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密命

 森の都市にシンシア達を送り届ける依頼を完了したクロスとサリーナが水の都市に戻ってきた数日後、サリーナは都市の近くにある森の中を駆け回っていた。


「ハァ、ハァ、ハァッ・・・っつ、逃げ切れないっ!どこにいるの?匂いや気配はするのに見つけられない!」


 咄嗟に目についた倒木と草の間に潜り込んでみる。

 身を隠せている筈なのだが、どうしてもここが安全だと思えない。

 どこに逃げても狙われているような感覚に襲われている。


 サリーナは神官なので基本的には近接戦闘は行わないが、それでも身体能力に優れた獣人だ。

 自分の身を守るための多少の心得はあるし、いざという時のために普段から短剣を携えている。

 しかし、今回はそれが通用する気がしない。


「近くにいる筈なのに、どこから狙われているのか分からない・・・怖いっ!でも、逃げることばかり考えちゃダメだ・・・」


 倒木の下から飛び出してみるが、どっちの方向に向かえばいいのか分からない。

 ただ、その場に立ち止まっていてはいけないことだけは分かる。

 僅かな匂いを頼りに短剣を手に腰を低くして駆け出す。

 兎に角、その場に立ち止まっては駄目なのだ。



 一方、そんなサリーナの姿を捉えていながらも顔に泥を塗り、藪の中に潜んで微動だにしないクロス。

 ライフルを構えてじっとサリーナを狙い続けている。


 互いの距離はほんの20メートル程で、クロスにしてみれば必中の間合いだが、身軽なサリーナは一つ所にじっとしていない。

 クロスの狙撃を警戒して常に動き回っているのだろう。

 逃げ回っているように見える一方で、クロスの位置を探っており、反撃の機会を窺っているのは明白だ。

 圧倒的に有利な状況とはいえ、互いの距離が近すぎるので、万が一にも仕損じればクロスの位置がバレてしまい、逆に一気に間合いを詰められてしまう。


(流石に動きが素早い・・・。迂闊に発砲できる状況ではないか)


 とはいえ、このまま徒に時間を費やせば逃げられてしまう。



 サリーナはクロスの匂いを追うが、微かな匂いのする方向に向かえばいいのか、匂いから遠ざかって逃げてしまうべきなのか判断に迷っている。

 匂いを捉えているということは、クロスは2、30メートルの範囲に潜んでいる筈だ。


 この距離では逃走を選択しても、クロスの射程外に逃げ切る前に撃たれてしまうだろう。

 そもそも、クロスの匂いや気配を感じられる距離に入り込んでしまった時点でサリーナは圧倒的不利な状況に陥ってしまったのだ。


「だったら、一か八か、クロスさんの懐に飛び込んでみるっ!」


 クロスが潜んでいるだろう方向に駆け出したサリーナだが、その視線の先、藪の中からピタリとサリーナを狙う銃口。  


「・・・えっ?」


 撃たれる前に詰められるような距離ではない。

 サリーナは踵を返して逃げ出した。



 逃げ出すサリーナの背中に照準を合わせたクロス。


「逃がしませんよ・・・」


 銃口を僅かに下げて引き金を引き絞る。


・・・・パンッ!


 乾いた音と同時にサリーナが飛び上がる。


「キャッ!・・・いっ、痛〜いっ!」


 クロスの弾が命中し、間の抜けた声を出しながらお尻の辺りを擦りながらしゃがみ込むサリーナ。

 

「はい、私の勝ちです」


 排莢しながら立ち上がったクロスは踞っているサリーナの背中に呼び掛ける。


「もぉ~っ、何でお尻ばっかり撃つんですかっ!」


 頬を膨らませながら振り返るサリーナ。


「いくら火薬を減らした弱装弾とはいえ、命中すると痛いですからね。少しでも痛くない箇所と思ったんですよ」


 今回、クロスはサリーナに請われて森の中で一対一の模擬戦闘訓練をしていた。

 クロスがサリーナを仕留めるのが先か、サリーナがクロスを見つけて一撃を加えるか、クロスから逃げ切るかの勝負。


 クロスが使用していたのは火薬量を減らし、軟木を弾頭にした弱装弾で、当たれば痛いが、殺傷能力までは有しない特別な弾丸だ。

 威力が弱く、弾道も安定しないため、有効射程距離はせいぜい50メートル程度であり、感覚が鋭いサリーナの方が有利な条件だったが、訓練を始めてみれば全く勝負にならない。

 3戦して、一度もクロスを見つけ出すことも、逃げ切ることも出来ず、手も足も出ない有様だった。


「はぁ〜っ、結局、クロスさんはわざと狙いを外すことが出来る程度には余裕があったということですか・・・。私は必死になっていたのに」

「いや、私の方もいい経験になりました。感覚の鋭いサリーナさんに気づかれないように本気で隠れましたからね」

「でも、全く勝負になりませんでしたね。私もまだまだ、です。クロスさん、訓練に付き合ってくれてありがとうございました。またお願いしますね」

「分かりました」


 訓練を終え、サリーナと別れたクロスは自宅に戻ってきた。

 明日は休みにして銃の手入れでもしようかと思いながらドアノブに手を掛けると、ドアに封筒が挟んであることに気づく。


「・・・・」


 封筒の中には何も書かれていない白紙が1枚。

 

 白紙が入れられた封筒は冒険者ギルドからの密命があるための呼び出しの符丁だ。


「・・・ハァ」

  

 クロスはため息をつくと冒険者ギルドに向かって歩き始めた。

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