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第4話「インテギュラル・エモーショナー」 Part4

 ははははははは…………


 その多くが作り笑いだったことだろう。


 彼を全く知らないからこそ何も感じない、せいせいすると思った者。

 彼を知ってるからこそ泣きたかった、笑っていられない者。


 それでも、笑いで解決する感情なら。



「……感情には、嘘をつくことはできません」

「もういいだろ。俺達は感情の神であっても化身ではない、心は彼らのものだ」

「…………」



 後悔と笑い、それらが落ち着いた頃。シアーズはももの取り巻きへ提案する。


「……それはそれとして、この世界になって最初の死者ともなれば公表しなければならないだろうが……流石にこの名前のまま公表するのもなんかアレというか……だから戒名を別途作るのはどうだろう」

「戒名?」


 PCの中には奇をてらった名前を付けられた者も少なくない。

 ももももももも幕の内……世界が変わって最初の死亡者を大々的に葬送するにあたり気の抜ける名前では格好がつかないだろう。


 とはいえ大事な我が名、特に自分を造ったプレイヤーに親心を感じるような者からすれば、格好つけるために変えてやるなど度し難い。提案しているシアーズも遠慮がちな態度だ。


「そういえば、アニキは下ネタは使っても名前はネタにしなかったッスね」

「むしろ俺達の呼び方そのままでアニキと呼ばせようとしてたぐらいだし」

「意外にコンプレックスだったんだねぇ…」


 ただ彼の場合は、そうではなかったようだ。

 自分の名がおかしすぎて嫌になる、そういう者も当然いるのだ。



「そうか。じゃあそうだな……たしかなんとか院って付けるんだったな」

「なんとか院」

「他にはないの?」

「うーん……言い出したはいいが忘れてしまったな、主は細かに話してたが細かすぎて逆に覚えきれてない」

「戒名の知識が必要な会話ってどんな話だったのさ……」

「とりあえずそれっぽい……ベールとか」

「あからさまに隠してるんじゃん」


 ベール、真実を隠す幕。一応真面目な話のはずなのにシアーズはナノハに突っ込まれてしまう。


「うーん……陛琉院(ベール・イン)、それっぽくはなった」


 ウインドウのメッセージ機能から漢字変換を探し、それらしい字を充てる。

 あくまで漢字の確認のためでありそれ以上のことはせずにウインドウを閉じるが、まず想定されていない使い方。まるで辞書のようである。



「ある意味、PCへの隠語のようですね」

「あ、ヒトシくん帰ってきた」


 離れて黙祷していたであろうヒトシがいつの間にか流れに加わる。


「字面はそれらしく、本人の求めるだろうかっこよさのある戒名。しかし分かる人には本当は別の名前があるのだと分かる、そんな第二の名前」

「そこまで考えてないんだが?」

「というかけっこう前から聞いてたんだ」

「か、影が薄いようですみませんね……」

「鎧めっちゃキラキラしてるよー目立つよー?」


 励ましなのかツッコミなのか判断のし辛いナノハの返し。スルーした。


「幕の内の仲間も、これでいいか?」

「まぁなんであれカッコイイなら喜ぶと思うッスよ!」

「陛琉院……こういう時はよく分からない誰かが死んだと思われたぐらいでちょうどいいのかもしれませんぜ」


 それぞれの理由で納得し、その名を胸に空を見上げる。天気は良いので慕う彼の魂を幻視しようとしているのだろう。


 同時に、機を窺っていた死体処理部隊が陛琉院と名付けられた者の身体を粛々と袋状の入れ物に防腐剤と共に仕舞う。


 魔獣の死体の処理業務を悉く掻き消された本遠征での初仕事、おそらく黒子の中身は暗い顔だ。



「人はいつか死ぬが、せめてあの子分らのように……残された連中には前を向いてもらいたいな」

「それは死亡フラグ?シアーズ」

「折ってみせるさ、何度でも」


 そういうと、もうやり残すことは無いと言わんばかりに戻っていった。


「折ったことあるの?」


 クロウらも続けて戻っていく。



 ここからもう3日かけてセレマへと帰還する。

 本物の“死”を目の当たりにしたバスターたちの帰り道は今まで以上に安全に、苛烈に進む。


 往路で出現傾向の予想を立てたのだろう、魔法による飽和攻撃はそれに合わせてより激しくなり、前方に盾となる役目を負ったバスターが魔法による強化により撃ち漏らしを通さない。盾役にブロックされた魔獣は近接戦闘に優れた者が盾に食いついてる間を素早く、非常に素早く撃破する。



「暫く経って落ち着くまではヒリヒリしてそうだ」


 自らも毎回速やかに前線へ立つクロウは、自分以外の戦闘にそう感じざるを得なかった。


「クロウは大丈夫!?」

「僕は大丈夫。僕も今は……失ったもののために生きているから」



 “自分”を形作るユウというもういない家族。


 その人が存在した自分という証拠に何らかの形で応えたい。


 この復路は、感情の彷徨う戦場。誰しもすべからく、失うという他動詞のために戦っていた。



「――もも以外全員、五体満足でいるかね?」


 聞くほどのことではないという無言が、大きな門の前でいくつかの頷きの金属音擦過音(さっかおん)を含んで応える。


「全員、よくやってくれた。では、帰りましょう……我々の都市へ」



 指揮官による帰投宣言でセレマの門が開く。

 ボルツェンカボーネ接触作戦は、これにて完了した。


~第4話「インテギュラル・エモーショナー」~


――――――――


他にも復活の力を持つアイテムはいくつかあるが、全てがリライズパーティの派生アイテムであることから、もうこの状態ではその使用に何の意味も無いことは明白である。


子分A:「アニキ……!もものアニキ……!!」

子分B:「また言ってくれよ、ほら、目を開けてムスkgいっちまとこだtたとかソナクダラナイシモネネタをさぁ……!」

子分C:「復活の魔法リライザーも効かねぇ……魔法ってのはなんでもできるんじゃないのかよ……!」

菜の花:ぃ今ので続けるんだ……

子分A:「アニキ……!アニキ……!」

スモモ:「ヒック」(ビクッ!)

子分B:「うわびっくりしたぁッ…!」

スモモ:「あすいませんもっかいお願いします…」

クロウエア:お水いります?


――――――――



想いとは。感情とは。

悩んだことはありますか?

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