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新しい道筋

 水の都市に帰ってきたクロス達はそれぞれの依頼の達成報告を済ませ、依頼とは別に回収してきた素材の売却手続きを進めていた。


 アルド達が跳び鰐の牙等の素材を出す一方で、クロスの集めてきた素材が安価なものばかりであることに、受付職員のフィオナは全てを悟ったかのように冷たい視線をクロスに向ける。

 他の素材もそうだが、アルド達の出した跳び鰐の素材も丁寧に処理されており、とてもではないが新米冒険者の仕事には見えない。

 どんな安い素材でもお座なりにすることなく丁寧に処理して品質を高めるのは普段のクロスの仕事ぶりだ。


 アルド達と水神の迷宮に行ったクロスがどのような経過でシルクとアリアと一緒になったのかは分からないが、クロスのことだ、経験も浅く、まだ稼ぎの少ない4人の現状を踏まえて実績を譲ったのだろう。

 甘いといえば甘いし、クロスらしいといえばクロスらしい。


 フィオナとしては思うところもあるが、当事者間で合意や納得をしていることならば、本来はギルド職員のフィオナが口出しをするようなことではない。


「それでは、依頼の達成報酬と、素材の買い取りで9,800レトです」


 普段と同じように報酬を丁寧にカウンターに並べるフィオナと、数えているのかいないのか、無造作に受け取るクロス。

 仕事に対しては几帳面で丁寧なのに、こういったことに無頓着なことが余計にフィオナをやきもきさせてしまうのだ。


「ありがとうございます」

「あっ、クロスさん、ちょっと待ってください」

「はい?」


 報酬を受け取って帰ろうとするクロスをフィオナが呼び止める。


 クロスが振り返ると、フィオナが1枚の冒険者認識票をカウンターの上に置いた。

 その色は紫、中級上位冒険者の認識票だ。


「クロスさん、紫等級に昇級です」


 相変わらず無表情だが、それでもクロスをしっかりと見て昇級を伝えるフィオナ。


「ありがとうございます」


 感想らしい感想もないものの、素直に認識票を受け取るクロスだが、フィオナの用件はまだ終わりではない。


「クロスさん、少しお話があるんですけど、お時間いただけますか?」


 フィオナに引き止められるとは珍しい。


「はい、大丈夫です」


 クロスが承諾するとフィオナは事務室の端にある応接セットにクロスを案内した。

 

 お茶を淹れ、クロスの前に置いたフィオナはクロスの対面に座る。


「こんなこと、私が言うのも筋違いなのかもしれませんが・・・。クロスさん、貴方にはもう少し自分自身のために行動して欲しいのです」

「自分のため、ですか?」


 首を傾げるクロスだが、フィオナの目は真剣だ。


「クロスさんは様々な仕事を請け負ってくれて、時には余りものの依頼も率先して引き受けてくれてギルドとしてもとても助かっていますし、実績に対する評価も非常に高いです。本当ならそれらの実績があればもっと早くに昇級していた筈なんです。でも、今回のことのように、他の冒険者に実績を譲ったり、本当ならちゃんと手続きをして報酬を受けるべきことを有耶無耶にしたり・・・クロスさんの本来の実績が潜在化してしまって、それが正当な評価に繋がらないんです」


 ほぼクロスの専属担当のようになっている上、ギルド全体や所属する冒険者達のこともよく見ているフィオナだ。

 クロスのこともよく把握しているので、フィオナに言われると反論のしようもない。


「確かにそうかもしれませんが、それもまた性分ですからね」

「それも分かっています。アルドさんやシルクさん達のことだってクロスさんの手助けが無ければ取り返しのつかないことになっていたかもしれません。アルドさん達だけでありません。他にもクロスさんに助けられた冒険者は沢山います。これはクロスさんの実績として大いに評価されるべきことです。ただ、クロスさんはそれらの大切な実績でも一步引いて報告したり、そもそも報告しなかったり、他の冒険者との関係も一線を引いてしまっています。だからギルドの評価にも、他の冒険者からの評価にも繋がらないんです」


 本当にクロスのことをよく理解しているものだ。


「確かにそうかもしれません。フィオナさんにも迷惑を掛けてしまいますね」

「私は迷惑だなんて思っていません。それに、本当ならばクロスさんに仕事に対する姿勢を変えろなんて言える立場でもありません」


 仕事のやり方やセオリー、自分なりの鉄則というものを持っている冒険者は多い。

 それが根拠の無いジンクスだとしても、危険を伴う冒険者の仕事では軽視できないこともフィオナは知っている。

 それでもクロスに聞いて欲しかった、伝えずにいられなかったのである。


 それに、このフィオナの言葉は後に続く話の布石でもあるのだ。


「本当にフィオナさんの言うとおりですね。しかし、改善しようにも、私も不器用ですからね・・・」


 そんなことを知らないクロスはフィオナの術中に嵌った。


「そんなクロスさんに提案があるんです。クロスさんのクローラーを活用した仕事を率先して引き受けてみませんか?」 

「えっ?」

「実は、先だってのザリードさん達との仕事や、サリーナさんとの仕事の噂を聞きつけた複数の冒険者さんや商人さん達から問い合わせがきているんです。クロスさんに護衛や運送の仕事をお願いできないかって」


 フィオナの提案は運び屋として、クロスの新しい道筋についてのものだった。

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ようやく運び屋に!?
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