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砂漠の先へ

「クロスさん、指名依頼が出てますよ」


 新たな仕事を見繕おうとギルドに顔を出したクロスにフィオナが声を掛けてきた。

 前回の直接依頼による裏仕事とは違い、正規な指名依頼のようだ。


「指名依頼?内容はどんなものですか?」


 クロスの問いにフィオナは普段通り事務的に答えるが、今回は少しばかり様子が違う。

 何やらクロスの様子を伺うような雰囲気だ。


「依頼者はサリーナさんです。クローラーでサリーナさんを砂漠の神殿に送り、さらに砂漠の奥にある祭壇まで護衛して欲しいとのことです。それに、サリーナさんの他にもう1人、シーグル教の神官さんからも同じ内容の依頼が出ています」


 依頼の内容を確認してみれば、シーグル教の神官であるサリーナが助司祭に階位を上げるための儀式で砂漠の神殿と、さらに先にある祭壇まで行く必要があり、クロスにクローラーを出して欲しいとのことだ。

 もう1人の依頼者もサリーナと同じく助司祭への儀式を受けるために旅立とうとしていたところをサリーナに誘われたらしい。


「依頼としてはサリーナさんともう1人の神官の輸送と護衛ですか?」


 クロスの問いにフィオナが頷く。


「サリーナさんはお1人ですが、もう1人の神官さんは冒険者ではない方で、護衛の冒険者さんを2人雇っています。クロスさんには4人の輸送と・・・護衛をお願いします」


 珍しく言い淀み、クロスから僅かに視線を逸らすフィオナ。


 依頼の内容としては、南の砂漠の神殿まではたいした魔物は出没しないので護衛の冒険者がいなくても全く問題ない。

 ただ、その先の祭壇の位置を確認すると、状況は変わってくる。

 

 祭壇のある砂漠の奥地周辺はサンドリザードや、大砂蠍等の凶暴な魔物の生息域だ。

 とはいえ、中級程度の冒険者なら十分に対処できるし、クローラーでの移動ならば問題ない。

 強いていえば、目的地の祭壇の中にはクローラーが入れないだろうから、儀式の際の護衛には若干の懸念があるが、それでも油断しなければ対処できるだろう。


「分かりました。引き受けます」

「ありがとうございます。助かります」


 クロスの返事を聞いたフィオナは心底安心したような表情を浮かべた。

 無表情で愛想の無いフィオナにしては珍しい。


 契約を済ませて2日後、出発の時が来たのだが、クロスはその時になってフィオナが普段と違う表情を浮かべた理由が分かった。


「クロスさん、よろしくお願いします」


 旅支度、とはいえクローラーの性能を知っているので必要最小限の荷物のサリーナがクロスに頭を下げる。


「私はマークと申します。今回はよろしくお願いします」


 マークと名乗った若い神官はサリーナに比べると荷物の量は多いが、マークは遠方の教会から旅をしてきたので、元々の荷物が多いらしい。


 そして、マークが雇ったという2人の冒険者。


「私達が護衛に付くのだから大船に乗ったつもりで良い・・・痛たたっ!何をするアリア!」

「私達よりも上位階級のクロスさんに失礼ですよ!」


 胸を張ろうとする少女の頭を押さえつけるダークエルフ。

 白等級の冒険者のシルクとアリアの2人組だ。


 マークは元々路銀に余裕がなく、護衛を雇う予算も厳しい状況で、シルク達を護衛に雇った依頼料も、相場に比べて格段に安く、引き受けたのがシルク達しかいなかったらしい。


 聞けば、シルク達も以前にクロスと出会って跳び鰐を討伐した後は自分達の実力に見合った依頼を地道に熟してきて、茶等級への昇級まであと少しというところまで実績を積み重ねており、今回の依頼を達成すれば昇級になるそうだ。


 とはいえまだ白等級の冒険者だし、危険な砂漠に向かう護衛としては心許なく、そんな様子を見かねたサリーナがマークを誘ったということらしい。

 クロスに対する依頼もサリーナとマークの2人からの依頼ということになっているが、その依頼料の大半はサリーナが負担しているそうだ。

 確かにフィオナは『4人の護衛』と言っていたが、あの表情もこういった事情があったからなのだろう。


 しかし、クロスにしてみればどのような事情があるにせよ、引き受けた仕事を全うするだけだ。


「それでは出発しますので、皆さん乗り込んでください」


 クロスは皆をクローラーに案内する。

 恐る恐るクローラーの後部車室に乗り込むマーク。


「この奇っ怪な車には以前にも乗ったが、鉄に覆われた中にいれば安心だし、私達の出番も無さそうだな」

「バカなことを言うんじゃありません。私達もマークさんの護衛を引き受けているんですから、気を抜いてはいけませんよ!」


 シルクとアリアは以前にもクローラーに乗ったことがあるので驚いた様子はない。 


 そして、サリーナはというと、後部車室に自分の荷物を積み込むと、スルスルとクローラーの車体によじ登り、運転席横の席に収まる。  

 まるでその席に座るのが当たり前のように慣れたものだ。


「クロスさん、案内と周囲の見張りは任せてください」


 クロスの横に座ったサリーナはニッコリと微笑んだ。

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