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冒険者ギルドの日常

 水の都市の冒険者ギルド職員フィオナは通常業務に勤しんでいた。

 午前中の忙しい時間帯でもあり、普段は人が並ばないフィオナの窓口にもひっきりなしに冒険者が訪れる上、隣の窓口で忙しさに混乱しかけているティアのサポートも行っており、人一倍忙しい。


「おい、早くしろ!いつまで持たせるんだよ!」

「はいぃっ、すみませんっ!」


 ティアに向かって詰め寄るのは最近王都から流れてきた冒険者パーティーのリーダー、戦士のドラットだ。

 戦士、魔術士、神官戦士、弓士の4人パーティーで、等級は全員が銅級の上位冒険者。

 ただし、素行には問題があるパーティーで、その昇級にあたっても黒等級にするという確たる事情も無いので辛うじて銅等級に昇格したらしい。

 つい先日、水の都市に来たドラットのパーティーだが、他の冒険者やギルド職員を下に見ているきらいがあり、乱暴な行動が目に余る。


「こんな田舎ギルドには大した期待はしてねぇが、俺達は命懸けで仕事をしているんだ!せめて手続き位はスムーズにしろよ!」

「ホント、役に立たないわね・・・」


 ドラットに同調するように女魔道士のリラが嘲笑する。


「はいぃ、急ぎますぅ・・・すみません」


 ティアはパニック寸前になりながら手続きを進めるが、今のところ、ティアの手際はややもたつきがあるものの、特に問題はない。

 ただ、ティアの性格上、急かされてパニックのままに手続きをすると間違いを起こす可能性がある。


 フィオナは自分の窓口が空いた隙にティアの背後に立つ。


「ティア、落ち着いて手続きをしなさい。大丈夫ですから、よく確認しながら進めなさい」

「はいぃ」

「ドラットさん、申し訳ありませんがもう少しお待ちください」


 フィオナはティアに助け舟を出したが、ドラットはそれが気に入らないようだ。


「あん?なんだよ、お前は!横から口出ししてくるんじゃねえよ」


 フィオナを睨みつけるドラットだが、フィオナは全く臆することなく、その表情は変わらない。


「余計な口出しではなく手続きを適正に進めるための助言です。他の冒険者の皆様のご迷惑になりますので、お静かに願います」

「あぁ?迷惑も何も、お前以外に誰も口出ししてこないじゃないか!」


 ドラットは凄むが、それは仕方ない。

 今ギルド内に居るのは初級や中級の冒険者ばかりで、曲がりなりにも上級冒険者のパーティーに楯突ける筈もないだろう。


「兎に角、円滑な業務に支障が生じます。お静かに願います」


 毅然とした態度で一歩も引かないフィオナの態度にドラットが語気を強める。

 

「ギルドの窓口職員風情が俺に逆らおうってのか?」

「そうではありません。ただ、お静かに願いますとお願いしているだけです」

  

 いい加減に目に余る行為に他の窓口職員がギルド長の部屋に向かった。

 また、ギルド内にいる他の冒険者も止めに入ろうかと悩んでいる様子で、互いに顔を見合わせている。


「おっ、終わりましたっ!すみません、大変お待たせしましたぁ!」


 フィオナがドラットの矛先を逸らしたおかげか、その間に手続きを終わらせたティアが声を上げた。


 手続きが完了したのを見届けたフィオナはドラット達に深々と頭を下げる。


「申し訳ありません、大変お待たせしました」 


 フィオナの態度にドラットは鼻白むが、そのタイミングで報告を受けたギルド長が執務室から顔を出し、加えて仕事を終えたザリードのパーティーがギルド内に入ってきた。


「あ?何だ、何かあったのか?」


 ザリード達は中級上位の紫等級だが、その実力は折り紙付きで、銅等級への昇級も近い実力者だ。

 やたらにクロスに突っかかることもあるが、相手が自分達より格下だろうが、格上だろうが別け隔てなく、物怖じしすることもない。

    

 ギルド内の不穏な空気を感じ取り、その元凶がドラット達だと分かるとドラット達を睨みつける。


 更に一悶着ありそうな雰囲気だが、手続きが終わったこともあり、ドラットもそれ以上騒ぎ立てるようなことはなかった。


「けっ!早くしろよ、役立たずが」


 悪態をつきながらティアが差し出した書類を引っ手繰ると仲間を連れてギルドを出ていく。


 ドラット達が立ち去った後、フィオナはギルド内にいる冒険者達に頭を下げた。


「お騒がせしました。ご迷惑をおかけしました」


 水の都市の冒険者ギルドではこういったトラブルは多くはないが、それでも冒険者には荒くれ者も多い。

 この手のトラブルは冒険者ギルドでは日常茶飯事で、これを上手くあしらうのもギルド職員の業務だ。


「先輩、ありがとうございましたぁ。すみません、助かりましたぁ」


 涙目でフィオナに礼を言うティア。


「いえ、貴女の手続きに不備はありませんでした。謝る必要もお礼を言う必要もありません。私はギルド職員として必要な対応をしただけです」


 そう言って自分の窓口に戻るフィオナ。

 ザリードも詮索するようなことはせずに自分達の手続きに入る。


 これもある意味で冒険者ギルドの日常だ。



 その日の午後、貴族の暗殺とそれに伴う被害者の救助の仕事を終えたクロスは水の都市へと戻ってきた。

 無論、暗殺の際に着ていたマントは既に脱いでいて、普段通りの装いに戻っている。


 通常業務を進めていたフィオナはギルドに入ってきたクロスの姿に気付いたが、クロスは案内の職員に声を掛けると、フィオナにま目をくれることもなくギルド長の執務室に入り、半刻程後に出てきたかと思うと、やはり他に目もくれずにギルドから出ていってしまう。


 そして、2日後にギルドに顔を出したクロスは普段と変わらない、いつものクロスだった。

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