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夜明け

「弾倉を銃に差し込んでください。カチッと音が鳴るまでです」

「はい!」


 クロスの指示に従って射撃の準備を進めるサリーナ。


「弾倉を嵌めたら槓か・・横のレバーを引いてください。その際にレバーの隙間から覗いて弾倉の中の弾が銃身の中に押し出されるのを確認してください」

「えっと・・・これかな?はい、大丈夫です」


 サリーナは以前にクロスが扱っているのを見ていたので、スムーズに射撃準備ができた。


「あとは銃床を肩に当てて、狙いをつけて引き金を引くだけです。狙う時は目標のほんの少し上を狙ってください。そして、引き金はゆっくりと絞り込むように。射撃の反動は銃架が受け止めますから大丈夫です」

「はっ、はいっ。うっ、撃ちます・・・」


 クロスに言われたとおり、サリーナはゆっくりと引き金を引く。


・・・・ドンッ!


「ひゃっ!」


 思わず声を上げるサリーナ。

 クロスは目を凝らすも射撃の効果は見えない。


「どうですか?」

「・・・こっ、これ・・・スゴい・・」


 サリーナはクロスの声も聞こえていないように呆けている。


「サリーナさんっ?」

「・・・えっ?はっ、はいっ!」

「結果は?見えますか?」


 我に返ったサリーナは暗闇の先に目を凝らす。


「あっ、すみません。牽制じゃなくて・・・右腕、落としちゃいました」

「えっ?」

「あのっ、使役者の右腕に当たって、右腕が落ちちゃったんです・・・。どうせ当たらないだろうと思って、でもあまり大きく外してもダメだろうから・・・」


 少しばかり赤らんだ表情で話すサリーナ。

 どうせ当たらないと思って目標を狙って撃ったら命中してしまったということらしい。


「私にも見えました。確かに命中しました・・・」


 同じく夜目が利くアリアがサリーナの言葉を裏付ける。


「初めてで、夜間の銃撃で当てた・・・大したものだ」


 思わず感心するクロス。

 実際にサリーナが狙ったのは100メートルと少しの距離。

 昼間で標的が見えればクロスでも必中距離だ。


 しかし、クロスはただの人間で夜目は利かない。

 サリーナはクロスでは狙うことすらできない標的に命中させたということだ。


「あっ、クロスさん、使役者が姿を消しました。逃げたみたいです!」


 クロスには見えないが、サリーナの言葉を裏付けるように周囲に群がっていた砂トカゲ達が一斉に逃げ出し始めた。


「ハァ、ハァ・・・おっ?私に恐れをなして逃げ出したか・・・」


 強がるシルクだが、肩で息をしていて、立っているのもやっとに見える。

 2人の神官戦士はそこまでの疲労は認められないが、それでもほっとしたようにハルバートを下ろす。


「・・・あっ、そうだ。負傷した人はいませんか?」


 本来の自分の役目を思い出すサリーナだが、シルクも神官戦士にも怪我はなさそうだ。


「とにかく、間もなく夜明けです。警戒を緩めずに夜明けを待ちます」


 クロスの声に気を取り直すシルク達だが、その後は魔物達の襲撃もなく無事に夜明けを迎えることができた。


 明るくなってみれば、祭壇とクロス達の周囲には無数の砂トカゲの死骸が散乱している。


「よく守りきれましたね」


 アリアが安堵するように話しながら砂トカゲの死骸からまだ使える矢を回収している。

 夜通しの儀式は守りきれたが、まだ都市に帰るまでの護衛が残っているのだ。

 クローラーで帰るのだから戦闘の機会は皆無だといえ、それに備えないわけにはいかない。


「クロスッ!この砂トカゲからは何か素材は取れないのか?」


 先程までの疲れが吹き飛んだかのようにシルクが問いかける。


「大した素材はとれませんが、皮と骨、前脚の爪は安価ですが売れますよ」 

「貰っていいか?」


 クロスは砂トカゲの素材には興味ないし、神官戦士も同様だ。


「構いませんが、皮と骨を採取している暇はありませんから、爪だけにしておいてください」


 クロスの答えにシルクの表情がさらに明るくなる。


「分かった!アリア、手伝え!」

「・・・はいはい」


 アリアはため息をつきながらシルクと共に素材採取を始める。

 生活の苦しい2人だ、背に腹は代えられないのだろう。


 そうこうしているうちに夜通しの儀式を終えたマークと神官戦士が祭壇から出てきた。


「皆さん、無事に儀式を全うすることができました。ありがとうございます。帰りの護衛も宜しくお願いします」


 深々と頭を下げるマークと、儀式を途中で投げ出したサリーナ。

 マークも立会いの神官戦士もそれを非難するような様子は無いが、サリーナの耳はベタリと倒れてしまっている。

 今になって罪悪感のような感情が湧き出しているようだ。


 とはいえ、祭壇での儀式は終わった。

 後は砂漠の神殿に戻るだけだ。

 クロス達はクローラーに、神官戦士はラクダに乗って祭壇を後にした。


 祭壇からの帰りは特に魔物に襲われることなく、夜通しの儀式と戦いに疲れ果てたマーク達は眠りについている。

 起きているのはラクダに乗った神官戦士とクローラーを運転しているクロスだけだ。

 一応、クロスの横に座るサリーナはクロスに気を使って睡魔と戦ってはいたが、健闘むなしく完全敗北して小さな寝息をたてている。


 そんなサリーナ達を横目に、クロスが1つだけ気になっているのは、サリーナが撃った魔物の使役者のことだ。

 戦いの後に使役者がいた筈の岩を確認したところ、そこに残されていたのは灰になった右腕の成れの果て。

 無論、滑空銃の矢弾に標的を燃やすような能力はないし、そもそもサリーナが銃撃した後に何かが燃えたような様子も見られなかった。

 そして、調査のために残された腕の灰を回収しようとしたところ、突然吹いた不自然な風と共に灰が飛び散ってしまい、全ては謎のままになってしまったのである。


 過ぎてしまったことは仕方ない。

 神官戦士はシーグル教会に報告するというし、クロスもギルドに報告する。

 その後、何らかの調査が行われるのか、聞き流されるのかはわからないが、クロスにできるのはそこまでだ。

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