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幼い姉弟の大冒険2

 2日目はシンシア達が目覚めるのを待ってゆっくりと出発する予定だったが、当の2人が早々と目覚めたため、予定よりも早い出発となった。

 

 クローラーにすっかり慣れた2人は後室から身を乗り出して昨日同様に道行く人々や畑で農作業をしている人々に手を振りながら楽しんでいる。

 しかし、いくつかの村や集落を通過しながら順調に進んでいると思っていた矢先にそれは起きた。


 人里から離れた山沿いの街道を進んでいた時、後室で周囲の警戒に当たっていたサリーナが異変に気づいたのである。


「クロスさん、左手の森の中に何かがいます」


 シンシア達を後室に座らせて周囲を窺うサリーナ。

 視覚や聴覚、嗅覚が人を遥かに上回る獣人であるサリーナは何かを感じ取っているらしい。


「狙われていますか?」


 クロスの問いに頷くサリーナ。 


「はい、ついてきています」


 危険が少ない街道とはいえ、魔物が生息する山沿いの道だ。 

 魔物や獣が全くいないというわけではない。

 どうやら狙われているようだ。


 現在のクローラーの速度は最高速度の半分程度。

 速度を上げれば振り切れるかもしれないが、そもそも現在の速度に追従してきていながら、まだ姿を見せてこないということは相手もまだ余裕があるのだろう。


「2人を椅子に座らせて、しっかりと掴まっていてください!速度を上げて振り切ります」

「はいっ!」


 ここは逃げの一手だ。

 クロスはクローラーの速度を上げる。


 一気に速度を上げたクローラーを追って森の中から魔物が飛び出してきた。


「出ましたっ!サソリトンボです」


 サソリトンボとはサソリとトンボの間の子のような風体の魔物だ。

 牛程の大きさでありながら馬並みの速度で走ることができる上、3対のトンボのような羽で飛ぶこともできる厄介な相手だ。

 

 とはいえ、強靭なハサミを持ち、陸上でも空中でも素早く動く一方で、サソリのような毒は無く、外皮もそれ程硬くないサソリトンボは、ある程度の弓力を持つ弓ならば貫くことが可能で、中級冒険者や熟練のハンターならば仕留めることは難しくない。

 

 クローラーの装甲を破る程の力もないが、現在のクローラーは後室の屋根を半分開けており、運転席は完全にオープントップの状態で、追われている状況では装甲を閉じている隙もない。

 このまま取りつかれてしまうと非常に危険だ。


「サリーナさん、前席に!滑空銃をお願いします」

「わっ、分かりました」


 クローラーに備え付けられた滑空銃は破壊力は抜群だが、特殊な機構を持つ銃弾は1発当たりの単価が高い。

 しかし、今はそんなことを言っている場合ではない状況だ。

 

 クロスに言われてサリーナが後室から前席に移動しようとしたその時だった。


「お姉ちゃん!怖いよ、行かないでっ!」


 恐怖に駆られたレオンがサリーナにしがみついたのだ。

 それも狐のようにふわふわの尻尾に。


「キャッ!・・・はにゃぁ・・・尻尾は・・だめぇ・・・」


 変な声をあげながら力が抜けたように後室へとへたり込むサリーナ。


 何が起きたのか分からないが、それを確かめている暇はない。

 クロスはライフルを取り出して弾丸を装填するとクローラーを走らせたまま座席の上に立ち上がり、後方のサソリトンボに狙いをつけた。

 

 サソリトンボは目前まで迫っている。

 振動する車上からの射撃だが、1発で勝負を決める。

 2発目を放つ暇はない。


 クロスは引き金を引き絞る。


・・・バンッ!


 放たれた銃弾は一直線に迫りくるサソリトンボの頭部から胴体を貫いた。


 力を失って墜落するサソリトンボ。

 クロスはクローラーを止めて周囲を警戒する。


 クローラーのエンジンを止めて耳を澄ますが、穏やかな風とそれに揺られる草木の音だけで、仕留めたサソリトンボの他に魔物の気配はない。


 となれば次はサリーナの心配だ。


「サリーナさん、大丈夫ですか?」


 後室を覗き込んでみれば床に座り込んだサリーナにレオンがしがみついており、サリーナが優しくレオンの頭を撫でている。


「すみません、急に力が抜けてしまいました・・・」


 多くの獣人がそうであるように、サリーナも尻尾が弱いらしい。

 

 そんなに弱いなら衣服の下にしまい込んでいればいいと思われがちなのだが、そう簡単なことではないようだ。

 動きが素早く、体術に優れる獣人だが、尻尾でバランスを取ることが重要で、尻尾を衣服の下にしまうと思うように身体を捌けないらしい。


 そんな弱点を克服すべく、前衛職の獣人は尻尾まで鍛え上げる者が多いらしいが、後衛職の神官であるサリーナは尻尾までは鍛えていないそうだ。


「すみません、気を付けていれば少しくらいの刺激は大丈夫なんですが、油断している時に急に掴まれたりすると・・・」


 耳を倒してしょんぼりするサリーナだが、大事には至らなかったことだし、その原因が幼いレオンともなれば仕方ない。

 特に咎めるつもりもないクロスは改めてシンシアとレオンのことをサリーナに任せると、再びクローラーのエンジンを掛けて出発した。


 そして、その後はトラブルもなく無事に2日目の宿泊地に到着したのである。

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