砂漠を縦断
・・・バンッ!
最後の1体を仕留めたクロスが槓桿を引いて最後の薬莢を排莢したところ、サリーナが薬室から飛び出した薬莢を空中でキャッチした。
かなりの反射神経だが、発砲後に排莢された薬莢はかなりの熱を帯びている。
「熱っ!」
クロスは発砲後、一呼吸おいてから排莢したが、それでもまだ熱かったのだろう。
驚いたサリーナは思わず手を離してしまうが、まるでお手玉をするかのように2回、3回と薬莢を放ると、再びその手に掴んだ。
「なんですか、これ?・・・火薬?の匂い?」
興味深げに薬莢を眺め、その匂いを嗅いでいる。
「私の銃はその薬莢に詰められた火薬が炸裂する力により弾丸を発射しているんですよ」
「ふ〜ん、そうなんですか。こんな小さな筒があんな力を・・・凄いですね」
クロスのざっくりとした説明に感心するサリーナだが、多分理解していない。
銃自体が一般化していない世界で素人にその原理や構造を話したところで理解するほうが無理な話だ。
ふと気がつけばライフルの発砲音で目が覚めてしまったのだろう、後部の巡礼者達が不安そうな眼差しでクロス達を見ていた。
「大丈夫です。魔物に襲われそうになったのですが、襲われる前に撃退しました。お騒がせしました」
さも何事もなかったように話すクロスの様子に拍子抜けしたように再び眠りにつく巡礼者。
すっかり目が覚めてしまったクロスはサリーナと見張りを交代したものの、サリーナの方も気持ちが高ぶってしまったのか、結局朝までクロスに付き合って起きていた。
日の出と共に出発したクロス達だが、特に何事もなく順調に砂漠の中を突き進む。
とはいえ、全く魔物に襲われなかったわけではない。
・・・ゴンッ・・・
時折クローラーの下から何かがぶつかるような音がする。
「クロスさん、たまに聞こえるこの音、何ですかね?」
キョロキョロと周囲を見回すサリーナ。
「サンドワームの突き上げですよ。放っておいてもなんの問題もありません」
サンドワームとは砂漠に生息する手足を持たない蠕虫状の魔物だ。
体長は2メートルから5メートル程で、砂の中に潜み、真上を獲物が通過するのに反応して砂の中から一気に突き上げて鋭い歯の並んだ円口で食らいつき、獲物を砂の中に引きずり込む。
主に砂漠に生息する小動物を捕食しているが、その攻撃には見境がないため、人が襲われて犠牲になることも珍しいことではない。
そんなサンドワームがクローラーに向かって突き上げを仕掛けるも、車底部の装甲に阻まれているようで、クロスはクロスで何の実害も無いので全く気にしていないのだ。
「なんだか、私の常識?が次々と崩れてゆく気がします・・・」
呆気にとられるサリーナを乗せてクローラーは予定どおり日暮れ前にはオアシスの街へと到着した。
オアシスの街では休息を兼ねて夜を明かす予定だ。
如何にクローラーの中は安全だといっても車内は決して快適ではないので、巡礼者達はサリーナの案内で街の宿で身体を休めることになるのだが、クロスはクローラーを街の外に移動して車内で夜を明かすことにする。
装甲板を閉めれば一晩位は放置しても問題ないのだが、今のクローラーは暑さを避けるため上部の装甲を開放して、代わりに天幕を張っており、その天幕を外して装甲板を閉めるのが面倒なので、クローラーの警戒をする必要があるのだ。
周囲を見渡せる場所にクローラーを停め、運転席で身体を休めるクロス。
ふと気づくと、街の方からサリーナが小走りで近づいてきた。
「クロスさん、差し入れですよ。宿の親父さんに作ってもらってきました」
ちょうど小腹が空いてきたところなので、食事の差し入れはありがたい。
慣れた様子で登ってきたサリーナはクロスの横の席に座る。
「私の分も持ってきたので一緒に食べましょう」
そういって差し出されたのは硬めの黒パンに肉や芋の素揚げ等が挟んであるものだ。
少し刺激的な香りが食欲を唆る。
「ありがとうございます。いただきます・・・・グッ!・・・ガッ、ガライ・・」
パンに齧り付いたクロスが動きを止め、その全身から汗が噴き出す。
クロス的にとてつもなく辛いのだ。
辛いというより口の中が痛い。
慌てて水袋を手繰り寄せて水を飲むクロス。
「あっ、これピリ辛で美味しいですね。この街の名物らしいですよ」
こんな激辛サンドが名物というのも驚きだが、それをピリ辛と言い放って涼しい顔で食べるサリーナにも驚きだ。
クロスとて辛さに弱いわけではないが、ものには限度がある。
しかし、辛さに喘ぎながら食べ続けるのだが、不思議と食べる手が止められない。
不思議な名物サンドに疲れも吹っ飛んだクロスだった。
明けて翌日、オアシスの街を出発したクロス達はその後も変わらずに(相変わらず、たまにサンドワームの突き上げを食らうが気にしない)砂漠を縦断し、予定どおり目的地であるシーグル神殿に到着し、無事に巡礼者達を送り届けることができたのである。




