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第5話「ニセモノの大地」 Part2

 産んだ親と育んだ故郷どころか、“バスターには過去が無い”……正確には、PCと呼ばれる種類のバスターにのみ過去の一切が無いという。過去を思い出そうとしても記憶は無く知識としてよぎる雑念のみ。


 この身一つで戦いの世界へ放り出され、自分の意志かも怪しい自分の意志で働き続ける。


 幸いだったのは、眠気も疲労も食欲すらも。生理的欲求の何もかもが無いということぐらいだ。


 ある時ロッセクトというらしい生物を殺した。硬い甲殻に剣と魔法2種の攻撃を当てる。攻撃、相手の攻撃、そして攻撃。いずれも身体は全てを知っているように動く。


 勝手にではない。僕はこの動きを知っている。知ってて動いている。ただ、経験はない。なのに、自分が恐ろしくなるほど完璧だと感じた。



「魔獣を倒して経験値を得ると、レベルアップしてステータスが上がるんだよ!」


 その経験を、今手に入れたという。


 どこかから現れたその輝くように白き発言者は「イッカ・クラフト」。PCという存在ではないらしく、会話を試みても反応は示さない。


 ただ、近づくといくつかのパターンを喋る。人であることには間違いないはずなのに、まるで人形のようだ。


「――でも無理はしないでくださいね?貴方が倒れては、悲しいですから……」


 救いがあるとすれば、このイッカという人形は極めて心やさしく、PCという存在を支えてくれる人形であるということだ。



「んっっとにすまんかった……」

「申し訳ない先日は……コイツを止められなくて」

「いいよ、その内ぶち当たることだっただろうから」


 数人テーブルにいた内の2人が謝ってくる。ただどっちかというと、さきほど出かけた時と寸分違わぬ姿勢で座っているということの方が気になる。いや、先ほどどころではない。2人と初めて会ってから数日、その時からずっとここにいる。ここへ来る時間が毎回違うため不自然極まりなく感じている。


「ああ、まぁ……その内分かる」

「まぁ、なんでか、暇を苦に感じないから意外と楽だけどな」


 それを聞き終わる頃、また身体は外へ向かう。


「大半はそこまで気にしないことなんだがなぁ…」

「もう二度とやんなよお前」

「だからすまねぇって……」


 失礼とは思いつつも、()()()()()()()()。次のお話だ。



 いくつもの日々を重ねて、この世界のことやルールをイッカから教えられながら次々と敵を倒していく。

 教えられた知識は全て記憶にあるもので、なぜわざとらしく教えてくるのかが理解できなかった。



「そういえば、あなたはどうしてバスターになったの?」

「分からない」


 基本的に会話はイッカ一人で完結するが、時々、返答ができることがある。この手の返答に関しては一言以外の選択肢が思い浮かばない。



「そっか。いつか、なってよかったと思える日が来たらいいね!」



 組合に登録して一ヶ月ぐらいか。そんな会話が起こった。


 クロウは本日出る前に〔じゃあ南西のテレマー平原に行けば手に入るんですね〕とだけの声を聞いており、質問の続きといった風だったので天の声と自分の間に時間のズレがあると確信していた。


 だからこのひと月も主、父、マスター……いや、プレイヤーなる存在にとっては数日かそれ以下かというレベルなのだろう。


 更にはその存在、この魔獣災害に抗う戦いの数々をゲーム、遊びと考えているという。今はまだ、遭遇する魔獣は弱い。だがそれでも命がけであることには変わりない。それを、遊びだと言う。


 そんな存在に、クロウはその間操られていたことになる。それが「なってよかったと思える日」が来るという。



「他人事だと思って……」

「じゃあ、一旦セレマに戻ろうか!」


 脚は、それでも彼女へついていくように動かす。本当に自分の意志なのかも分からないまま。


 ――ただ、そうした生活をしていくうちに、ヒトというモノの定めと言うべきか、段々と慣れていくのだ。



 遭遇する魔獣は時折強くなっていく。しかしまだ弱く、無敗の戦いが続いていく。


 身体が動くのは自分の意志。しかし、それは同時に神の見えざる干渉といえるもの。真面目なのに惰性、必死なのに常に油断している。そんな相反する心境のままこの生活は続いていく。



 ある時組合で「NPC」と呼ばれる人物の2人が、ボードゲームをやっているのが目に入った。

 盤上の駒は勝手に話さない。駒は勝手に動かない。駒は……きっと何も考えない。


 そう考えると、何故我らにはこんな意思と言えるものがあるのだろうと思わずにはいられない。



〔サザンクロスから取ったんだ、なるほど~〕

〔その「ナノハ・サイネリア」って名前ももしかしてお花から?〕

〔うちお花屋だからそうなるのよー〕


 盤上の駒から視線を戻す。そこには、ユウの話し相手と思しき者の駒が時折微笑みながら立っている。

 桃色の髪がよく目立つ、お姫様のような女の子だった。


「私達もお話しよっか!」

「えー」

「そんなに嫌!?」


 親同士が知り合う。すると子同士も友達にさせられる。そんなノリでクロウとハナは出会った。

 といっても、この世界ではそれが自然な出会い方なのだろうが。


〔フレンド登録できあよ!あとフレンドのミション達成してえう〕

〔そういうのほんと残しちゃうんだよね…〕 〔誤字かわいっ〕

「ほら友達だぞー?逃げられないぞー?」

「今すぐここから立ち去りたい」

「クロウ!」


 急に大きな声を浴びせられ、思わず硬直してしまう。


「なんか下向きだねぇ」

「なに…」

「もっと前を向かなきゃ」


 クロウよりも若干背の低いハナが、顔に手を添え持ち上げる。

 真っすぐ前を向いていたので、上を向く格好になった。


「改めましてナノハ・サイネリアだよ。プレイヤーは“しおん”。これからよろしくね」

「……まず手を戻して」


 ふと気付く。


「あれ?そうやって動けるのは……」

「え?」

「えっ?」


 ……ここでクロウは、ある程度は完全に自分の意志で身体を動かせることをようやく知る。これまでも無意識ながらできていたであろうことを。



 それから二人は共に行動することが多くなった。


 ユウとしおんの意気投合により多くの時間が二人の時間となる。


(レイスブレード……)

〔闇の刃?ユウの自作?〕

〔うん。伸びると便利かなーって〕

「名は、ダークネスブレイドといったとこかな?」

「違う」

〔ダークとかじゃなくてレイスってとこがいいね!〕

「しおんとセンスが読めないぃぃ」

「お、大げさだなぁ」


 時には作った技を見せあい、



〔あ、次のボス1度負けイベント挟むせいで弱いからテキトープレイでいいよ〕

〔それ言ってよかったやつ?〕

「そういうことなんでガンバッテー」

「なんか気が抜けるなぁ」


 時には攻略情報を教えられ、



〔防御フィールド貼るよー〕

〔りょ〕

「領域からはみ出さないように……」

「クロウ速いもんねー、ほいやぁっ!」

〔花屋の底力見せたらぁー!〕

「見せたらぁー!」

「仲いいね…」

「そりゃああああ」


 時には共に戦う。



 次第にユウはクロスマギアに「ハマって」いき、サービス開始当初からプレイしていたしおんに追いつかんほどの進撃を見せる。

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