2:溶けないで!
カフェで昼食を食べながら、そんな恋があったことを思い出した。僕はすっかり大人になってしまって、今は結婚して、妻がいる。最近はカフェ巡りが趣味で、SNSで良い店を物色しては、こうして休日に外へ出かけている。ここは店内BGMにもこだわりがあるようで、ずっとジャズが流れている。音楽に知識はないが、そんな僕でもわかる名曲も度々流れてくる。ようやくブラックコーヒーを飲めるようになった僕は、『この素晴らしい世界』を全身で感じながら、昼食とセットで頼んだそれを口に運ぶ。内心ドヤ顔を決めてやった。いい休日だ。コーヒーカップを置くと、携帯がブーっと震えたので確認した。妻からだった。
『今日、あの喫茶店で待ってるね』
僕は急いでカバンを掴み、立ち上がって会計を済ませた。外へ出る。僕は、走りだした。急がなければならないから。高校生だった頃ですら辛かったこれが、大人の身体にはもっと堪える。どんなに急いでも溶けてしまう。わかっていても、僕は彼女に会って、彼女を待たせることなく、彼女と2人で美味しいクリームソーダを食べたいんだ!
「溶けないで!クリームソーダ!」
思わず、叶いもしない理想を都会の喧騒の中で叫ぶ。街ゆく人々の視線が僕を刺したのがわかったけど、僕は足を止めなかった。
終