第2話「キャラの一人歩き」 Part6
鎮んだ喧騒から離れてしばらく進み、ナノハが質問する。
「明日はどうする?」
「まず、塞いでる手どいてくれないかな」
「おーゴメンゴメン」
前日に続き夕暮れの街をふらりと歩く2人だが、クロウの態度は未だ曖昧だった。
「明日か……」
少し黙り込む。
バスターをやらなくていいんだという気持ち。ツイスターに当てられてかこのまま腐るのも癪だなという気持ち。中間で詰まってしまいその歩が出せない。
ハッキリこうと定めたい気はある。でもどっちがいいかその真ん中で立ち尽くしている。ユウならこう!と決めてくれただろうか。でもそれは背中を押すものではなく誰かに全てを操作されるという究極の不自由。
結局僕は何が――
「ねぇ正直になりなって」
正直になる。どういうことだろうか。
まさか自分には既に答えがあるとでもいうのかとクロウは思った。
「本当はもう答え出てるんでしょ?ただ、それじゃ駄目な気がして止まってる」
「ハナ……?」
「さっきも言ったけど、やりたいことやればいいんだよ。周りが何て言おうと関係ない」
どうにも見透かされているように感じるが、3つ目の気持ちが無いわけではない。
「無邪気に見えて、腹黒い」
「おっ、おおんん??」
「ハナはそんな風に作られてたっけ」
「ナッ!ナゼそれを!?」
「いやユウと普通にチャットしてたでしょ、しおんさん」
「えー私そんな腹黒くないもん」
(でも、なんだかその設定通りって感じだなぁ……)
耳から離れた手は、いつの間にか寄りかかるように首元へだらんと下げられていた。ナノハの頭がクロウの頭上に座している。
「ええっと……剣技にも魔法にも精通する男の子のような女の子。一人称は僕、美形でモテるが虫が苦手……」
「あ、乙女の秘密が」
クロウの展開したウインドウに食いつくように更にのしかかる。より重圧が増すがクロウはまんざらでもないようだ。
「美形でモテるとか書かれてもね…」
「え絶対モテるよー顔は」
「顔“は”」
「顔はねっ」
「……クールでミステリアスだけど、本当はやさしい心を持っているので意外と友人も恩人が多い。これどんな気持ちで書いてたのかな」
「理想だったんだろうね。もし私がプレイヤーの方だったらクロウみたいなのいっぱい作ってたカモ!」
「勘弁してほしいかな……」
好きなものはトマトスープとフルーツゼリー、苦手なものは虫とお漬物。
「好きなの?」
「食べたことない。少なくともこの一週間は」
趣味は技を磨くことと世界を見てまわること。
嫌いなことは無理矢理の誘いと寒い場所――
「……」
心に秘めた想い人は遠い場所にいて、いつでもその人のことを想っている。例え直接会えることがないとしても幸せであってほしいと祈りいつかその人の隣にいたいと願っている。
「なんか、重なるね」
「……失恋したからって捻じ込まれたものだけどね」
「あらら」
自分の設定テキストを閲覧し終わってすぐにウインドウを閉じ、立ち上がる。
「……この感じって、みんな同じなのかな」
黄昏に哀愁を乗せる。遠くを見つめるように思い耽る。
「ユウのやってきたことを否定したくない」
「…クロウは良い子ちゃんだね」
「あ、腹黒っぽい」
「なぁにぃー?」
「ふふ……じゃあ明日、またギルドでね」
「続けるんだ」
「ツイスターの気持ちがちょっと解かった。流石にああはならないけど」
「……うん」
ナノハと別れ、居住区の複雑な帰り路を分岐する。
「送っていこっか?」
「歩いてみるよ、自分で」
「でも歩いて行ける?一人で」
「行ってみるさ。地図もあることだし」
「そっか じゃあ、また明日」
「うん。 ……“PCに過去は無い”。この鎧はもう少し着ていよう」
バスターとして、いちPCとして戦っていた記憶、しかしその他には何も無い。誰から産まれて、何をして育って、何を志してここまで来たのかが全く思い出せない。いや、無い。
そもそもロスマギ主人公の目的は定められていない。自由なキャラクリエイトに妄想を加えるためでもあるその手法は設定テキストをも無視し、PC達に過去の無い人生というものを齎していた。
過去があるのはNPCだけ。しかし、それでもPCの“過去”と呼べるものはあった。
我ながら重い奴と考えながら、怯えついでに仕舞ってしまっていたもう一つの選択肢を本能を越え倦怠を越え浮上させたのは――まさしくその『過去』であった。
「ユウの遺してくれたものに、応えたい」
仕事をせずとも暮らしていける金銭的余裕も彼らにはある。
世界が変わる前はひとつの電気ゲーム、素材や戦闘用のアイテムの売買や装備製造・強化費用が専らの使い道だった貨幣も、“稼ぎプレイ”に興じれば余程武器の質や数を突き詰め過ぎない限り誰でも富豪だ。
ならバスター達の求めるものは何か。答えは単純、世の平和だ。
バスターは人々を襲う外敵を倒す矛。人によっては力無き人々を守り抜く盾と教えられたかもしれない。
だが過去の無い彼等にそのような心が必ずしも宿るとは限らなかった。
求める平和は魔獣駆除であったり治安の維持であったり、一方では戦わない仕事に就くことであったり、のんびりとした暮らしを満喫することであったり、また一方では娯楽に興じることであったり逆に全く何もしないことであったりと望むものはPCと一括りにできないほど様々だ。
彼らは決して聖人君主の集まりではない。しかし、魔獣による災害と惨劇を目撃もしくは克明に伝えられたバスターは、人は、同胞たる人類を守る意思を強くする者と恐怖して踵を返す者、そして“自らの造物主にそれでも応えようとする者”に自然と分かれた。
今ここにいるのは、そうして残った者達だ。
「では作戦の説明に入る。作戦自体は単純だが君たちの命はきっと1つしかない。心して聞くように!!」
(バスターとしての誇り、人類を守るための力……そして……)
(ユウがくれた「僕」のために)
~第2話「キャラの一人歩き」~
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今度は刺身。薄くしかし美しく。セレマではあまり浸透していない食べ方だが腕のある者が振舞ったそれは独自のソースと絡み合い奥深い味わいを……
クロウエア:「……ふぅ」
菜の花:「んー?オサシミは合わなかっ」
クロウエア:「んエッホエ゛ッホ!!」
菜の花:「ちょどうしたっ」
クロウエア:「ワサビン゛ッ辛っうわぁーー……」
菜の花:「あぁ~~もう、すみません次サビ抜きでお願いしまーす!」
店主:「あいよォサビ抜き一丁!!」
風男:ノリいいなお前!…じゃない、やりなおしやりなおし!
\はい次テイク!/
風男:おう次テイクサビ抜きな!もー。
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第何話「○○」ってサブタイがずらーっって並んでたり、そもそもサブタイというもの自体が好きなのもあってその話のナンバリングでその回の雰囲気決めたり、サブタイをお題に内容考えたりする
最終的に、らしくなったんじゃないんでしょうか