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幼い姉弟の大冒険4

『イヤあっ!助けてっ!助けてっ!』


 森の中から助けを求める声。


「イリスの声だわっ!まだ生きてるっ!助けに行かないとっ!」


 シスルが声を上げる。


「ちょっと待てっ!状況が分からないと助けにも行けない。魔物に襲われた時のことを詳しく教えてくれ」


 クロスが声を上げるが、それでも今にも飛び出していきそうなシスルの腕をロイが掴んで制止する。


「キノコの、マタンゴに突然襲われて、キースが大怪我を負ってしまった時点で僕達は直ぐに逃げ出しました。僕とシスルでキースを支えて走ったんですが、気がついたらイリスがいなくなっていたんです・・・」

「仲間がはぐれた状況は分からないと?」


 ロイは頷く。


 クロスは森の中を凝視する。

 声が聞こえたのは森の中、それなりに距離が離れているように聞こえた。


『誰かっ、誰か来てっ!助けてっ!』


 再びイリスの声が響き渡る。


「イリスっ、待っててっ!今行くわっ!離してっ、ロイっ離してっ!」

「待てっ、僕達だけじゃ無理だっ!」


 ロイの手を振りほどこうとするシスルと必死に制止するロイ。

 大怪我のキース、森の中から助けを求める声、そして、混乱するシスルとロイの2人の様子を目の当たりにしたシンシアとレオンは互いに手を握りながら顔色を失っている。


 このままでは危険だ。


「落ち着けっ!仲間を助けたい気持ちは理解できるが、我々は護衛依頼を遂行中だ。おいそれとは手を貸せない。この子達から離れて救出には向かえない。どうしても助けに行くなら君達だけで行ってくれ」


 突き放すように言い放つクロス。


『誰かぁ!助けてっ』


 その間にも助けを求める声が聞こえるが、シスルも自分とロイの2人だけで救出に向かうのは無茶だと悟ったのか、俯いて黙り込んだ。


 とはいえ、クロスもこのまま見捨てるつもりはない。


「どこか、クローラーが入れる場所があれば・・・」


 シンシアとレオンから離れるわけにはいかないが、森の中にクローラーが分け入ることができるならばやりようはある。


 クローラーなら無限軌道で小回りは利くし、多少の太さの木ならば薙ぎ倒して進むことが可能だ。


「あのっ!ちょっと待ってください!あの声、何か変です」


 その時、それまで黙っていたサリーナが声を上げた。


 サリーナを見てみれば声のする方向に耳を向け、険しい表情を浮かべている。


「どういうことですか?」


 獣人であるサリーナの視覚と聴覚、嗅覚は抜群であり、クロス自身も何度も助けられた。

 サリーナの感覚は信頼できる。


「あの声、本当にイリスさんの声ですか?」


 サリーナの問いにロイとシスルは頷く。


「イリスの声です」

「仲間の私達が聞き間違えるはずはないわっ!」

「でも、あの声、人の声?に聞こえないんですよ」

「なぜそう思うんですか?」


 クロスの問いかけにサリーナは森を凝視したまま首を傾げる。


「呼吸というか、息継ぎ?なんだろう、確かに人の叫び声なんですが、人の声じゃないような。抑揚が無いというか、本当に助けを求めているの?って、ただ大きな声を出しているだけ、みたいな・・・」


 サリーナの言葉を聞いたクロスはとある魔物のことを思い出した。


「・・・コダマだ」


 クロスが呟く。


「コダマ?聞いたことありませんが、魔物ですか?」


 サリーナの言葉にロイとシスルも顔を見合わせて首を傾げる。


「確かに、非常に珍しい魔物ですから知らなくても無理はありません。私もギルドにある魔物の文献で読んだことがあるだけですが、コダマとはトレントの一種です」

「トレントって木の魔物ですよね?」


 サリーナの言うとおり、トレントとは樹木のような形状をした大型の魔物だ。

 生物を襲って捕食するが、動きは非常に緩慢で積極的に獲物を追い回すようなことはせず、樹木に擬態して獲物が接近するのを待ち伏せして枝のような触手で絡め取り、体の中に取り込んで養分にする。

 動きが遅い上に、火に弱かったり、その触手は剣でも容易く切れるので、冒険者等が餌食になるようなことは多くはない。


 そんなトレントの近縁種がクロスの言ったコダマだが、その危険性は桁違いだ。

 基本的な生態はトレントと同じだが、触手の強靭さはトレントを遥かに上回る。


「コダマは、捕らえた獲物の呼吸器官を利用して助けを求める声を模倣して、他の獲物を誘う習性があります。助けを求めるあの声はコダマによるものですよ」

「じゃあ、イリスは?」


 ロイの問いかけにクロスは首を振る。


「手遅れです。トレントもそうですが、コダマも捕らえた獲物を逃さないために一気に絞め殺します。そうした上でコダマは獲物の呼吸器官に触手を差し込んで、直接空気を送り込みながら声帯を操って助けを求める声を模倣します。貴方達の仲間はもう生きてはいないでしょう」


 淡々と話すクロスの言葉に顔色を失い、俯くロイとシスル。


「分かりました。・・・すみませんが、森の都市に行くなら僕達も乗せていってくれませんか?キースの治療を急がないと。もちろん、お礼は支払います」


 クロスに頼み込むロイ。

 シスルも納得のいかないような表情だが、瞳に涙を浮かべながらもロイと共に頭を下げる。

 

 そんなロイ達の頼みをクロスも断るつもりはない。


 クロスが頷いた時、シンシアが恐る恐る口を開いた。


「あの・・・クロスさん。助けにいってあげられないの?私達なら大丈夫だよ」


 シンシア達もクロス達の会話を聞いていたのだろうが、その内容をうまく理解できていないようだ。

 未だに森の中から聞こえてくる悲鳴に混乱しているのだろう。


 どう説明したらよいかと思案するクロスに代わってサリーナがシンシアとレオンの手を握る。


「シンシアとレオンは優しいのね。でも、ゴメンね。あの声は私達を騙そうとしている魔物の声なの。怪我をしたお兄さんを急いでお医者様のところに連れていってあげなければいけないし、なにより私とクロスさんは貴女達を無事に森の都市に送り届けなければいけないの。それが私達の仕事なの。もちろん、このお兄さんとお姉さんも一緒に連れていってあげるけど、それ以上のことは私達にはできないのよ」


 優しく言い聞かせるサリーナ。

 シンシアとレオンは小さく頷いた。

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