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第3話「負の男神」 Part4

「暗くて見辛いが、目的地だな」


 何人かの光の魔法が照らすそこにはいかにもな柱が一対、大きな入り口の両脇に鎮座している。


 それは神殿の名の通り、洞窟というよりは遺跡のような入口。しかしそれ以外は土に覆われ、埋まり、歴史の中で忘れ去られたかのような哀愁を演出している。


「というより、目印があるだけの洞穴だね」

「今は夜だ、指揮官の言う通り今日は休もう」

「身体動かしたいなー」

「ダメだよハナ。ストレッチぐらいに留めて」

「えー」

「最大限の注意を払わなきゃいかん。用心しなくちゃな」



 少し離れた場所で3度目の夜の野営。保存に適した乾パンや干物で腹を満たす。とはいえ様々なものを入れた時のまま取り出せる“ウインドウ”が生きているため、別途好みの食糧を取り出す者も多く見られる。



「…………」

「ハナ?」

「…………」

「ああ、食べ物仕舞ってくるの忘れたんだったね」

「果物食べたーいお菓子食べたーいもやし食べたい」

「最後急に慎ましくなったな」

「遠征はまだ3日目だよ?我慢しないと」

「そういうクロウは凄いの食べてんじゃぁーん!!なんだそれよこせー!!」

「わ、落としちゃう落としちゃうって」

「ミートパイか。耳が楽しいな、自分で作ったのか?」

「僕にはできないよ。ストック――従者が作ってくれる」

「ほーう」


サク…サク……と、ウインドウを利用できるがゆえの出来立てクオリティが、やや肌寒い宵の口を火照らせる。



「よん…4つ……あの2の2乗は何食べてるの!」

「ついにネタ切れか。今後はシアーズと呼ぶといい」

「シアーズさんはジャムですか」

「糧食の味付けにいいかと思ってな。ヒトシもどうだ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」「私にもよこせー!!」「順番!順番だッ!!」

「ふふ……」


 期せずして集まった腐れ縁、明確なつながりといえばプレイヤー同士の仲がよかったクロウとナノハぐらい。即席ながらもいい雰囲気で談笑するこのチームに、思わず表情が緩む。


 作戦前夜。なんとなく、この時間が続けばいいと思ってしまう。



「あ、僕はいいよ?」

「助か、るッ」

「むぐっ!甘いぞぉぉぉぉぉぉ!!」

「ははは……あ、スプーンストレージに持ってるけど使います?」

「あれそういえばシアーズその兜でどうやって食べてるの」

「ん?いやまぁハハハ……」


 口を覆う部分が可動式カバーになっているにも関わらずついはぐらかすシアーズに、クロウが続けざまにもう一つ質問する。



「あのさ…今回の指揮官、小物っぽいけど大丈夫なの?」


 プレッシャーに圧されながらもやる時はやるペイガニー組合長。その代わりに来た司令官は小柄、妙な髭、見続けてるとムカッと来ると言われるジト目に、妙に響く特徴的な笑い声。衣装も金を使用した煌びやかな部分が目立つ。


(ヒホホホホホホッ!)

「…………」

「…………」

「3日前から思ってたけど、こんな笑い方する人ほんふぉいいふんぁうぇ……」

「お前はそろそろヘラ返せ」

「味方、なんですよね……?」


 小物のテンプレートかと言わんばかりのあからさまな人物。その名は、副長と表記されるのみで誰も知らないものだった。


「ゲーム中ではあんな笑い方しなかった気がするんだけどなぁ」

「逆に、前はあんな笑い方しなかったんだ……」

「ま、こっから先はなるようにしかならねぇ。副長の指示に従いつつ自分の力を信じ、んん?!」


 ジャム用に持ってきていたヘラをナノハから取り戻そうと持ち手を持つが、ナノハの怪力により全く動かない。というか捩じ切れんばかりだ。ヘラが。


「いやなんで返してくれない!?」

「あ、つい反射で」

「のわぁっ!」


 急に手を放したことでシアーズは盛大に転ぶ羽目になってしまった。


「…そういえば、PCの一人にゲーム時代からの想い人がいるらしい。帰ったら告白するとか言ってたな……よっこいせ」

「うわ、大物だ」

「ええ。黒幕と言って差し支えないほどに思えてきましたよ」

「だ、大丈夫なのこの作戦!?」

「お前はごめんぐらい言え!!」



 そして晩餐が終わり、交代の夜の見張り……を探知や罠に長けたバスターの力に任せて夜を越え、ついにその時が来た。


 突入直前の一言として、件の指揮官も口を添える。


「よいか、ペイガニー組合長の言った通り、無事に生きて帰るのだぞ」

(うわ、偉そっ)

(けど、言ってること自体は)

「でないとワタシの出世に響くからな!」

(……それっぽかったのに)


 形式的な言葉で済ませるのだろうかというところに飛び出た欲望の言の葉は集まっていた全隊にブーイングの罵声を大きく上げさせる。


「ヒホホホホ……!それだけ元気ならば大丈夫そうやの!ま、せいぜい泥をすすってでも生き残るのだ。みなで生きねば明日の平和に障るからのん!」


 ったくそんなひねくれた冗談あるかよ、と意味だけ考えればいいことは言っているはずなのに釈然としないそんな感情がもう一度辺りを騒がしくさせる。


「ヒホっと靴の紐が」

「本当に大丈夫なのかなぁこの人で!?」

「ハナ落ち着いて」

「ったく、騒がしいなぁ人ン家の前で」



 ――――その場にいた全てが凍り付いた。


「あん?人間か。違うな……」


 全て、というのは草木や大地のことではない。一種の比喩表現だ。


 ただ、その場にいた生物――ヒトやそれ以外を問わず――は全て、本当に凍り付いたかのような刺激を脊髄に充填させられたことだろう。


「バスター、モリオナの奴が作ったっていう対俺用の兵器か」



 人の負の感情を支配する実質不滅の神。


 纏う雰囲気が、いやオーラとでも言うべきものが、心の温かい部分を冷やして震わせる。現れるだけで遍くプラスの感情にマイナスをかけてしまう、不安の塊。


 何度も倒しているはず。ならば戦えない相手ではない。武器に手をかける。その手すら届かない。或いは震えてまともに持てない。また別の者はどうしようもない怒りから地面を雄叫びと共に只々殴り続け、また別の者は赦しを請い止めどなく涙を溢れさせる。


 この纏う気(オーラ)はおそらくより高位の概念的上書き、いやそれはもはや生物を動かす根源的感覚、“恐怖”そのものだった。


 現実化以前から予め持っていた常時発動スキルも装備の特殊効果も意味を為さない異次元の相手に、クロウも腰を抜かさずにはいられなかった。


 現れる、ただそれだけの事で。




「――ごめん、なさい」


 ナノハも、そう呟くしかなかった。




(こんな、これが…これが……現実になった、“負の男神”の……今の世界での……!)


 威圧するような巨大で黒色の“神”が、燃えるような赤き瞳でこちらを見つめ続けていた――


~第3話「負の男神」~


――――――――


ジャム用に持ってきていたヘラをナノハから取り戻そうと持ち手を持つが、ナノハの怪力により全く動かない。というか捩じ切れんばかりだ。ヘラが。


ゆうしゃ:「いやなんで返してくれない!?」

菜の花:「あ、つい反射で」

ゆうしゃ:「のわぁっ!」


一つの志:え?だ、大丈夫ですか!?

菜の花:腰とかやってないよね……!?


ゆうしゃ:…………


一つの志:あの、何か言ってください


――――――――



こんな隊にいられるか!!俺は抜けさせてもらう!!田んぼの様子も気になるしよぉ……!!だがここはパインサラダ食って風呂入って寝る!!セキュリティは万全だから大丈夫だ問題ない!

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