表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/49

夜を徹して

バンッ!


 クロスが放った一撃はデザートバイパーの頭部を正面から撃ち抜く。

 

 脳を破壊されたデザートバイパーは仰け反り、しばらくの間のたうち回っていたが、直ぐに動かなくなった。


「本当に一撃・・・。まるで勝負になりませんね」


 感心するサリーナだが、クロスは排莢をしながら首を振る。


「別に魔物と勝負をしている訳ではありません。仕事を遂行するために必要なこととして私の間合いで、私に有利な状況で戦っているだけです。逆に銃で仕損じて接近されれば一気に不利になりますのでそうならないように手を尽くしているだけです」


 クロスはそう言うが、サリーナ達にしてみれば強固な装甲を持ち、襲撃をものともせずに突き進むクローラーと、敵の接近を許さずに一撃で仕留めるライフル。

 これだけで十分過ぎる程に強いし、一緒にいて心強いことこの上ない。


「おい、クロス。あの蛇の素材は回収しないのか?回収するならば手伝ってやるぞ?」 

 

 シルクが身を乗り出しながら目を輝かせる。

 デザートバイパーの素材も高値で取り引されるのだから回収しないのは勿体ない。

 しかし、クロスは数十メートル離れた位置にあるデザートバイパーの死体を一瞥すると首を振る。


「止めておきましょう。今回の我々の仕事は魔物の討伐ではなく、サリーナさん達の護衛です。これ以上時間を無駄にするわけにはいきませんし、無駄なリスクを背負う必要もありません」

「うむ・・・。まあそうだな。さっきのサンドワームだけでも儲け物だと思わねばならないな」


 名残惜しそうではあるが、シルクもそれ以上は何も言わない。

 先ほどアリアに嗜められたことをちゃんと受け入れているようだ。


 やがて、クロス達は予定通りに目的の祭壇へと到着した。

 これからサリーナとマークの2人は夜通しの祈りの儀式に入り、クロス達はその守りにつく。


 祭壇の扉は固く閉ざされていて、魔物達が入り込んでいる可能性は少ないが、念のため神官戦士の3人が祭壇内に入り、異常の有無を確かめた上で儀式に入ることになる。


 神官戦士達が安全を確認している間にサリーナとマークは儀式に挑むために儀式用の法衣を身に纏う。

 とはいえ、助司祭という低い階位に昇格するための儀式だから仰々しい正式の法衣とは違い、それぞれが普段着ている法衣の上に肩掛け式の法衣を纏う略装だ。


「それじゃあ、よろしくお願いします」


 準備を終えたサリーナとマークが神官戦士の案内で祭壇内へと入る。

 

 これから夜通しの祈りの儀式に挑み、次に出てくるのは明日の夜明け後だ。

 その間、クロスとシルク、アリアの3人と2人の神官戦士が祭壇の扉の前に陣取り、夜を徹して守りにつく。

 もう1人の神官戦士は祭壇内でサリーナとマークの儀式を見届けを兼ねた護衛に当たる。



 クロスは魔物に襲われた町の防衛戦の時のように祭壇の扉の前にクローラーを横付けし、防壁とした。

 これから明日の朝までクロス、シルク、アリアと神官戦士の2人がクローラーの中に待機しながら周辺警戒に当たる。


 幸いにしてダークエルフのアリアは夜目が利くし、神官戦士の2人も砂漠での戦いには慣れているということで、砂漠に生息する魔物の対処にも慣れているということだ。

 実際に魔物の襲撃があるかどうかは分からないが、少なくとも後れを取るをようなことはないだろう。


 クロスは運転席で、他の4人は後部車室で警戒に当たるが、主にアリアと2人の神官戦士が交代で警戒に当たり、クロスは常時警戒、シルクはアリアのサポートだ。



 儀式に入り、祈りを続けるサリーナ。

 祈りといっても何を祈るかは自由だ。


 シーグルの女神に救いを求める。

 神官としてシーグル神への忠誠の誓い。

 神官として人々を救いたい思いや決意。

 家族が幸せになってほしい願い。

 自分が幸せになりたい。

 自分の目標を叶えたい。

 

 等、自分を基準とした思いや、私利私欲に素直な祈りでもよい。 

 それを祈り続けることが大切だ。

 

 サリーナの望みは冒険者として、シーグル教の神官として人々の役に立つこと。

 そのための神官としての力。

 姉のイーナを含めた家族の安寧。

 

 サリーナは献身の心が強く、その望みは基本的に他者に向けられたもの。

 神官としての力を欲するのも、彼女が安寧を願う人々のためのものだ。


 助司祭の試練は夜が明けるまでひたすらに祈り続けることだが、祭壇に向かい、夜通し祈り続けることは地味に辛い。 

 そんな儀式が始まってどれほど時間がたったのだろうか。


・・・・ーンッ・・・ターンッ・・ターン・・・


 祭壇の外から断続的に発砲音が聞こえてくる。


(クロスさんの銃の音・・・戦っている・・・)


 ひょんなことから知り合った冒険者の青年。

 不思議な銃と装甲車を持ち、誰とも組まずに1人で活動している変わり者。

 姉のイーナとも面識があるようで、ちょっとした縁も感じていた。

 

 水の都市の冒険者ギルドに所属する冒険者の中で孤立しているように見えるが、その実力と人柄は信頼できる。


 だからこそクロスに今回の儀式の護衛を依頼した。

 そして、そのクロス達がサリーナ達を守るために外で戦っている。

 何と戦っているのかは分からないが、銃声が鳴り止まないことからもマークが雇った2人の冒険者や神官戦士もサリーナ達を守るために戦っているのだろう。


(クロスさん、他の皆さんもどうかご無事で・・・)


 サリーナはクロス達の無事を祈った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ