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第19話「ストリーマーズフィロソフィー」 Part1

多分、序章ひとまずのラスト通常回

「しっかり、もう着くから」


 ある日クロウは、フシュケイディアの付近で狩りを行っていた。


「すみません、誰かこの人を!」

「あっ!…急患です!!対応できる人は手を!」


 その最中に遭遇したのは強力な魔獣と戦い大怪我を負ったバスターであった。


「回復スキルは使ってみたけど僕のじゃとても……」

「大丈夫、効いてはいます。あとは安心してこちらに任せてください、全力でこの方を助けます!」

「お願いします」


 今にでも死にそうな他人を見捨てることなどできなかったクロウは、その負傷者の生存に全力を尽くそうとした。

 だが負傷の規模に対して彼女の力はまるで足りなかった。


 どんなに強力な魔法もアイテムも、現実化した世界に於いては“原理”を持つ。中でも治療に関係するものはその影響を大きく受けてしまい、その殆どが「身体の一部の再生力を一瞬飛躍的に高める」という原理のために、マナの持つ物理法則を揺るがすような効果は保てど即効性や高い効力を失ってしまっていた。

 それはまさしく壊すよりも作る方が格段に困難だという不変の真理が、理不尽な糾弾の楔を打ち付けたようであった。


 ともかくクロウは目の前の命を助けるために、フシュケイディアは中央院へと急いで搬送した。それが今の状況の全てである。


(ホッと……してもいいのかな)


 かつて訪れた際はトップの暴走により不気味なゾンビシティだったフシュケイディアも、今はこの新しい世界の一部として適応しつつある。

 更には軍の治安維持の成果か、中央院の外へ出てみればいじめのような光景はどこにも見当たらなかった。

 ……とはいえ、少し見渡した限りの話ではあるが。


「……やっと、色々落ち着いてきたんだなぁ」

「クロウ様!」


 呼ばれて振り向くが、クロウには少しだけ不満に思うことがあった。


「様は止めてくれない……?」

「あ、その、なんと言いましょうか……訪れた方に対する当然の礼儀というか」

「そん…ああそうか、ごめん……」


 フシュケイディアの事件を治めたクロウは英雄扱い。

 だが目立ったり敬われることが苦手な彼女は、ここではこのように些細な事でも意識してしまう。


(ハナがいたら自意識過剰とか言われそうだな……)


 過去の出来事に起因していない単なる常識だと分かった途端に、それを英雄視だと勘違いしていた自分を恥ずかしく思う。

 これでは自意識過剰と言われても仕方ないと反省しつつ、身震いしそうな身体を抑えた。


「とにかく、搬送してくださった患者様は峠を越えました。あなたの迅速な搬送のおかげです」

「そっか…よかった……」


 回復に関わるものの“殆ど”の効力が実質的に低下した。しかし殆ど、で留まってはいる。

 その例外はより高い治療能力を持つ専門的なバスター、例えばフシュケイディアのバスターズ連合組合の組合長リーヴがそれに当たる。

 件の事件でも、交戦の結果頭部に致命傷を負った亜人を短い時間で見事に治してみせた。

 一説にはフシュケイディアの治療専門のバスターの多くが、PCがシステム上到達できなかった域の能力を手にしているとも言われている。

 フシュケイディアの医療都市という謂われは2度の大事件を経ても揺るがず、むしろより大きな存在感をこの分野において誇っているのだ。


「だからこそ、“検証”のし甲斐があるはずだ」


 しかしそんな隆盛始めし時分の際にこそ、足下を掬う陰が這い寄るものでもある。


「――患者様とお会いになりますか?」

「いや、いいよ。僕はもう行く」

「そうですか……では私も失礼します」

「うん。それじゃ」


 平和を謳歌するはずのフシュケイディアに再び迫る影。


「あ、もしかして治療費とか……」

「それは患者様に請求することになっていますね」

「わ、分かった」


 それはきっと今後表に出ることの無い、“ちょっとした”事件として歴史から消えていくことだろう。


「今度こそ、さよなら」

「はい。あなたもお大事に」


 それこそが、事件の元凶たる彼らなりの「けじめ」なのだ。

The・導入

最後の一文がどういうことなのかはぶっちゃけ最後まで行くよりも前にサブタイで「あー、そう…」ってなりそう感

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