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ギルド職員として

「クロスさん、今後は特殊任務を含めて、一般的な依頼も全て私を通して手続きをすることになります。改めてよろしくお願いします」


 クロスを見るフィオナの悲しげな瞳の中に覚悟の光がある。


「・・・分かりました。よろしくお願いします」


 元々クロスの専属のようなフィオナだったのだが、それでも事務的な挨拶を済ませるクロスとフィオナ。


「よし、今日のところはこれまでにしておこう。クロスもいきなり監察官となっても勝手が分からないだろう。当面は通常どおり活動しながら情報収集に努めてくれ」

 

 アインズの言葉にクロスとフィオナは頷いた。



 用件も済んだことなので解散となったが、既に日も暮れている。

 ギルドに近い宿舎に住んでいるとはいえ、夜道をフィオナ1人で帰らせるわけにはいかないというわけで、自然とクロスがフィオナを送っていくことになった。


 フィオナはクロスの少し後ろを俯きながらついてくる。


「なんだか、フィオナさんを巻き込んでしまったようですね」


 何気ないクロスの言葉を聞いて立ち止まるフィオナ。

 クロスもそれに気付いて振り返る。


「・・・違います」

「えっ?」

「私は今回の件をギルド長に打診をされた時、クロスさんのお仕事のバックアップをするのは私しかいないと思って、自らの意志で引き受けたんです。決して巻き込まれたなんてことはありません」


 フィオナは真っ直ぐにクロスを見つめる。


「しかし、監察官の仕事の連絡だけでなく、私の裏の仕事の仲介もやらなければならなくなってしまったのですよね?これは決して清廉な仕事とは言えませんよ」

「知っています。クロスさんが公にできない特別な仕事を引き受けていることを。それがどんなことなのか、ギルド長から聞いて知っていました。だからこそ、私はギルド職員としてクロスさんを支えようと決めたんです」

「・・・」

「私達ギルド職員はたくさんの冒険者さん達に仕事を仲介して、仕事に出る皆さんを毎日見送っています。そして、その仕事で冒険者さんが大怪我をしたり、命を落として帰らないことも珍しいことではありません。私達はそれでも依頼人からの依頼を受託し、冒険者さん達に斡旋します。私達が仕事を斡旋したことにより冒険者さんが傷つき、命を落とすことがあっても、私は私の仕事から目を逸らすことなく職務に当たります。勿論、クロスさんの仕事についてもです。だから私は巻き込まれたのではなく、ギルド職員として自分の意志で決断したんです。この責任は私のもので、誰にも渡すつもりはありません!」


 そう言ってクロスに頭を下げたフィオナはクロスの返答を聞くこともなく、小走りでその場から立ち去ってしまう。

 気がつけば、フィオナの住む宿舎のすぐ近くだった。



 冒険者ギルドの監察官は正式には『内務省特別職監察官』との名称の役職なのだが、この職は公にされていない。

 そうでありながら、その存在は多くの冒険者が知っている。

 後ろ暗いことがなければ恐れる必要はないのだが、それでも誰が監察官であるのか、何処でどのような活動をしているのか分からない。

 その職務の権限と、秘匿性と特殊性は聖務院聖務監督官によく似ており、その謎の存在自体が畏怖の対象となり、抑止効果にもなるのだ。


 そんな監察官となったクロスだが、だからといって急に何かが変わることはない。


「・・・最近は魔物の討伐依頼が少なくなったよな」 

「いいことなのか、悪いことなのか。まあ、俺達冒険者にとって仕事が減ってしまうのはな・・・」


 徐々に増えてきた運び屋としての人員輸送の仕事等の際に冒険者達の会話に耳を傾けて情報を収集する。


「そういえば、最近2人組の新米冒険者が名を上げてきたよな」

「アルドとナーシャって2人か?」

「違う。あの2人も頑張っちゃいるが、まだまだだよ。ほら、ちびっこい娘とダークエルフの女の2人組だよ。他の冒険者とはほとんどつるまない2人がいるだろ。以前は失敗ばかりでどうしようもなかったが、最近急に実績を上げはじめたんだよ」

「そういえば、そんな2人組がいたな」

「仕事を探す時くらいしかギルドに顔を出さない奴等だからな・・・」


 他愛のない会話を素知らぬふりで耳を傾けながら普段と同じように仕事を熟すクロス。

 監察官になったからといって急に行動に変化が現れては怪しまれてしまうのだから当然のことだ。


 唯一、変化があるとすれば、ギルドの受付でフィオナとの雑談の中で監察官に必要な法令知識等の教養が加えられること。


「・・・このようなケースでは犯罪取締法第4条に加えて内務省特別調査規則第8条が適用されます」

「なるほど。分かりました・・・・」


 ギルド内でも元々変わり者扱いの2人だから、その2人がヒソヒソと話していても誰も気にもとめない。

 それも長々と話すことはなく、フィオナが要点を纏めて説明するので、他の職員も冒険者も気付くこともない。


 しかし、そんな2人の行動に唯一不審を抱いている者がいた。


「最近、クロスさんとフィオナさんの仲が良くなったような気がする・・・」


 サリーナである。

 少しばかり斜め上に勘違いしているのだが、クロス達の変化を敏感に感じ取り、勝手に危機感を覚えていた。

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