応じた能力アップだね〕
〔どのくらい?〕
「クロウ的にはどんな感じー?」
〔1.1倍ぐらい?〕
「ほんのちょっと違うなーぐらいかな」
「びみょい」
クロスマギアにおいて能力数値は確かに大事なものだが、1.1倍の強化というのは序盤の強化魔法以下程度の意味合いになってくる。
この時点でのユウの進行度は、(実装されているメインストーリーが一章のみの中で)一章目中盤、しおんは一章目クリア。中級者と上級者という位置にいる。
そこまで行くと能力値を一つ一時強化する場合最低でも1.5倍は欲しいというのが大半のユーザーの印象になる。
自然の流れというべきか、この【プリズムセンス】なるマジックスキルは結局これ以降使われていない。
「これ、ナノハの技を参考にしたみたいだけど……」
「全然違うよね。でも――」
〔なんか嬉しいな、ゲームだけど・・・自分の好きなものが認められたみたいで〕
「それでいいみたい」
「どういうこと?」
クロウには事情はよくわからない。後にハナに聞いてはみたものの、彼女にもよくわかってはいないらしい。
ただ同時に、しおんはその手のことで思うことがあったらしいとも聞いた。
〔そんなしんみりしてどうしたの?〕
〔忘れてくれるとありがたや〕
「僕だったら多分恥ずかしかった」
「おいおい」
小突くツッコミ。
この時のハナはまだ大人しかったとクロウはその後思うことになる。
「……どうして、」
「んー?」
「どうしてナノハはしおんっていう……ご主人と仲がいいの?」
主二人は談笑を始めている。
その間我々は動かないだろうからと、それらの会話を流しつつ主とツーカーなハナに質問してみる。
「んー……私はそうだなぁ……性格かな。私の」
「自分、の?」
別の人のことを訊いたら私のと返ってくる。若干戸惑いつつも続けて耳を傾ける。
「しおんのやり方が気に入ったっていうのかな?細かいことはよく分からないけど楽しいっ」
「……僕にこそよくわからないな」
「クロウは考え過ぎなんだよ。ほら、また七色に光ればさ」
「ユウの気持ち次第だ」
ちっちっち~……と指を振ってそうじゃないと伝える。
その中で思い出した。僕らは小規模なら自分で動ける。起きて、外へ出て、組合、依頼、戦い、組合、時々武装や技の作成・会得や強化、そしてまた寝る。おそらくはそれを恐ろしい密度で繰り返していただろうこの日々の中では実行するための意志も擦り切れていったのだろう。
ただ、意志が擦り切れるというのは本当は違うのかもしれない。だからちっちっち~、なのだろうな。そう同時に思った。
「しおんは私なんだよ。そして私はしおん。クロウは運命って信じる?」
「運命……?」
「私は信じてない」
「どういうこと?」
「私としおんは一心同体。導かれてるわけでも縛られてるわけでもない。しおんは私、私はしおん」
ただイコールでいい。単純な話。
直接的な解決ではないから、一度イコールでないと考えた者がそう割り切るのは難しいだろう。それでも、見知らぬ誰かに動かされるという一種の運命論的干渉を否定すれば、実の所彼等に強制感は無い。結局は考え過ぎ、という当人からすれば納得は行き辛いだろうが、単純な話へと変わり果ててしまう。
「ヤバい人って感じだけど…そう受け入れるしかないのかな」
「ヤバい人とはなんだー!ヤバい人とはー!」
――後に起こる世界の変化においては、これを操られていたと思い続けた者がトリカブト等のような不良バスターという反動を形成することとなった。
〔じゃ、そろそろ戻ろうか〕
〔だねー〕
「今、僕はセレマに戻ろうとしている」
「それはプレイヤーの意思であって自分の意志じゃない。でも本当は逆かもしれないし同じことを思っているかもしれないよ。クロウは頭がいいんだね、だから天の声に縛られちゃってた」
「頭に逐一やることの言葉が浮かべばそうならない?」
「でも常にじゃないでしょ?」
「うぅ」
「納得行かないならブーブー言いながら仕方ないなって付き合ってあげる。プレイヤーと私達の関係を悪く捉えてない人はきっとそんな感じだと思うな」
「それで……割り切れるものなのかな?」
「私達は天使とお友達、そんな風でいいんだよ」
それからか、クロウはユウという存在を軽んじるようになった。なんか勝手に喋ってる、直接頭に入ってくるのはウザったいが生き物を飼ってるようだ、そういう風である。
そしてだからこそ自分を縛る天の声ではなくただの知り合いとして逆に愛着を持つようになっていく。
こんなことで、身体がなんだか軽くなっていくような気がした。同じ動き方のはずなのに心なしか、戦いのキレが増したように感じる。
「……おと……いや女の人か。いやそうじゃなくて…!」
〔よっすー〕
〔しおんちゃ。。。〕
〔どった?俺のおっぱい揉むか?〕
〔男ってさ、勝手だよな・・・〕
「はぁ?」〔はい?〕
またある時、今度は拠点たる部屋の中に美青年のような麗しい容姿の女性が突然立っていた。怖い。
〔なんか・・・やっぱ好みじゃないとか言われて〕
(失恋かい。でもだからって僕に重ね…)
〔おーよしよしよし、かわいそうなユウくん……〕〔私はネカマじゃないから安心して胸を揉みな……〕
「いや本当に何言ってるのしおんって人は」
こうしてクロウの使用人であるストック・ブーゲンビリアは生まれ(そしてついでに拗らせた結果クロウのテキスト設定もユウを愛してるように弄られ)た。
〔ネカマって何?〕
〔あーそこからか〕
(というかこの人喋らない動かないだから本気で怖いんだけど……!)
ストックはその後設定されたパロメータを取り込んだAIにより、女たらし?のような言動が増えるようになった。
《ああ黒百合のように凛と佇む君よ――》
「きもちわるいやめて…」