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無愛想なギルド職員フィオナ

 フィオナはカウンターの前に立つクロスを見上げた。

 よく仏頂面だと言われるが、フィオナは他の窓口の同僚達のように笑顔を作ることが出来ないのだ。

 冒険者の仕事は命懸けであり、依頼を受けて仕事に出た冒険者が戻らないことも決して珍しいことではない。

 だからこそ、冒険者ギルドの窓口職員は笑顔で彼等を送り出し、笑顔で出迎えることが大切なのだが、仕事に関しては優秀なフィオナはどうしても笑顔だけは上手く作れない。

 自分の過去の体験が原因なのを理解しているが、克服することができないのだ。

 だからこそフィオナの窓口は何時でも空いているのだが、クロスは他の窓口が空いていてもわざわざフィオナの窓口で手続きをしようとする。

 ただでさえ銃士というマイナーな職種であり、他の冒険者とパーティーを組むことが出来ないのに、フィオナの窓口ばかりに来ていては余計に仲間なんて出来る筈もないのではないのだろうか。


 フィオナは日頃からそんなことを気にしているし、クロスにも指摘しているのだが、当のクロスはどこ吹く風だ。

 クロスに言わせると、慣れたフィオナの窓口で手続きするのが気を使わないらしいのだが、フィオナには理解できない。


「依頼の方は完了しましたが、水神の迷宮の2階層であの2人を救出してきました」


 クロスに説明されて見てみれば、他の窓口で剣士の少年と神官の少女が担当者と話をしており、担当者が慌てているが、事情は分かる。

 2人と話している窓口職員のティアは新人でそそっかしい性格だ。

 フィオナと違って愛想が良いし、仕事は頑張っているので冒険者からの評判は良好だが、つまらないミスが多い。

 確か、数時間前に帰還した若い冒険者達が仲間2人が迷宮で命を落としたと報告していた筈だ。

 本来ならば仕事から戻らない冒険者は暫くの間は『未帰還』として扱い、何らかの理由で死亡が確認されるか、一定期間が経過した時点で死亡扱いとなる。

 

 ティアの慌てぶりを見るに先に戻ってきた冒険者達の『迷宮内で仲間2人が死んだ』との報告を真に受けて彼等2人を死亡として処理してしまったのだろう。


「クロスさん、彼等のことを詳しく説明してください」


 ペンを取って事務的に質問するフィオナに対してクロスは事の顛末を説明した。

 

「・・・ということで、念の為2人に同行して戻ってきました」


 案の定、ティアの早とちりと確認ミスのようだ。


「クロスさん、すみませんが少し席を外します」


 フィオナは席を立つと受付の後方にある事務室に向かう。

 冒険者の死亡扱いの書類がギルド長の決裁を受けてしまうとその冒険者は登録が抹消されてしまい、手続きの誤りが明らかになった後に再登録の手続きをするにしても、とても手間が掛るのだが、今ならまだ間に合う筈だ。

 ギルド長の決裁を受ける前の書類の束から目的の書類を取り出すと、ティアの窓口に持っていく。


「ティア、早くこの書類の誤記の手続きをしなさい。決裁前ですから今なら誤記の報告書で済みます」


 ティアはフィオナを見上げた。


「せんぱいぃ、また失敗しちゃいました。ごめんなさいぃ・・・」

  

 涙目を見せるティアだが、これがティアのアピールであることはお見通しだ。

 ティアに悪意があるわけではないので別に指摘する必要もない。


「困るのはこちらの2人ですよ。早く手続きをしてあげなさい」

「はいぃ、ありがとうございますぅ」


 フィオナから書類を受け取ると目の前の若い冒険者2人に詫びながら手続きを始めるティア。

 ここまでフォローしておけば後は自分でリカバリーするだろう。

 後はティアに任せてフィオナは自分の席に戻る。


 他に窓口は空いているのにフィオナが戻るのを律儀に待っているクロス。


(わざわざ待っていなくても他の窓口に行けばいいのに・・・)


 思っても口には出さない。


「すみません、お待たせしました。それではクロスさんの報告をお願いします」


 フィオナに促されてクロスは採取してきた素材をカウンターに並べた。


「とりあえず、受諾した3つの仕事の分です」


 教会や薬師等からの依頼を受けて集められた素材の数々は初級冒険者では難易度が高く、中級以上ではその手間と報酬の釣り合いが取れていない物ばかりで、なかなか引き受ける冒険者がおらず、余ってしまう依頼ばかりだ。

 クロスはそういった依頼を纏めて引き受けてくれ、ギルドとしても非常に助かっている。

 しかも、採取された素材はどれも丁寧に処理されていて、良い状態で納品することができるのだ。


 フィオナはカウンターに並べられた素材を確認する。

 今回も上質の素材ばかりだ。


「確認しました、これでクロスさんが受けた依頼は完了とさせていただきます」


 フィオナは手続きを進め、会計担当者から報酬金の支出を受けて席に戻る。

 銀貨数枚に他は銅貨ばかりの安い報酬だ。


「それでは確認をお願いします。銀貨が1、2、3、4、5枚と、銅貨が1、2、3・・・・」


 クロスの目の前で1枚ずつ並べながら金額を数える。

 非常にまだるっこしいのだが、こうでもしないとクロスは差し出された報酬を数えもせずに受け取ってしまうのだ。

 何事にも几帳面なフィオナにはそれが我慢できないのである。

 

「・・25、26枚、合計7600レトです」

「はい、ありがとうございます」


 フィオナがカウンターに並べた報酬をクロスは無造作に自分の財布にしまい込む。


(ちゃんと見ていたのかしら?)


 何時ものことながら呆れてため息が出る。



 受諾した依頼の完了手続きを済ませたクロスは水神の迷宮の遺跡で進めていた装甲車の修理が完了したことと、その装甲車を迷宮から乗り出すこと、そのために迷宮の壁に穴を開ける必要があることを報告し、ギルドからの承諾を得ることが出来た。

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