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雪山へ

 依頼を受諾したクロスは早速目的地に向かってクローラーで走り出した。

 雪山の麓の村までは徒歩で2日程掛かる距離だが、クローラーだと遥かに早く到着しそうだ。

 実際に途中にある平原地帯でクローラーがどの程度の速度が出るのか試してみたところ、単騎で走る馬程の速度を出すことが出来た。

 とはいえ、振動も物凄く、何より危険なので、とてもではないが最高速度を維持して走り続けることは無理がある。

 結局は安全を重視して最高速度の半分程度の速度で走ったが、それでも目的の村には半日と掛からずに到着した。


 クロスは村の外れにクローラーを停めて村に入ったのだが、どうにも村の様子がおかしい。

 村人達の多くが不安の表情を浮かべている。


(何かあったのか?)


 気にはなるが、先ずは自分が受けた依頼が最優先だ。

 クロスは村の奥にある教会へと向かった。


 村の教会は古く、こじんまりとしていたが、敷地内には野菜畑や花畑があり、とてもよく手入れされていた。

 孤児院が併設していると聞いたが、教会の神官と子供達が世話をしているのだろうが、周囲に子供達の姿はない。

 クロスが教会内に入ると、正面にあるシーグルの女神像の前で1人のシスターと5人の子供達が何やら祈りを捧げていた。

 教会内に入ってきたクロスにも気付かない程に一心に祈っている。


「あの、すみません。水の都市から来た冒険者のクロスです」


 突然声を掛けたクロスの声に驚いたのか、シスターが飛び上がるように立ち上がりながら振り返る。

 子供達はそんなシスターの背後に隠れてしまった。


「あっ・・冒険者?・・・えっ?冒険者の方ですか?」


 困惑と期待が入り混じったような表情でクロスを見るシスターだが、クロスの風体を見ればそれは仕方のないことである。

 ぱっと見、クロスは冒険者らしからぬ風体だ。

 暗いグレーの服を着て、剣や弓、魔導杖も持っておらず、武器といえば左の腰に下げた短剣(銃剣)と腰の後ろの鉈だけだ。

 実際にはライフル銃を背負っているが、銃を知らない者が見ても武器には見えないだろう。


「はい、素材採取の依頼を受けて水の都市から来ました」

「えっ、あっ・・・氷山の洞窟の?・・・あっ、ありがとうございます」


 目の前のシーグル教のシスターは獣人の若い女性なのだが、頭の上の狐の耳がペタリと倒れており、不安と期待外れのような表情だ。


「ちょっとお聞きしますが、この村で何か問題が起きていますか?どうにも村全体の雰囲気がおかしいようなのですが?」


 クロスの問いにシスターはぴょこんと耳を上げ、直ぐに耳を倒しながら俯いてしまう。


「・・・す、すみません。せっかくクロスさんが来てくれたのに。あの、雪花採取の依頼を受けてくださったんですよね。すみません、私が依頼を出したイーナです」


 イーナと名乗った神官は確かに水の都市の冒険者ギルドに素材採取の依頼を出した依頼主なのだが、その依頼を受けた冒険者が来たというのに表情が暗い。


「早速ですが、私は直ぐにでも山に登って氷山の洞窟から雪花を採取してこようと思っているのですが・・・」


 クロスの言葉を聞いて慌てるイーナ。


「直ぐにって!もう日も傾いています。今から山に登ると途中で夜になってしまいますよ!雪と氷に包まれた山中で夜を越すなんて自殺行為です。今日はこちらで休んでいただいて、明日の朝になってから山に向かってください。それでも明日中には帰って来れませんが、氷山の洞窟の近くに山小屋があって、薪等もありますので、そこでなら凍えませんから!」


 イーナの言うことは尤もだが、クロスにはクローラーがあるので、今から登っても日が暮れる前には氷山の洞窟に到着出来るはずだ。

 それに、クローラーは装甲板を閉めると車内に熱が籠もって暑い位なのでクローラーの中で寒さを凌ぐことも出来る。

 上手く行けば雪花を採取して明日中には戻って来れるだろう。


「大丈夫、心配には及びません。ところで、先程も聞きましたが、この村で何か問題が起きていませんか?もしそうなら、お話だけでも聞かせてください。何か役に立てるかもしれませんよ」


 クロスに促され、イーナは戸惑いながらも口を開く。


「実は、5日前から村の子供3人が行方不明になっているんです。もしかしたら遊び半分で山に行ってしまったのかもしれません。あの子達を探しに村の猟師や若者が山に向かったのですが、誰も帰ってこないんです」


 雪山は危険だと大人達に教え込まれていたのだろうが、好奇心旺盛で冒険心に富んだ子供達3人が雪山に向かってしまったらしい。

 何の備えもしていない状態で、しかも子供となれば雪山では1日と経たずに凍死してしまうだろう。

 子供達が行方不明になって5日、大人が探しに行ってから4日。  

 今に至るまで誰も戻らないということは絶望的な状況だ。

 村としてもこれ以上人を出すわけにもいかないのだろう。


「昨日、旅の途中でたまたまこの村に立ち寄った冒険者のパーティーが臨時の依頼として捜索を引き受けてくれたのですが、その方達もまだ戻らないんです」


 ここまでくるとイーナとしても神に祈るしかなく、孤児院の子供達、行方不明の子供達の友達と一緒に彼等の無事を祈っていたということだ。


「捜索に出たのは何人ですか?」 

「村の猟師1人と若者2人です。猟師は多少は雪山に慣れていますが、普段は麓近くで猟をしているので、上に登ることは殆どありません。昨日山に向かった冒険者さんは、紫等級の冒険者さんで、剣士、魔術士、斥候の3人組でした」


 中級上位の紫等級ならば危機回避能力や生存技術は心得ているだろうから、その3人は無事でいる可能性は高い。

 おそらく子供達の捜索を続けているのだろう。


「分かりました。私も依頼のついでに捜してみましょう。とはいえ、引き受けた依頼が優先ですけど・・・」


 魔物達がいる危険な雪山でついでも何もないのだが、自分から聞いたとはいえ、事情を知ってしまったからには無視するわけにはいかない。

 

 危険が伴うが、あくまでもついでだ。

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