表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/52

帰還

 クロスは重傷者2名を乗せてクローラーを走らせる。


 以前にも重傷者の搬送をしたことがあるが、こういった目的のためだとクローラーは殊の外役に立つ。

 硬い装甲に守られ、馬車よりも速く、安定性も比ではない。

 悪路走破性も高く、ちょっとした川程度なら難なく渡河できてしまう。

 ちょっとした魔物に襲われたとしても攻撃を回避したり、反撃する必要もなく、ただ相手にすることなく無視して進めばいいだけだ。


 強力な魔物が生息していない水の都市周辺や付近の町に延びる街道ならば、ほぼノーリスクで進むことができる。

 水の都市への帰還の途中で日が暮れてしまったが、夜目が利くサリーナの誘導のおかげで速度を落とすことなく無事に水の都市へと到着することができた。


 都市の入口で警戒に当たっていた衛士に事情を説明し、本日の夜間受け入れ担当のシーグル教会の前にまでクローラーを乗り付ける。

 サリーナが職員の神官達に事情を説明し、運んできた重傷者2人を協会内に運び込んだ。


「クロスさん、ありがとうございました。後はシーグル教会の司祭様にお任せすれば大丈夫。きっと2人共無事に回復するはずです」

「間に合ってよかった」

「はい。私はこのまま司祭様達のお手伝いをしていきますのでこれで失礼します。・・・また、よろしくお願いしますね」


 サリーナは頭を下げると教会の中に駆け込んでいった。



 重傷者の搬送も終わり、サリーナとも別れたクロスは冒険者ギルドに報告に行くことにする。

 町を襲っていた魔物の群れは撃退され、町が無事であるので増援は必要ないことを報告しなければならない。

 日が暮れているとはいえ、まだ宵の口だ。

 通常の窓口業務は終了しているが、当直の職員がいるので報告には問題ない。


 クロスがギルドに到着すると、出入口の前でフィオナとはち合わせた。

 仕事を終えて帰るところなのだろう、ギルドの制服でなく私服姿のフィオナはクロスの姿を見て一瞬だけ慌てたような表情の後にほっとしたような表情を見せたが、直ぐに普段どおりの無愛想な表情に戻る。


「クロスさん・・・無事に戻られたのですね」

「はい、魔物は撃退され、町も無事です。報告は早い方がいいと思いましてね」


 冒険者ギルドの窓口は基本的に日中しか開いていない。

 しかし、緊急事態や時間外の報告等に備えて当直の職員が勤務している。

 金庫の中に多額の現金を保管するギルドの夜勤職員は武術の心得がある職員が当たり、加えて一定の条件を満たした冒険者数名が待機していることは周知の事実であるが、フィオナのように戦いの心得が無い一般職員は夜間当直に就くことはない。


「分かりました。それでは私も窓口に戻りますので報告をお願いします」


 踵を返して歩き出すフィオナ。


「いや、大丈夫ですよ。夜間窓口で手続きしますよ」


 フィオナは仕事を終えて帰るところだった筈だ。

 とっくに通常の勤務時間は終わっているが、生真面目なフィオナのことだ、残業してあれこれと雑務をしていたのだろう。

 それに加えてさらなる超過勤務を強いるわけにはいかない。


 クロスの言葉を聞いたフィオナは振り返ることなく答える。


「直ぐに済ませてしまいますので問題ありません」


 そう言いながらカウンターに入るとペンと報告用紙を出して準備を完了させる。

 こうなるとフィオナに報告するしかない空気だ。

 クロスは肩を竦めるとフィオナに顛末を報告した。


 事実をありのままに端的に報告するクロスと、要点をまとめて報告書を書き上げるフィオナ。

 お互いに慣れたもので、四半刻も掛からずに手続きは完了した。


「お疲れ様でした。報酬の支払いは他の冒険者さん達が戻られて報告を取りまとめてからとなりますのでご了承ください」


 言いながら報告書を当直の職員に引き継いだフィオナはカウンターから出てきて出入口へと歩き出す。


「あっ、フィオナさん、宿舎まで送りますよ」

 

 フィオナは冒険者ギルドの職員専用の宿舎に住んでいる。

 ギルドからそう遠くない場所だが、夜も遅くなってきたので女性1人で帰らせるわけにはいかない。


「別に問題ありませんが・・・でも、よろしくお願いします」


 クロスの申し出にフィオナは頷く。

 表情は変わらないが、どこか嬉しそうな雰囲気だ。


 冒険者ギルドからフィオナの住む宿舎まで然程時間は掛からない。

 互いに饒舌でない2人は特に会話もなく歩くが、2人の間に気まずい雰囲気はなく、そんな空気が漂う前に宿舎に着いてしまった。


「クロスさん、送っていただいてありがとうございました」


 深々と頭を下げて礼を言うフィオナ。


「どういたしまして」


 クロスは頷くと歩き出した。


「・・・あの、クロスさん」

「はい?」


 数歩歩いたところで呼び止められたクロスは振り返る。


「あの、明日はギルドに来られますか?」


 フィオナの問いにクロスは軽く思案する。


「そうですね・・・2、3日は休もうと思います」

「そうですか。それではゆっくり休んでください」

「はい、それでは」 

「・・・おやすみなさい」


 フィオナに伝えたとおり、数日間は休もうと思っていたクロスだったが、そんなささやかな予定は翌日には崩れ去ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「フィオナに伝えたとおり、数日間は休もうと思っていたクロスだったが、そんなささやかな予定は翌日には崩れ去ることになった」 予定が崩れることが多いけど、本気で休もうと思えば休めると思うな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ