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町を守り抜け

「クソッ!刺されたっ!」


 オークに槍で突かれた冒険者が膝をつく。

 即座にギムリーが掩護に入り、ゴックスが負傷した冒険者を抱えて後退させる。


「私が治療します。後ろに運び入れてください」


 ゴックスに負傷者を車内に搬入するように頼んだサリーナは前席から後部車室にひらりと飛び移った。 


 車室から身を乗り出すようにザリード達が掩護の攻撃を加えているので、その邪魔にならないように床の上で治療に当たることになるが、運び込まれた冒険者の容体を確認したところ、オークの力による槍の一突きで革鎧を貫通し、腹部を深く抉られている。

 かなりの重傷で、一刻を争う状態だ。


「これでは私の祈りでは無理、助けられない・・・」


 サリーナは判断すると持ってきた雑嚢の中から治療薬を取り出した。

 かなり上等な治療薬でサリーナの稼ぎでは手の届かない代物だが、今回は非常事態ということでギルドが用意したものだ。


 傷口を水で軽く洗ってから治療薬を振りかけ、さらに清潔な布に治療薬を染み込ませて傷口に当ててきつく縛る。

 その上で眠りの薬を飲ませて眠らせれば完了。


「治療が終わりました。町の中に搬送してください!」


 付近にいた冒険者に頼んで負傷者を町の中に搬送して待機している治療士に託す。 

 今のところ、他にも軽傷者はいるが、自力で動ける者は町の中に後退して治療を受けているので、サリーナは再び前席へと飛び移った。


 その間にもクロスは発砲を続け、20体程のオークを倒しているが、オークの勢いは止まらない。


「上位種を倒しましたが指揮者とは違かったようです」

 

 クロスの声を聞いてサリーナは改めてオークの群れに目を凝らす。


「・・・あっ!集団の後方にゴーレムが!」


 サリーナの指差す方向を見れば、確かに群れの後方で巨体なゴーレムが立ち上がろうとしている。

 その横には使役者と思われる人の姿。


「ゴーレムか。あの巨体は私のライフルでは破壊できません!」


 立ち上がったゴーレムはざっと見ただけでもその身長は5メートル以上、おそらくその身体は岩石だ。

 敵の中にゴーレムが現れたとなれば、その目的は当然ながら町への攻撃だろう。

 ゆっくりとこちらに向かって歩き出す。


「おい、クロス。ゴーレムだと俺の魔法じゃ分が悪いぞ!」


 ゴーレムに魔法攻撃が効きづらいのは常識だ。


「精霊魔法なら多少は効果があるが、あの大きさだと1撃や2撃では止められん」


 レディアが精霊の力を込めた矢を番えるが、もっと引きつけないと効果は無く、引きつけるということはその分危険が増すということだ。

 レディアの攻撃でゴーレムの足を止めて、ゴックスの直接攻撃でゴーレムを動かすコアを破壊するというが、万が一にも失敗したら後が無い。


 強固なゴーレム相手に効果があるかどうか分からないが、迷っている暇はない。


「サリーナさん、場所を代わってください!」

「はっ、はい!」


 クロスはサリーナと場所を交換すると席の前、ボンネットの上に取り付けられたケースの蓋を開けて収納されていた新装備を引き出した。


「えっ?クロスさん、それって、銃ですか?」


 クロスが取り出したのは確かに銃だが、頑丈な可動式の銃架に固定されたその銃はクロスのライフルよりも倍近く大きい。

 クロスは席の横に置かれた木箱から専用の弾倉を取り出す。

 弾倉もまたライフルのそれよりも遥かに大きい。

 クロスは弾倉を銃の側面に装着して逆側にある槓桿を引いた。


「試験ではかなりの威力でしたが、ゴーレムに通用するかどうか・・・」


 ゴーレムの身体のどこかに埋め込まれているコアを撃ち抜くことができれば倒すことも可能だが、魔力の無いクロスではゴーレムのコアの位置を特定することはできないし、仮に魔力があったとしても距離がありすぎて特定することは不可能なので物理的な破壊を試みるしかない。


 銃床を肩に当てて狙いを安定させると向かってくるゴーレムの胴体を狙ってゆっくりと引き金を引く。


・・・ドーンッ!!


 ライフルよりも遥かに大きい轟音はその音に驚いた双方が思わず戦いの手を止めた程だ。


 放たれた銃弾はクロスの狙いどおりゴーレムの胴体に命中した。


「あれっ?駄目だ、貫通した・・・」


 クロスの放った銃弾はゴーレムの胴体に命中したものの、威力が強すぎてゴーレムの胸部に穴を穿ちつつも貫通してしまう。

 並の生物なら致命傷だが、ゴーレムは違う。


「貫通した?おいクロス、何だその銃は?」

「とんでもない威力だぞ?」


 ザリードとレディアが後ろから身を乗り出してくる。

 横にいるサリーナは耳をペタリと倒して放心状態だ。


「ドム親方が作った新しい銃なのですが、威力は申し分ないのですけど、なかなかクセがありますね」


 クロスは側面の槓桿を引いて排莢するが、薬莢のサイズも桁違いだ。


 クローラーに新しく装備された銃はクロスのライフルの命中精度と威力に目をつけたドム親方が作り出した新兵器だ。

 技術的と強度的に銃身に精密なライフリングを刻むことが困難だったため、銃自体は強度を追求した滑空銃で、弾丸の方にに工夫を凝らしている。


 金属製の太く短い矢のような構造の弾丸は後尾の4枚の矢羽により直進安定性を確保。

 銃身に比して細い弾丸では発射時の火薬の爆発力が隙間から逃げてしまい、その威力を十分に伝えられないが、銃身と弾丸本体の隙間を埋めるように取り付けられ、発射された直後に分離するサボットがそれを補っている。

 結果としてドム親方の言うとおり、弾丸そのものを作るのが非常に面倒で1発の単価も高くなってしまった。


 銃自体も非常に重く、とてもではないが普通に構えて目標を狙うことはできないし、そもそも発射時の反動が強すぎて銃架無しで撃てば肩の骨が砕けてしまう程の威力だ。

 

 結果としてクローラーに固定して使うしかない代物だが、その威力はクロスの予想以上だった。


「この威力なら、関節部を狙えば・・・」


 クロスは改めてゴーレムの左肩部に狙いをつけて引き金を引く。


ドーンッ!


 2発目はゴーレムの肩を撃ち抜いて左腕を落とすことに成功する。


「よし、使える!」


 排莢しながらクロスは頷いた。

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