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第4話「インテギュラル・エモーショナー」 Part1

長めの英題使いたいお年頃

 黒溶神殿窟、入口。



「答えてみろ。こんな大勢で何故此処に来た」


 加圧する強大なオーラ、覆う感情の激流。答えられるわけがなかった。


(ど、すれば……声が出ない……恐怖なのか?恐怖……もう越えたと……)


 そうだ、もう味わったじゃないか。


「…………ぼ、くは」

「……」


 思い出せ、あの時感じた生と死を。


「ただ、確かめに…来たん、だ……!」

「なに?」

「神が……くっ……今……」

「あすまん!!モリオナァー!」


 スゥ……ッっとそんな音がなる錯覚がするほど急速に、怒りも悲しみも不安も、突然に取り除かれた。


「……えっ?」


 総員、呆気にとられるしかない。


 クロウはかろうじて彼の声を認識したが、他はそれどころじゃない状態であったためとりあえず戦闘態勢をとっておく。

 小物のようなそうでもないような指揮官は息遣いが荒いがそれでもまっすぐに負の男神ボルツェンカボーネを見据えている。


「モリオナ?え、というか、謝っ……?え?」

「ふぅ、悪い々い。この無差別に感情をバラ撒くの制御できなくてな……とりあえず奥まで来ていいぞ」


 割と気さくで、負の感情を司る暴走の神か疑わしく見える巨大な黒き神。

 しかし嘘のように消えた哀しき感情から力は本物だと結論付けるしかない。指揮官はここは指示に従う以外に道は無しと判断する。



「いらっしゃい、子供達」

「こど……」

「なんもねぇところだが、まぁその辺にかけてくれ」


 そうしてやってきたのは(決戦・レイド用ダンジョンとあってか元々さほど深くない場所とはいえ)最奥に位置する大空洞。


 物々しい2柱の像に入口の崩落で探索ができない古代の建造物、数多のプレイヤーがかつてボルツェンカボーネと決戦を繰り広げた場所にさぁ座るといいと言われ、素直に寛げる方がおかしい。


 しかも、正面に相まみえるのは片やそのボルツェンカボーネ本人、片や――


「私の自己紹介はいらないわよね?」

「ここまで来たことの無い奴もいるだろう?」

「私はモリオナ。このひとと対を為し、このひとを止めるために貴方達バスターを生み出した者。……とされる者」


 対なる女神、モリオナ。もう一つの“始まり”。


 ボルツェンカボーネより頭一つ小さいが共に見上げるほどの大きさでこちらを見下ろしている。


「な、黒いのが1体だけじゃなかったのかよ……!」

「聞いてねぇよこんなのさぁ!!」

「よしなさい!無礼ですよ!!」


 黒神の能力が顕れていないにもかかわらず焦り出すバスターたちを諫めようとする指揮官。

 だが当の神々は気にしない。というよりは、微笑ましき子供の遊びを眺めているかのようだ。


「いいんだよ ンなに畏まらなくたって」

「ええ。今の我々は異能こそありますが、人と同じく“思う者”……隣人のように接してくれて構いません」


 相手は神。それもモリオナに至っては設定上バスターの創造主と言える存在だ。その場にいた多くは先の暴走感情の外部制御も相まったことで寛大な言葉に聞こえたことだろう。


 赤黒い肌に黒い衣服で鬼神のような形相のボルツェンカボーネとは対照的に、白く輝く肌に高僧のような衣装。儚げで神秘性のある雰囲気も味方しているだろう。

 

……ただし、それを人々を見下す神々特有の傲慢と捉える者も少なくない。


「隣人ねぇ、隣にこんなでっかい人置いてたら怖くて堪りませんってことですよ」

「あら?」

「ま そっちからしたら膨大な魔力だの感情変にして無力化だのでいつでも我々を殺せる…そんな親しむべき隣人に“こうしても構いません”とか許可を下すように言われたら井戸端会議もままならねぇ」


 またでた風野郎だ。やはりどうにもシニカルな男らしい、少しも怖がらない強気な姿勢で臨んでいる。


「……どうやら貴方がたにとって不愉快になるような言動をしてしまったようですね。人の心を得たつもりですが、人間心にんげんごころというものは難しいですね……」

「その人間心っていうのがダメなんじゃないか?モリオナよ」

「人間心、神から目線とでも言うべきか!言っとくがね、結局お前らも――」

「そこまでだ、ツイスター!」


 シアーズがついに彼を止めにかかる。もう既にまとめ役と化した彼から謝罪の言葉が送られる。


「申し訳ない、2柱の神々よ」

「いやなに、こちらが無知だったために起きたこと」


 そう言いつつ2柱はするすると小さくなっていった。

 見た目はさほど変わらないが、人々に合わせた人間大の大きさへと遷移する。


(でも、それは同時に、ゲーム時代と同等以上の力を持っているということ……)


 クロウは、その“能力”が使われたことが意味する事実を認識した。


 例えばこれに加えて外見を人々の中に溶け込むような個性のあるようなないような、それこそこの部隊の内の一人に化ければ、あとは力を解き放つだけでその地域は制圧できる。

 否、それは一区域を超えて大陸全土にも及ぶかもしれない。


 とはいえ上限を測ろうとすればそれだけで全ては終わる。

 自然に聞き出せればいい。その力の規模の自覚している範囲、そしてその力をどう使うか。

 だが、見つかってしまった。クロウ、だけでなくこの場の幾人かは透明化の魔法が使えるだろう。それを使いこの会談の後から2人の会話の中で聞き出せれば


「神々よ!」

「おん?」「何でしょう」


 副長。いやこの場では指揮官だ。


「あ、あああ改まって聞ききっき、聞きたいことが、ああ、あるッ!」

「落ち着け、今モリオナのおかげで力は落ち着いてっから」

「そ、その…貴方方の能力は……どどっ、どぉれくくぐららいの規模までかかくだだだだだいするので、ありましょうかッ!」


 ……あ普通に聞いちゃうんだ。クロウだけでなく全員が思っただろう。


「この力は……まぁ、普通に大陸全部に届くだろうな」


 あっさり言うんだ。クロウだけでなく以下省略。

 同時に、きちんと話せることが分かった今、自分達が悪い方向に想像し過ぎていただけなのかと考えるようになっていく。


「今はモリオナに制御、いや抑えてもらっている。だが、“物語”と同じだ。本当は世界が変わったからどうにか力を抑えて隠居してぇところだが……人々の感情が俺の司ってるという負の方向へと極端に振れていったら抑えられない時を迎えてしまうかもしれない」


 自分の心の臓のあるであろう胸に握り拳を当て、願う。


「その時は頼むぞ、何者にも屈しない勇者達よ」



 感情を司る2柱の神々。だが、この言葉には本気の意志が込められているように、居合わせた誰もが感じた。


 ……本当に、自分でそう感じているのか?

 現実というしがらみの中で相対する感情操作が可能な上位存在というこの状況では、疑心暗鬼は拭えない。

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