表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/52

狙撃

 クロスは目を凝らして現れた集団を見据えた。

 遠すぎて顔の判別まではできないが、その風貌や集団の動きから目標の識別はできる。


「ここに居ると巻き込まれるかもしれないぞ」


 傍らに座るホブゴブリンに警告するが、ホブゴブリンは立ち去る様子はない。

 

「かまわん、俺のことは気にするな。この森のことは知り尽くしている。人間風情に追いつかれるようなことはない」

「毒蛇に噛まれたのに?」

「あれはたまたま油断していただけだ。・・・奴等、また人間達を連れてきているぞ。見えるか?」


 クロスの嫌みじみた言葉にホブゴブリンは微かに笑うが、その笑みは直ぐに消えた。


「ああ、見える。狩りの獲物にするつもりみたいだな。奴隷か、貧困区から攫ってきたのか・・・」


 ホブゴブリンに言われるまでもない。

 集団に帯同してきた馬車から引きずり降ろされる複数の人影が見える。

 それぞれが拘束されており、見たところ殆どが女性のようだが、人間だけでなくエルフ等も混ざっているかもしれない。

 その他にもゴブリンやコボルドのような亜人の姿もあり、数は合わせて10人。

 2人ずつ首をロープで縛られているが、自由に逃げられないところを追い回すという趣向なのだろうか。

 悪趣味極まりない。


「奴等、許せん!」


 背負っていた弓を手に、矢を番えようとするホブゴブリンだが、それをクロスが遮った。


「この位置からじゃ矢は届かないだろう。届いたとしても仕留められるかどうか分からない。それに、これは私の仕事だ、邪魔をしないでくれ」


 そう言うとクロスは懐から1発の弾丸を取り出すと槓桿を引いて排莢口から弾丸を装填し、座ったままライフルを構えて肘と膝を使って銃身を安定させる。


 狙うは周りの者が準備で動き回る中、馬に乗ったまま偉そうにしており、服装も端から見て偉そうな人物だ。


 目標は周りが準備をしている中、1人だけ弓の具合等をみていたりと、狩りが始まるのを待っている。


「お前、奴等をに何かするつもりか?」

「ああ、正確には奴等じゃなく、あの男だけのつもりだが・・・」


 かなりの遠距離だが、高所から開けた場所に向けての撃ち降ろしであり、目標も馬上で気を抜いているため狙うことは難しくない。


 クロスは引き金を引く。


・・・・・バンッ!


 放たれた弾丸は狙いどおり目標の頭部に命中し、男は馬上から転げ落ちた。


「お前、一体何をした?」

「仕事だよ。引き受けたのはあの男、ある貴族の長男の暗殺だ。誰の仕業か分からないように遠距離からこの銃で狙撃した」

「ジュウ?その杖にそんな力があるのか?魔法の杖か?」

「魔法ではない、お前が持つ弓と同じ単なる道具だよ。人や他の生き物を殺すためだけの道具だよ」


 そう言いながら槓桿を引いて排莢すると、薬莢を回収するクロス。


 眼下を見れば、クロスが仕留めた男に取り巻き達が駆け寄り、慌てている様子だが、頭部を撃ち抜かれて即死しているので手遅れだ。

 高位の神官による蘇生術ならば一縷の望みはあるが、クロスが暗殺を引き受けた経緯を鑑みれば貴族の息子とはいえ、あの男に蘇生術を受ける機会は与えられないだろう。


「楽しみや金のために同種を殺すか。人間というのはほとほと罪深い生き物だな。飢えれば仲間も食う我々コブリンやオークだって楽しみのためには仲間を殺さないぞ」


 唾棄するかのように言い放つホブゴブリンだが、それは人間という種族に向けられた侮蔑であり、金のために仕事で人を殺したクロスに向けられたものではなさそうだ。


「本当に度し難いものだよな・・・。でも、私が奴を殺したことよりも、それを引き受けるに至った経緯の方が血なまぐさいぞ」


 薬莢を懐に戻しながら肩を竦めるクロス。

 今度は弾倉を填めて通常の弾丸を装填した。


「お前、逃げないのか?」


 見れば取り巻き達が倒れた男を馬車の中に運び込もうとしているが、馬に乗った数名の者達は周辺の警戒と捜索を行っている。


 今回クロスが使用したのはドム親方特製の弾丸だ。

 表面を金属で薄くコーティングした氷の弾丸で、氷の魔法紋が印された弾丸は目標に命中すると表面の金属膜が砕け散り、氷の弾丸だけが目標の体内に飛び込む。

 表面に印された魔法紋は金属膜が砕け散るのと同時に効果を失い、残された氷の弾丸は体内で砕けるか、自然と溶けてしまう仕組みになっている。

 クロスが稀に引き受ける裏仕事のために作られた、証拠を残さない工夫が凝らされた暗殺用の弾丸だ。


 銃が普及しておらず、その銃の命中精度や射程距離等の性能も低いこの世界では銃の遠距離からの狙撃による暗殺など考えもつかないだろう。

 それでも、僅かでも手掛かりとなる可能性があるならばそれを排除しておかなければならない。


「ああ、直ぐに動くとこちらの居場所がバレるかもしれない。今はまだ何が起きたのか分からない、どんな手段で攻撃されたのか分からない状況だろうからこのまま様子を見る。それに、あの被害者達をどうしたもんかなと・・・」 


 取り巻き達は周辺を警戒しつつ脱出しようとしているが、気掛かりなのは狩りの獲物にされようとしていた被害者達だ。

 ゴブリンやコボルドのように魔物に分類されている亜人はともかく、いくら所有権を有しているとはいえ、奴隷の虐待は明確に法に違反している。

 貴族の権力をもってすれば隠蔽や揉み消しは容易いが、それよりも簡単なのは口封じだ。


「やっぱり、そっちか!」


 クロスの予感が的中した。

 脱出の準備をしながら、数人の男達が剣を抜いて被害者に近づいていく。


 クロスはライフルを構え直すと剣を抜いている男の1人に狙いをつけて引き金を引いた。


バンッ!


 銃弾は男の胴体に命中。

 男は剣を落として倒れるが即死はしていないようだ。

 それを狙ったわけではないが、むしろ都合がいい。


 突然倒れて苦しみ悶える男を見て他の男達の動きが止まった。


(諦めて被害者を置いて逃げろ!)


 思いながら槓桿を引いて次弾を装填する。

 狙うは次に被害者に近い位置に立ち尽くす男。


 狙いを定めたクロスが引き金に指を掛けると同時だった。

 男達は剣を捨てて逃げ出し、周辺の警戒に当たっていた連中も貴族の息子の死体を載せた馬車と共に逃げてゆく。


 残されたのはクロスに撃たれて倒れた男と被害者達のみ。

 倒れた男は動かなくなっている。


「よし、これで終わり」


 クロスは立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ