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次なる仕事は困難な仕事

「武器が合っていないとは?どういうことだ?」


 クロスの指摘に首を傾げるシルク。


「シルクさんの戦いを見ましたが、結構空振りが多い。というか、そのサーベルでは届かないことが多いですよね。実際のシルクさんの戦いの間合いはもう1歩か2歩先なんじゃないですか?」

「間合いか、なるほど・・・」


 シルクは腕を組んで考え込む。

 何やら心当たりがあるようだ。


「剣技に関しては私も我流なのでなんとも言えませんが、シルクさんの動きをみる限り、身体に染み付いた武技が剣とは別にあるように見えました。ハルバートのような長柄の武器の戦いの間合いに見えました」

「うむ。確かに本来なら大が・・ムググッ」


 アリアが何かを言おうとするシルクの口を塞ぐ。


「確かにクロスさんの仰るとおりです。でも、今のシルクは力が弱くてハルバートのような重量のある武器は扱えないんです」


 シルクの華奢な身体を見ればそのとおりなのだろう。

 アリアによれば、シルクの筋力が足りていないとのことだが、シルクの幼い少女のような背丈については懸念を示していないので、その点については問題にしていなそうだ。


 クロスは暫し考え込む。


「それでしたら、やはり本職の鍛冶師に相談すればいいと思いますよ」


 クロスの提案にシルクとアリアは顔を見合わせる。


「それはそうなのだが、先立つものが・・・」

「流石に本職の鍛冶師に頼むとなると、私達の懐具合では少し厳しいですね」 


 確かに、本職の鍛冶師のオーダーメイドともなればそれなりに値が張るのは間違いない。

 それに比べて、シルクとアリアの武装を見れば、それなりに質の良いものだが、中級以下の冒険者向けの量産品のようだ。


 2人が冒険者になった時に少しばかり無理をして買ったもので、それを大切に使っているらしく、今回の仕事の報酬や、入手した素材の売却で多少の余裕はできたものの、今後の生活のことを考えるとオーダーメイドの武器には手が届かない。

 

 しょんぼりする2人を見たクロスは記録用のメモ用紙を取り出すと何やら書き込んで2人に差し出した。


「私が普段からお世話になっているドワーフの職人のドム親方に相談してみてください。機械細工が専門の職人ですが、鍛冶の腕も確かです。きっと相談に乗ってくれますよ」


 クロスが差し出したのはドム親方宛の紹介状だ。

 本来ならばクロスが同行するべきかもしれないが、ドム親方は気難しい気質ではないので2人だけでも大丈夫だろう。


「そうかっ!うむ、これは助かる!礼を言うぞクロ・・・!」

「ほらまたっ!そういうところですよ。少しは学習してください」


 無い胸を張ろうとするシルクの頭を押さえつけて頭を下げるアリア。


「痛たたたっ!分かった、分かったから、無理に押さえつけるな!」

「だったら、クロスさんにちゃんとお礼を言いましょう」

「うむ」

「クロスさん、ありがとうございます」

「・・・ます」


 お約束のようなやり取りを始めた2人に付き合いきれなくなったクロスは2人に手を上げて応えると、早々に退散することにした。



 護衛依頼を済ませて、3日程休んだ後に冒険者ギルドに顔を出したクロス。

 カウンターにいたフィオナに声を掛けたところ、丁度運び屋としてのクロス宛に指名依頼が出ていると伝えられた。


「この都市に拠点を構える豪商のラグラース商会の会長からの依頼です」

「というと、貴重品か何かの運送ですか?」

「いえ、ラグラース会長からの私的な依頼で、会長の家族2人を森の都市まで送って欲しいとのことです」


 森の都市までは駅馬車を利用すると王都を経由する必要があるので10日は掛かる。

 ラグラースは豪商ということで、専用の馬車でも用意して森の都市まで直行すれば5、6日の距離だ。

 しかし、どちらの行程も街道が整備されているものの、魔物や盗賊に遭遇する可能性があるため、武装した護衛は必須となる。

 そんな行程だが、クローラーを使えば4日もあれば到着するし、街道周辺に出没する魔物や盗賊程度ならば油断しなければ問題ない。


「確かに、護衛付きの専用馬車を出すことに比べればリスクは少ないですね。私1人でも遂行可能です。で、森の都市まで送ってほしいというその家族とは?」

「会長の子供達で、9歳の娘さんと、6歳の息子さんの姉弟です。目的は森の都市に住む祖父母の家に行くのだそうです」

「そうですか。・・・って、子供の姉弟?」

「はい。病気の祖父のお見舞いということで、急遽一緒に行く予定だった会長の都合が悪くなったので、クロスさんにお願いしたいと」


 聞けば、祖父の病気といっても命に関わるような緊急性のあるものではなく、どちらかというと、祖父母の家に遊びに行く程度のことらしい。

 そこでクロスに白羽の矢が立ったということだ。


「・・・これは、ちょっと無理です」


 普段は滅多なことでは依頼を断らないクロスの返答に、こちらも滅多なことでは表情を変えないフィオナが困惑の表情を浮かべた。


「難しいですか?」

「いや、依頼の内容自体は問題ありません。ただ、他に問題があります」

「?」


 フィオナが首を傾げる。


「旅の間、子供2人の面倒を見る自信がありません」

「ああ、そういうことですか」

  

 考えてみれば、冒険者としては優秀であるクロスだが、幼い子供2人を連れての旅となれば事情は変わってくる。


 暫し考え込んだフィオナだが、ふと頭の中に案が浮かぶ。

 それは閃きという程でもない、極めて単純な解決案だ。


「でしたら、サリーナさんにでも同行を頼んでみては如何ですか?」

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