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不思議な出会い

 クロスが森の中に潜伏してから3日目。

 請け負った仕事はまだ終わっていない。

 この3日の間、深い森に潜むクロスの周辺を森に住む動物や魔物が通りかかったりもしたが、森に同化して、敵意もないクロスに気付かなかったり、気付いても気にせずに通り過ぎただけだ。


 しかし、今回は違った。

・・・パキッ、サクッ・・サクッ・・パキッ

 枯れ枝や草を踏む足音が近づいてくる。


(二足歩行・・・1人・・・人の足音じゃない。・・・エルフは足音を立てるようなことはないし・・)


 足音は真っすぐクロスの方に向かってくるが、警戒はしている様子ではあるものの、この静寂の中で足音を忍ばせる様子もないので、不意打ちを食らわせるつもりはなさそうだ。


 それでも、足音の主は徐々に近づいてきている。

 クロスはライフルに銃剣を装着した。


 そこに現れたのは1体のホブゴブリン。


「・・・そこで、何をしている」


 クロスから10メートル程の距離に立つホブゴブリンは共通語で問い掛けてくる。

 普通のゴブリンでも片言の共通語を話すことがあるが、上位種とはいえ、このホブゴブリンは随分と流暢に話す。

 

 革鎧を纏い、弓と剣を携えているが、剣は抜いていないし、弓も背負ったままだ。

 クロスが敵意を向けていないのと同様にホブゴブリンにも特に敵意は見られない。


「仕事で必要があってここにいるだけだ。ゴブリンの縄張りに入ったつもりはないけど、立ち去れというならそのとおりにするが?」


 余計な揉め事は避けたいクロスはホブゴブリンに答えるが、ホブゴブリンはさらに近づいてくるとクロスの近くに座った。


「ここは群れの縄張りではない。俺はこの辺りに狩りをしにきただけだ。我々に敵対しないならば何をしていようと別に構わん」


 そういうとホブゴブリンは腰に提げた水袋の水を飲む。

 どうやら本当に敵対するつもりはないようだ。


「仕事が終わったら直ぐに立ち去るつもりだけど。・・・まあ、いつ終わるか分からないがね。ただ、お前達の害になるようなことはしない」


 クロスの言葉に頷くホブゴブリン。


「なら好きにすればいい。俺も少し休んだら去る」


 そう話すホブゴブリンだが、気がつけば少し様子がおかしい。

 疲れているというより、どこか具合が悪そうな上、何やら懐から出した草を噛み始めた。

 クロスも知っている毒消しの薬草だ。


「毒にやられているのか?」

「ああ、さっき蛇に噛まれてしまった。毒が抜けるまで少し休む」

「毒蛇か?種類は?」

「人間共の呼び名は知らん。青と黒の模様の蛇だ」

「青と黒の模様の毒蛇って青斑ハブじゃないか?猛毒だぞ」

「お前達人間ならそうかもしれないが、俺は蛇の毒ではめったなことで死ぬようなことはない」


 青斑ハブは世界に広く分布している毒蛇で、人間が噛まれた場合、適切な治療をしないと数時間で死に至る猛毒の蛇だ。

 適合した毒消し薬を飲めば直ぐにでも解毒できるし、ホブゴブリンが噛んでいる薬草もその毒消し効果がある。

 しかし、明らかに量が少ない。

 通常であれば薬草から抽出した成分を他の薬品と混ぜ合わせて効果を高めるのだが、薬草単体だと効果が薄い。

 ホブゴブリンの体格をみれば、薬草単体だと2、30株程は必要だろう。

 人間と違い、毒に耐性があるにしても、それは確実ではない。


 クロスは雑嚢の中から薬の小瓶を取り出すとホブゴブリンに向けて放った。

 

「これは何だ?」

「毒消しの薬だよ。お前が噛んでいる草よりも余程効く。亜人であるゴブリンにも効果がある筈だ」


 小瓶を手にしたホブゴブリンは訝しげにクロスを見る。


「何故だ。お前達人間は俺達を魔物と呼んで敵視し、ことあるごとに襲い掛かってくるではないか。なのに何故、俺にこんなものを寄越す」 

「別に意味はない。確かに魔物と見れば無差別に襲う人間もいるのは確かだ。ただ、今回の私の仕事はゴブリン退治ではないし、互いに敵対する必要がないならば尚更だし、横で辛そうな顔をされては気になって仕方ない。別に対価を望んでのことではないから好きにしてもらって構わない」


 クロスの言葉を聞いたホブゴブリンは軽く笑うと小瓶の中の薬を飲み干した。

 これで1刻もすれば毒は抜けるだろう。


「助かった。礼を言う」


 律儀に礼を言うホブゴブリンだが、クロスはそれに答えることなく眼下に広がる草原を見据えていた。


 クロスが潜んでいたのは森の小高い丘の上であり、その下には周囲を深い森で囲まれた盆地状の広大な草原が広がっている。

 今、その草原に20人程の集団が姿を現した。


 クロスが潜む地点から約200メートル程の距離に現れたその集団は馬に乗った5人の他に徒歩の者が十数人。

 全員が武装しているようだが、冒険者や軍隊等の類ではない。


「奴等、また来たのか!」


 その姿を見たホブゴブリンも険しい表情を浮かべる。


「彼奴等を知っているのか?」


 クロスの問いにホブゴブリンは頷く。


「奴等、この森に入っては無差別に狩りをする。我々のように生きるための狩りでなく、楽しむだけの狩りだ!」


 現れたのはこの森周辺を治める貴族、伯爵とその配下の者達だ。


「狩りは貴族の嗜みでもあるからな。別に驚くようなことでもない」

「人間の楽しみだということは知っている。だが奴等は森の鳥獣だけでない、森に住む俺達亜人すらも狩り立てる。奴等は食いもしないのに無駄にゴブリンやオークを嬲り殺しにする!」   


 魔物やゴブリン等の亜人の中には人間を襲うものも多いが、娯楽として人を襲うのは稀だ。

 故にホブゴブリンはそれが許せないらしい。


「群れの誰かでも殺されたのか?」

「いや、俺の群れの縄張りはここから1日以上歩いた何も無い森の奥だ。そんな所まで来る人間はいない。冒険者だってわざわざ何も無い森の奥にまでゴブリン退治になんか来ない。俺達はそんな場所で平和に静かに暮らしている。しかし、群れの仲間が狩られたわけでないといって、森に住む者として奴等の所業は許せん」

「まあ、私も貴族の価値観や楽しみについては全く理解できないけどな」

「しかも奴等はここが森の奥深くだというのをいいことにお前達と同じ人間をわざわざ連れてきて狩りの獲物とすることもある。お前達が魔物と呼ぶ我々よりも非道い行いだ!」


 ホブゴブリンは憎悪の目で集団を睨むが、だからといって攻撃を仕掛けるつもりはなさそうだ。

 知恵がある分、無計画に攻撃を仕掛けて群れが危機にさらされるのを避けたのだろう。

 

 それならばクロスにとっては都合がいい。

 クロスは自分の仕事に取り掛かることにした。

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