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新米冒険者を引率して第4階層へ

 どういうわけか、成り行きでシルクとアリアという新米冒険者までついて来ることになってしまった。


「ついて来るのは勝手ですし、自己責任です。しかし、目的の第4階層にはここよりも強力で凶暴な魔物がいます。それでもついて来るのですか?本当にその覚悟がありますか?」


 第4階層には第1、第2階層に比べて格段に危険な魔物が生息している。

 それらの魔物に白等級の冒険者が襲われれば生き残ることは困難であり、それを踏まえた上での確認だ。

 ただ、現実的にはクロスが同行し、その指示に従うならば、余程のことがない限りは然程の危険はない。

 しかし、最初からそれを伝えて緊張感を失わせるわけにはいかないので、クロスは敢えてそのように申し向けた。


「大丈夫だ!私に任せておけ!」

「シルクは私が目を光らせて無茶をさせません。決して邪魔をしませんので、よろしくお願いします」


 シルクの方は斜め上の回答だったが、その辺りはアリアがフォローしてくれそうだ。


「それならば、好きにしてください。ただし、私の指示には従ってもらいます。従えないなら貴女達の身の安全は守れませんよ」


 クロスの言葉にシルクとアリアは頷く。

 ついて来るのが決定事項だとしても、好き勝手をされてはたまらないので最低限の約束事だ。


 今回、クロスとアルド達の目的は第4階層での採取が可能で、薬品の素となる水草や藻の収集だが、これらの素材は他に使用目的がなく、治療院等が必要な時に必要な分量を採取する依頼が出るだけなので、仮にシルク達が採取したとしても依頼を受けていない以上はギルドでも買い取ってはもらえない。

 加えてクロス達は目的の素材が採取できれば直ぐに戻る予定なので、シルク達が儲ける当てはないのだが、それでもついて来るということだ。

 シルク達にしてみれば、第4階層で手に入る素材が欲しいというよりは、その帰路において第3階層以上で採取することが可能で、ギルドで買い取ってもらえる素材を採取したいらしく、その行程においてクロス達と共に行動して安全を確保することが目的なのだろう。


 最短距離で第3階層を抜けていよいよ第4階層に下りたクロス達はそう奥にまで進むことなく、付近の水路で目的の素材採取に取り掛かった。

 その間、シルク達はクロスの言いつけどおり、大人しくクロス達の作業を見守っている。


 作業中、1度だけ2体のオークが通路の先を通りかかったが、クロス達が敵対行動をしないのを見てそのまま立ち去って行った。


「・・・余裕を持って相手にしないふりをするのも結構ビビりますね」

「ホントよね。手が震えちゃうわ」


 アルドとナーシャが呟き、そんな2人をアリアが感心したように見ているが、シルクの方は深く考えていないのか、首を傾げている。


 その時、クロスが作業の手を止めた。

 必要な分量はすでに収集しており、念の為に少し余分に収集しようとしていた時だ。

 手を止めたクロスは通路の遥か先の薄暗い通路の先を凝視しているが、アルドもナーシャも、シルクも何が起きているのか分からない。

 それが分かったのは人間よりも遥かに目の良く、夜目も利くダークエルフのアリアだけだ。


「魔物がいます・・・」


 アリアの言葉にクロスも頷く。


「跳び鰐ですね。大きい・・・こちらに気づいています」


 跳び鰐とは体長が5メートルにもなる迷宮に生息する魔物だ。

 見た目は鰐そのもので、硬い皮膚と強力な顎を持つ肉食の魔物だが、1つだけ普通の鰐との違いがある。

 それは蛙の様な強靭な後肢であり、その後肢の力で前方に跳躍し、一気に距離を詰めて獲物を捕食することだ。


 ゴブリンやオーク等の亜人系の魔物と違い、理性も知恵も無いので、食欲や闘争本能のままに襲ってくる上、その跳躍距離は10メートルを軽く越え、狙った獲物を追う速度は速く、人間の足では到底逃げ切れない。


 その跳び鰐は現在クロス達の位置からから100メートル程先にいて、クロス達をジッと見ており、クロス達を狙っていることは明らかだ。

 仮に後方に逃げ出しても追いつかれる可能性が高い。


 クロスはライフルの槓桿を引いて弾丸を装填した。 

 アルドは剣を、シルクはサーベルを抜き、ナーシャは杖を構え、アリアは矢筒から矢を取り出す。


「少しずつ下がります。決して背中を向けないように」


 クロスの指示に従って皆はゆっくりと後退を始めるが、クロス達が退くのに合わせて跳び鰐もジリジリと進んでくる。


「クロスさん。ど、どうしますか?戦いますか?」


 言いながらも小刻みに震えているアルド。 

 アルドの剣もシルクのサーベルも跳び鰐の硬い皮膚には刃が立たないだろう。

 柔らかい腹側ならば刃が通るかもしれないが、そのためには先ず跳び鰐をひっくり返さなければならない。


「アリアさんはエルフですが、精霊魔法を使えますか?」

「火の精霊魔法の他に水と雷も使えます。ただ、どれも初歩的な魔法しか使えません」

「矢に精霊の力を乗せることは?」

「火か雷なら可能ですが、威力が弱いのであの魔物には通用しないと思います。それどころか却って余計に刺激してしまいます」


 アリアの弓矢でも無理そうだ。

 ワイバーンの頭蓋を撃ち抜くクロスのライフルならば跳び鰐の表皮を貫くことは可能だが、跳び鰐は身体が平べったいので、下手に撃っても弾丸が真っ直ぐ入らずに弾かれてしまう可能性がある。


 撃つにしても射角とタイミングが重要だ。


「皆さん、合図をしたら第3階層の登り口まで一気に駆けてください」

  

 クロスの言葉にアルド達は頷く。

 ここで余計な疑問を投げ掛けている暇はない。


「それではいきます。3・2・1・今っ!」


 クロスの合図にアルド達は脱兎の如く駆け出し、クロスが殿を守る。

 そんなクロス達に反応した跳び鰐が飛び跳ねながらクロス達を追う。

 このままでは追いつかれてしまうがクロスには考えがある。

 向かうは約30メートル程後方だ。

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