大森林を抜けて森の都市へ
コダマに襲われたであろうイリスの救出は手遅れだと判断したクロス達は早急に離脱することにする。
『お願いっ、誰か助けてっ』
未だに響き渡る声を振り切るようにクローラーを発車させるクロス。
「ちょっとお待ちくださいましっ!」
「って、うわっ!」
突然茂みの中から何者かが飛び出してきた。
咄嗟のことでライフルを構える暇もなく走り出したクローラーの運転席横に取りつかれてしまう。
見てみれば、神官服の上に軽胸甲を着用した若い女性だ。
サーベルを片手に森の中の様子を窺っている。
「って、誰ですか?貴女は」
「カティナよ。聖務院で調査員の仕事をしていますの」
聖務院とは、アイラス公国において宗教を管理監督する機関だ。
公国には聖魔省という機関があり、聖魔省の傘下に聖務院と魔導院が置かれている。
公国では信教の自由が保証されており、個人がどの宗教の神を信仰しても自由だ。
国民の大半は三神と呼ばれる慈愛神シーグル、知識神イフエール、武神トルシアの何れかを信仰しているが、中には特定の神ではなく、夜空の星々を信仰の対象とする星読会という団体もあるし、悪魔信仰ですら禁止されてはいない。
無論、生贄を要したり、犯罪を伴う儀式や活動、信仰の強要や、他の宗教に対する弾圧等は禁じられており、それらの行為は宗教犯罪として取締りの対象となる。
聖務院は国内の祭事を取り仕切る一方で、そういった宗教犯罪の取り締まりも担っており、聖務院の隷下に聖騎士団や聖務院監察兵団といった軍組織があり、宗教犯罪の取り締まりや、信仰を揺るがすほどの国の大事の対処に当たっているのだ。
カティナと名乗った神官だが、確かにシーグル教正司祭の活動用神官服を着ている。
しかし、自らを調査員であると言っているが、こんな大森林の奥で聖務院が何の調査をしていたのだろうか。
「その、貴女は・・・」
「それよりも早く出してくださります。ここは危険ですわ。魔物達が集まってきますの!」
勢いに押されてクローラーを発進させるクロス。
その横でサリーナが唖然とした表情を浮かべている。
「・・・信じられない。気配も、匂いも、音も分からなかった・・・」
感覚が鋭いサリーナに気づかれることなく飛び出してきた素性もよく分からないカティナだが、相当な手練れなのだろう。
そのカティナが危険だと言っていることだし、ロイ達のこともあるのだから危険なのは間違いない。
クロスはクローラーを最大速度で走らせて、一気に大森林を駆け抜けた。
大森林を抜けたクロス達は無事に森の都市へと到着した。
「助かりましたわ。これはお礼ですの」
都市の入口の手前でクローラーから降りたカティナはクロスに向かって硬貨を放り投げる。
無造作に投げられた硬貨を受け止めてみれば、それは金貨だ。
「お礼と言われましても貴女が勝手に乗ってきただけで、私は何もしていませんし、お礼にしても高過ぎますよ」
クロスの言葉にカティナは肩を竦めて笑う。
「私、後に引くような面倒事や、他人に借りを作ることは嫌ですの。それに私は今、細かいお金をもっていませんし、大森林を歩いて抜けることを考えれば金貨1枚、1万レトなんて安いものですわ」
カティナはそう言い残すと振り返ることなく去っていった。
森の都市に到着すればクロス達の仕事も完了だが、先ずは大怪我をしたキースを病院に運ぶ必要がある。
クローラーが病院の前に到着し、キースが運び込まれると、シスルがそれ付き添い、ロイは冒険者ギルドへの報告と、クロス達への謝礼の手続きのためにクロス達と共に冒険者ギルドに向かうことになった。
後はシンシアとレオンを冒険者ギルドに送り届けるだけだ。
シンシアとレオンは最後の最後でロイ達のパーティーの件を目の当たりにして、多少なりともショックを受けた様子だったが、それも含めて今回の旅は2人にとっては大冒険だ。
祖父母の家の執事が迎えに来る頃には笑顔が戻った2人は水の都市に帰るクロスとサリーナが乗るクローラーが見えなくなるまで手を振っていた。




