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森の都市へ

 ラグラース商会会長の子供達を森の都市まで送り届ける依頼について、クロス1人では手に余るということでフィオナを通してサリーナに共同受諾について打診してみたところ、サリーナは二つ返事で了承してくれた。


「確かに小さい子供2人の面倒を見るなんて、クロスさん1人では無理ですよね。クロスさんには何度もお世話になっていますから、喜んでお手伝いします」


 そう言うとサリーナは子供達の旅のために細々と準備をし始める。


 森の都市までの4日間の旅は冒険者であるクロスやサリーナであれば何の苦もない。

 ましてや徒歩でなく、クローラーでの移動となればなおさらである。


 しかし、幼い子供達にとってそれは大冒険だ。

 森の都市までの行程で1日目と2日目は途中にある町の宿に泊まれるが、最後の3日目の夜はどうしても野宿が必要になる。

 というのも、森の都市の周囲は大森林と呼ばれる森林地帯であり、森を抜ける街道はあるものの、クローラーの速度でも最低でも半日は必要だ。

 朝に森に入っても、抜けるまでには日が暮れてしまう。

 魔物達が生息する大森林の中での野営は危険が伴うので、最後の1日は大森林の手前で野営し、夜明けと共に出発して一気に大森林を抜ける必要がある。


 それを承知しているサリーナは子供達のために色々と準備をしてきてくれたのだが、その最たるものがクッションだ。

 子供達が乗るクローラーの後部車室には確かに座席があるが、鉄製のベンチ型の椅子の座面に木の板を取り付けただけの快適性を全く考慮していないもので、当然ながら長時間乗っているとクローラーの走行時の振動と相まって尻が痛くなる。

 旅慣れた冒険者等なら何ら問題ないし、外套や毛布等を敷いてやり過ごすこともできるが、慣れない子供にとっては座っているだけで苦痛になってしまうだろう。


「これは気がつきませんでした。助かりますサリーナさん」

「いえ、そんな大したことじゃありませんよ」


 礼を言うクロスに笑顔で返すサリーナ。

 とにかく準備は整った。



 いよいよ出発の時。


「私はシンシア・ラグラースです。9歳です。よろしくお願いします」


 クロスとサリーナを前に元気に挨拶をするのは姉のシンシア。

 しっかり者のお姉さんだ。


「・・・あ、ぼっ・・僕は・・・」

「ほらっ、レオン。ちゃんと挨拶しないとだめよ」

「・・・うん・・・僕はレオンです・・・」


 対照的に弟のレオンは恥ずかしがり屋のようでシンシアの後ろに隠れてモジモジしている。


「こんにちは、私はサリーナです。こちらはクロスさん。よろしくね」


 2人を前にしゃがんで視線を合わせるサリーナ。

 確かに子供の扱いに慣れているようで、初めて見るクローラーに不安そうな表情を浮かべるシンシア達に優しく説明しながら荷物の積み込みを始めている。


 そんなサリーナ達を見守りながら出発準備を進めるクロスにシンシア達を連れてきた男が話しかけてきた。

 年齢は30歳位、クロスよりも少し年上に見えるが、その所作には全く隙がない。


「クロス様、私はラグラース家の執事を務めさせていただいておりますアドラーと申します。まあ、執事と申しましても、どちらかというと商会の番頭のような立場なのですが、それに加えてシンシア様達の教育係を仰せつかっております」


 アドラーと名乗った男はクロスのことを値踏みするように観察するが、隙のない所作とは裏腹に柔和な表情のせいか、いやらしさは感じられない。


「クロスです。2人の安全を最優先に森の都市まで送り届けます」

「何卒よろしくお願いします。実は、この度の旅行は会長の都合が合わなくなった際に私が同行する予定だったのです。しかし、その矢先に会長が取引先の旅商人からクロス様のことを聞き及びまして、折角の機会だからとクロス様に護衛をお願いしてシンシア様とレオン様だけで旅をさせてみようとなったわけです」


 クロスとサリーナが護衛につくとはいえ、それなりの危険を伴う旅だ。

 自立心の育成のためらしいが、幼い姉弟には少し厳しいのではないかと思う。


 思いはするが、その条件で引き受けた以上はクロスやサリーナがとやかく言うことではない。

 クロス達は粛々と仕事を全うするだけだ。


「それでは行ってきます」


 アドラーに伝えたクロスは運転席に乗り込んでクローラーのエンジンを掛けた。

 エンジン音に驚いたシンシアとレオンだが、サリーナに促されて、おっかなびっくりではあるが後部の車室に乗り込む。


「クロスさん、暫くの間は私も2人と後ろに乗りますね」


 車室から身を乗り出して運転席のクロスに声を掛けるサリーナ。

 今日は天気が良いし、天井を閉めた暗い車室だと子供達が怖がるだろうから、片方の天井とは開放しており、運転席もオープントップの状態だ。

 因みに、もう片方の天井は日除けと不意の事態に備えて閉じた事態で、シンシア達は屋根の下の席にサリーナが用意したクッションを敷いて座っている。


「それでは出発します」


 アドラーに見送られて幼い姉弟を乗せたクローラーは森の都市に向けて走り出した。

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