砂漠の直中で
水の都市を出発したクロス達は砂漠の中を進んでいた。
・・・・ゴンッ・・・・
前回、砂漠の神殿に行った時と同様に、時折砂の中に潜むサンドワームが車底部に衝突してくるが、クロスもサリーナも全く気にしていない。
マークやシルク達も最初は驚いていたものの、クローラーの装甲ではびくともしないことを知ってひとまず安心した様子だ。
「この車を利用すればサンドワームを簡単に討伐できるんじゃないか?」
サンドワームの素材は比較的高値で取り引される。
シルク達の実力では自力で狩ることはほぼ不可能だが、クローラーを活用すれば容易いものだ。
新米冒険者としてカツカツの生活をしているシルクにしてみればこの状況は魅力的に見えるのだろう。
「無理を言ってはダメですよ。私達の仕事はマークさんの護衛です。わざわざ危険なことをする必要はありません」
アリアに諌められてシルクは仏頂面を浮かべる。
「分かっておる!私も一介の冒険者だ。依頼人を危険に曝すことはせん。・・・しかし、勿体ないのぅ」
納得しつつ諦めきれない様子のシルクだったが、その道中で幸運に見舞われた。
タイミングと運が悪いサンドワームが1体、突き上げ攻撃の際にクローラーの履帯に踏み潰されてしまい、労せずしてサンドワームの牙と魔石を手に入れることができたのである。
特に、サンドワームの円口の中に並ぶ牙は1本1本は安価だが、採取できるその数が桁違いだ。
クローラーが踏み潰した体長3メートル程の小さな個体でも円口内の牙の数は数百から千本を超える。
履帯で轢き潰されたサンドワームの死体から全ての牙を入手するのは流石に手間が掛かるが、シルクとそれに付き合わされたクロスによって百本程の牙を採取することができた。
因みに、潰されたてグチャグチャになったサンドワームの死体を忌避したサリーナとアリアは一切手を出していない。
「凄いぞアリア!これを売ればまたしばらくは食うに困らないぞ」
サンドワームの体液がついたままの牙を両手一杯に持って浮かれるシルクとその様子に引いているアリア。
「・・・ちょっと、あまり近づけないでください。それに、このサンドワームを倒したのはクロスさんです。私達が素材を貰える理由はありませんよ」
「いや、しかし回収を手伝ったのだから半分・・・いや、3分の1くらいは貰ってもバチはあたらんと思うが・・・」
ふて腐れるシルクを見てクロスが笑う。
「構いませんよ。たまたまクローラーで踏み潰しただけで、私が討伐したというわけでもありませんからね。魔石はあげますし、牙も等分といきましょう」
クロスの言葉を聞いたシルクが元々無い胸を反らす。
「ほら、私も働いたんだから正当なる対価だ。クロスは話が分かるやつだな」
言いながら体液を洗い落としていないままの牙を袋に放り込むシルク。
たしか、マークの護衛依頼を取り扱ったギルド職員はティアだった筈だが、後で素材の査定をさせられるティアが少し気の毒だ。
兎に角、本来の目的があるのだから何時までも足を止めている暇はない。
再び進み出したクロス達はオアシスの街を経由して4日後の早朝には砂漠の神殿に到着した。
神殿に到着したサリーナとマークは神殿の司祭に昇格の儀式に挑むことを申告する。
儀式の内容としては神殿で受け取った護符を砂漠の奥の祭壇に納め、一晩の祈りを捧げてシーグル神の洗礼を受ければ儀式は終了で、助司祭に昇格することができるらしい。
儀式そのものは難しいものではないのだが、それを行うのが危険な魔物の生息域だ。
助司祭という決して高くない階位に昇格するためにしては危険度が高いので、儀式を受ける者は自前で冒険者の護衛を依頼することが殆どである上、砂漠の神殿からは儀式の見届け人を兼ねた神官戦士が護衛につくことになる。
今回は3人の神官戦士が護衛についてくるそうだが、彼等はラクダに騎乗して移動するそうで、クローラーに同乗することはない。
「厳密にいえばここからが儀式の始まりなんです。危険な砂漠を踏破し、恐怖を乗り越えて儀式を完遂する。・・・でも、あくまでも助司祭への儀式ですからね、護衛を雇ってもいいし、教会でも護衛をつけてくれるんです」
祭壇への道すがらサリーナはクロスに説明するが、今回はクローラーという強固な装甲を有する移動手段があるため、危険な砂漠とはいえ、移動中のサリーナやマークの安全は確保されている。
加えて、祭壇までの道中はクローラーが先行し、神官戦士達はその後に続くことになるので、サンドワームの奇襲を受けるリスクも少なく、彼等の水や食料等の荷物もクローラーで運搬できるので、神官戦士達にしてみれば大助かりらしい。
事実、青色の制服と軽胸甲の上に日除けのマントを着込み、ハルバートを持つ重装備の神官戦士達はシーグル教徒でないクロス達に対しても非常に好意的だ。
取り急ぎ準備を整えて神殿を出発した一行だが、祭壇への途上で魔物の襲撃を受けた。
「クロスさん、魔物が近づいてきます!大きな蛇です!」
いち早く気付いたのはクロスの横に座るサリーナ。
砂漠のど真ん中で遭遇したのは体長10メートルを超え、猛毒を持つ大蛇であるデザートバイパー。
物陰に潜んで獲物を待ち伏せる他の蛇とは違い、活発に活動し、積極的に狩りをする危険な魔物だ。
クローラーを停止させたクロスはライフルを取り出すと弾倉を填めて弾丸を装填する。
「だっ、大丈夫か?たっ、助けが必要ならばいつでも言えよ!・・・本当に必要ならだけど・・・まあ、無理にとは言わないぞ」
上部装甲を開放している後室から身を乗り出したシルクが一端のことを言うが、小刻みに震えながらだと説得力はない。
「流石ですねシルク。自ら囮と餌になることを買って出るとは。シルクが丸呑みされている間ならクロスさんも余裕をもって狙えるでしょうからね」
ジト目でシルクを見るアリア。
「何を言うか、えっ、餌になるなんて嫌じゃぞ!お前、最近は毒舌に磨きがかかり過ぎではないか?」
「でしたら余計なことは言わないことです。あの大蛇相手では新米冒険者のシルクや私ではなんの役にも立ちません。本当に餌になって時間稼ぎをするくらいしかありませんよ」
「ぐぬぬぬっ!」
確かに新米冒険者のシルクとアリアでは論外だが、護衛についてきた神官戦士の方はというと、デザートバイパーならば問題なく対処できるらしい。
ただ、装備している武器がハルバートなので、接近戦に持ち込む必要があるそうだ。
そうなれば、一番の安全策はクロスの狙撃ということになる。
クロスは運転席から身を乗り出すとライフルを構えた。
「クロスさん、大丈夫ですか?クロスさんの銃では仕留めきれないのではありませんか?」
サリーナの懸念は尤もだ。
デザートバイパーに限らず、蛇の生命力は桁違いだ。
胴体を両断されようが、頭部だけになろうがしばらくの間は動き続ける。
クロスの銃では1、2発撃ち込んだところで倒すことは難しいだろう。
「大丈夫、即死させます」
クロスが狙うのはデザートバイパーの頭部。
脳を破壊すれば流石のデザートバイパーもひとたまりもない。
幸いにしてまだ距離は十分にあるし、一直線にこちらに向かってくるので狙いをつけるのは難しくない。
クロスはゆっくりと引き金を引き絞った。




