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新米冒険者再び

 砂漠を縦断して巡礼者をシーグル神殿にまで送り届けたところでクロスの仕事は終わりだが、サリーナは巡礼者を案内し、数日間は神殿に滞在するとのことだ。


「クロスさん、本当にありがとうございました。こんなに早く、安全に皆さんを案内できて本当に良かったです。これも全てクロスさんのおかげです」


 礼を言うサリーナに見送られ、その上でどういうわけかシーグル神殿で精製されている回復薬を水の都市の教会と冒険者ギルドへ運送することを依頼されたクロスは託された回復薬をクローラーに積み込み、1人で水の都市への帰路についた。

 普段は神殿から水の都市への回復薬の納品は、定期的に運行している駅馬車に依頼しているらしいが、馬車の隙間に乗せられるだけ乗せてもその量はたかが知れている上、時間も掛かる挙げ句に費用も割高らしい。

 しかし、クロスにしてみれば帰りのついでだし、クローラーの積載量にもかなり余裕がある。 

 そこで、クロスの承諾を受けたサリーナが神殿の神官長に提案してみたところ、是非にとも依頼したいということで、クロスが水の都市への運送を引き受けることになったのだ。

 クロスにしてみても、手ぶらで帰るつもりだったところに丁度いい小遣い稼ぎにありつけたのである。

 帰りは1人で気楽なのでオアシスの街に立ち寄ることもなく、昼夜ぶっ通しで砂漠を走った結果、3日目には水の都市に到着した。


 先ずは冒険者ギルドで手続きを済ませようとフィオナのカウンターを訪れたクロス。


「・・・クロスさん、神殿からの回復薬運送の依頼ですが、わざわざギルドを介さずに直接受けてしまった方がいいのではありませんか?」


 巡礼者護衛依頼の報酬と、事後手続きとなったシーグル神殿からの運送依頼の報酬をカウンターの上に並べながら呆れたようにフィオナが話す。

 神殿からの依頼について、わざわざ冒険者ギルドを介すようにし、依頼書とギルドの仲介料込の報酬を預かってきたクロスだが、フィオナの言うとおり、ギルドを介さずに直接受諾すれば報酬は丸ごとクロスのものだし、それをしたからと言ってなんの問題もない。

 しかしクロスは冒険者ギルドへの納品だけでなく、都市の教会に納品する分までギルドを介する手続きを選んだのだ。


「まあ、フィオナさんの言うこともそのとおりなのですが、直接契約はどうにも落ち着かないんですよ」 


 適当なことを言うクロスだが、その判断は決して間違えではない。

 事後手続きとはいえ、ギルドを介しておけば、その契約内容についてギルドが保証してくれるので、後々のトラブルを回避することができるし、何よりギルドを通した依頼となれば冒険者としての実績が蓄積されるのだ。


 その利点については当然ながらフィオナも理解しているのでこれ以上余計なことは言わない。

 仲介料を差し引いた報酬をカウンターに並べてクロスに確認させるフィオナだが、クロスの方は相変わらず細かい金額を気にせずに報酬を受け取ると、当面必要な分だけを手元に残し、大半をギルドに預けてしまう。

 

 そんなクロスに対し、フィオナがため息をつくのもお馴染みの光景だ。


「ハァ・・・では、手続きはこれで完了です。クロスさん、今回もお疲れ様でした」

「はい、どうも」


 用件が済んだクロスは長居することなくギルドを後にした。


 一仕事を終えた挙げ句、神殿からの帰路は1人で殆ど休みなしで砂漠を縦断したクロスは3、4日は休もうと考えていたのだが、その思惑は脆くも崩れさることになる。

 休むつもりなのだから家でじっとしていればいいのに、なんとなく冒険者ギルドに顔を出そうとしたのが運の尽きだった。


「・・・今度こそ!今度こそだ!仕事をやり遂げるぞ」

「それはシルク様・・シルク次第ですよ。まさかあんな弱い魔物にまで負けるなんて、想定外ですよ」

「あれはアリアが妾・・私を援護しなかったからだろう!」

「まさか魔鼠相手にあんなに苦戦するとは思いませんよ。そもそもシルクが『鼠程度、私1人で十分。手出しは無用だ!』って息巻いていたではありませんか」

「ぐぬぬ・・・」

「ほら、今度こそ依頼を達成しないと宿代どころか、明日のご飯も食べられなくなるんですからね。頑張りましょう」

「分かっておる。だからこそ素材採取なんてつまらぬ仕事を引き受けたんだろうが!」

「今の私達・・・いえ、シルクにはこの程度の仕事が分相応ですよ」

「おい、何故に『私達』からわざわざ言い換えた!」

「・・・・」


 冒険者ギルドの前で2人の冒険者とすれ違うクロス。

 女性2人組の冒険者で、1人はダークエルフだが、もう1人は若いというよりまだ12、3歳程度の少女に見える。

 尤も、冒険者として登録しているのだから少なくとも成人年齢の16歳以上なのだろうから、実年齢よりも若く見えるのか、そういう種族なのだろう。


 そんな2人を特に気にすることもなくギルドに入るクロス。


「あっ、クロスさん。やっと会えた!」


 ギルド内でクロスに声を掛けてきたのは新米冒険者のアルドとナーシャの2人組だった。


「あの、クロスさんにお願いがあるんですけど、私達と一緒に依頼を受けてくれませんか?」

「・・・はい?」

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― 新着の感想 ―
「休むつもりなのだから家でじっとしていればいいのに、なんとなく冒険者ギルドに顔を出そうとしたのが運の尽きだった」 有休をとった会社員が、当日も同僚が働いている職場を訪れることってあるかな。
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