昇級
助司祭への昇格の儀式を終えて砂漠の神殿にまで戻ってきたクロス達。
サリーナとマークは結果の報告のため神官戦士等と共に神殿の中に入る。
クロス、シルク、アリアの3人は神殿の外で2人が出てくるまで待機だ。
神殿内に案内されたサリーナとマークを待っていたのは砂漠の神殿の責任者である司祭の他に、シーグル教の司教。
地方神殿には常駐していない司教だが、たまたま巡視に来ていたところに、サリーナ達の儀式の話を聞いて、その裁定を買ってでたということだ。
頭を垂れるサリーナ達の前に立つ司教は温厚そうな中年の男性。
柔和な笑みを浮かべてサリーナ達に語りかける。
「この砂漠の神殿の管轄下で行われる儀式は他の教区の儀式に比べて厳しいものであり、その困難さ故に他の教区での儀式を選ぶ者が多い中、あなた達2人は敢えてこの場での儀式に挑み、よく無事に戻りました。先ずはあなた達2人の儀式のために奔走してくださった皆様に感謝しなければいけませんよ。あなた達が無事に戻れたのはあなた達の努力と信仰心の賜物であることは当然ですが、それを支えた神殿関係者や護衛に当たってくれた冒険者の方々、そして何よりシーグル神のご加護と導きによるものだと努々忘れてはいけません」
「「はい」」
淀みなく、全ての結果を受け入れる覚悟の2人の返事を聞いて満足そうに頷いた司教は儀式の結果を伝達する。
「先ずは神官マーク。貴方は専務神官として人々を思い、人々のために働きく大変優秀な神官であると報告を受けています。その貴方が敢えてこの場での試練に挑んだというのも貴方らしさなのでしょう。そして、祈りの最中に貴方の為に戦う者達を思い、それでも何もできない自分を理解して祈り続けるのはとても辛い選択だった筈です。それでも貴方は強い意志を持って見事に儀式をやり遂げた。貴方は助司祭の資格十分です。助司祭への昇位を認めます」
マークは無事に助司祭への昇格が認められた。
定められた儀式をやり遂げたのだから、これは妥当な裁定だ。
続けて司教はサリーナを見た。
儀式をやり遂げていないサリーナの耳はペタリと倒れてしまっている。
「神官サリーナ。貴女は自らの力不足を受け入れながら、神官である傍ら冒険者としても人のために働いてきた。その功績は決して大きなものでなくとも、地道に、堅実に道を進んできたと聞き及んでいます。此度の儀式では護衛に当たり、戦っていた神官戦士や冒険者の方々を思い、彼等のために自らの儀式をなげうって彼等と共に戦った。結果として貴女は儀式をやり遂げることができなかった」
「はい」
サリーナは自分の選択を後悔してはいない。
助司祭に認められなくともそれは当然のことだ。
しかし、サリーナの選択により護衛を引き受けてくれたクロス達の奮闘を無駄にしてしまった。
クロスはそんなことを気にしてはいない様子だったが、これはサリーナの心の問題だ。
後悔はしていなくても、クロス達に申し訳ない気持ちはある。
「貴女は儀式をやり遂げることはできなかった。・・・しかし、貴女の献身の心には助司祭の資格が十分に備わっていると認めます。神官サリーナ、貴女も助司祭への昇位を認めます」
「はい・・・えっ?司教様・・・」
助司祭への昇格を諦めていたサリーナが思わず司教を見あげると、司教は優しい目でサリーナを見ていた。
「確かに貴女は儀式を全うできませんでしたが、それは貴女の怠惰が原因ではありません。それでも貴女の心に蟠りが残るのならば、それは貴女自信の問題です。それならば、また改て儀式に挑めばよいでしょう。それは助司祭としての経験を積んでからでも決して遅くはありません。順番がほんの少し入れ替わるだけです」
そう言い残して退出する司教。
紆余曲折あったが、サリーナとマークは揃って助司祭へと任じられることになった。
直ぐにでも飛び上がって喜びたいサリーナだが、厳粛な神殿の中で歓喜するわけにはいかない。
感情をグッと堪えて神殿を出たが、神殿の外で待っていたクロス達の顔を見て感情が一気に溢れ出た。
「クロスさんっ!やりました!助司祭に認められましたっ!ありがとうございますっ!」
「えっ?って、うわっ!」
思わずクロスに飛びつくサリーナ。
喜びのあまりその尻尾が大きく振られていた。
その頃、水の都市の冒険者ギルドではギルド長に呼び出されたフィオナがギルド長であるアイザックからある事実を告げられていた。
「どういうことですか?クロスさんの功績を考慮すればこのような決定にはならない筈です」
伝えられたのはクロスの黒等級への昇級。
冒険者は紫等級の次には上位冒険者の証である銅等級に昇格し、それから銀等級、金等級、そしてその先の白金等級への道が開かれる。
しかし、一部の冒険者は紫等級から銅等級ではなく、黒等級に昇格する者がいる。
それは職種であったり、人種的な理由だ。
死霊術師や呪術師等、冒険者職としては認められているものの、人々に忌み嫌われる職種の者や、ダークエルフ等の人種の者達。
無論、上位冒険者としての立場と身分は保証されるが、人々からの評価は高いものではない。
職種の変更や人種についても所属ギルドと有力貴族の後ろ盾により黒等級を回避する救済措置はあるものの、一度黒等級になってしまえばその後の昇級はなく、一生黒等級冒険者として生きる他に道はなくなる。
そして、今回のクロスの黒等級への昇級は既に決定事項で、救済措置は適用されないということだ。
淡々とではあるが、戸惑いと怒りの感情を秘めながらアイザックに問い詰めるフィオナ。
「フィオナ君、君が怒るのも尤もだ。私も冒険者としてのクロスの実力と功績は認めている。しかし、これはギルド本部による決定事項であり、覆ることのない現実だ」
「しかし、ギルドの規則に照らし合わせてもこの決定は異常です」
食い下がるフィオナにアイザックは深く頷く。
「確かに、規則に沿えばこのような決定にはならないだろう。ただ、クロスには記録に残らない功績がある」
「・・・・」
フィオナにも心当たりはある。
稀に受付けを通さずにギルド長からクロスへ下命される直接依頼のことだ。
その内容はフィオナにも分からないが、公にできない仕事であることは想像に容易い。
「フィオナ君はクロスの担当のような立場だし、クロスの人となりもよく理解しているから納得できないこともあるだろう。もしも、君が希望し、秘密を厳守するという誓約するのならば、私の権限でクロスの隠された功績について君に教えることができる。ただし、その場合には今後クロスの担当として直接依頼の手続きを担ってもらうことになる。これは通常のギルド職員の比にならない程に厳しく、冷徹な判断と責任を負うことになるが、その覚悟はあるかね?」
アイザックの問いに対してフィオナはアイザックの目を真正面から見て、確固たる意志をもって答えた。
「覚悟はあります」




