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砂漠の夜

 サリーナと名乗った神官は雪山の麓の村の教会のシスター、イーナの双子の妹らしい。


「姉のイーナは優秀で、教道院での修行の後にシーグル教会で司祭として正式採用されて、教会を任されていますが、私の方は姉とは対照的に落ちこぼれで、こうしてシーグル神官として冒険者をやっているんです。あっ、でも姉妹仲はとってもいいんですよ。私の方が姉に心配させてばかりですけど・・・」  


 聞いてもいない情報を話すサリーナだが、確かに着ている神官服が教会勤務の正司祭のものと違い、一般神官用の神官服だ。

 加えて双子の姉に対して少しばかりコンプレックスを感じていることはなんとなく分かる。


 サリーナは初級上位である茶等級でありながらソロの冒険者ということだが、神官としての祈りの力が弱いために常設パーティーを組んでくれる冒険者がおらず、他のパーティーに臨時で参加したり、危険が少ない素材採取の依頼を単独で受けたり、薬師として薬品を調合してそれを売って生活しているそうだ。

 因みに、回復系の初級の祈りしか行使できず、その能力は標準的か、やや下回る程度だが、狐系の獣人なので身体能力や持久力、俊敏性は非常に高いらしい。

 ただ、その身体能力を前衛戦闘では活かすことができず、戦闘にあっては後衛しかできないそうだ。


 自分に不利なことを包み隠さず話すサリーナは真面目で誠実な性格なのだろう。


「クロスです。私への指名依頼ということなので私のことは多少なりとも知っていると思います。戦闘では主に銃を使用しますが、近接戦も多少ならば可能です」

「すみません、お願いしておきながら私は役立たずで・・・」

「問題ありません。皆さんは私の装甲車で運びますから、皆さんの体力に気を配る必要はありませんし、装甲で守られていますので比較的安全です。速度もありますから、明日中にはオアシスの街に到着できますよ」


 クロスの説明を聞いてサリーナは改めてクローラーを見上げる。


「そんなに早く・・・?」


 呆気に取られたようなサリーナだが、背後にいる巡礼者も似たような表情を浮かべていた。


 長々とクローラーを眺めていても仕方ない上に時間の無駄だ。

 荷物を積み込んだら速やかに出発することにする。

 

「さて、巡礼者の皆さんは後部に、サリーナさんは運転席の横に乗ってください」


 巡礼者は皆一様に恐る恐る後部車室に乗り込む。

 前席は側面の足場をたよりによじ登る必要があるのだが、身軽な獣人のサリーナはなんの問題もなくスルスルと登って座席に乗り込んだ。


 全員が乗り込んだことを確認したクロスはクローラーのエンジンを掛ける。


 キュル・ドルンッ・・ドッドッドッ・・・


「ひっ!」 


 エンジンの始動音に驚いて頭の上にある耳をペタリと倒すサリーナ。

 しかし、クローラーが走り出すと、驚きは直ぐにクローラーに対する興味に変わり、運転するクロスの様子を興味津々の様子で見ていた。



 水の都市を出発し、南の砂漠に差し掛かったクローラーだが、砂漠の砂をものともせず突き進む。


「本当に凄いですね」


 周囲の警戒を怠らないが、それでもサリーナはどうしてもクローラーのことが気になってしまう。

 クロスはクロスで横からまじまじと見られては気になってしまうが、それでも運転と警戒に集中し、日が暮れる頃には予定どおりオアシスの街との中間地点まで到着することができたが、いかにクローラーといえ、護衛対象を乗せて夜間の走行は危険が伴うのでひとまず夜営することにした。



 夜も更けて巡礼者達は身を寄せ合うように眠りについており、クロスとサリーナが交代で見張りを行うことにする。

 

「・・さん・・クロスさん」


 サリーナに見張りを任せ、仮眠を取っていたクロスはサリーナの声で目を覚ました。


「どうしました?」


 運転席横に置いたライフルを手に取るクロス。

 サリーナが起こしたということは何らかの異変が生じているということだろう。


「何かが近づいています。多分ですが、砂ゴブリンです」


 砂ゴブリンとは砂漠の環境に適応し、暑さに強く、砂地でも素早く走り回ることができるゴブリンのことだ。

 月明かりを頼りにサリーナの指差す方向に目を凝らすが、クロスの目ではまだ目標を捉えることができない。


「近くを通りかかっただけならいいのですが、こっちに向かってきますか?」

「近づいてきています。間違いなく狙われています」


 鋭い視覚と聴覚、加えて砂ゴブリンが風上から近づいて来ているとのことでサリーナからは完全に捕捉しているということだ。


「距離は?」

「約70メートル、5体がゆっくりと近づいてきます」


 その距離なら十分に射程距離だが、いかんせんクロスにはまだ見えていない。

 ライフルを構えてみるが、月明かりも弱く、50メートル以内に近づかないと狙えないだろう。


「クロスさん、その銃はどの程度の距離を狙えますか?」 

「70メートルなら十分に狙えますが、目標が見えません」

「私が誘導します、私の指示した場所を撃ってください」


 暗闇を睨むサリーナ。


「分かりました。正面に露出している岩を基準に指示してください」


 弾丸を装填したクロスは50メートル程先にある岩に狙いをつけた。


「分かりました。それでは・・・基準の岩から右に10メートル、奥に20、いや15メートルです」


 クロスはサリーナが指示した暗闇を狙って引き金を引く。


・・・バンッ! 


「嘘っ!1発で当てた?」


 驚きの声を上げるサリーナ。

 どうやら命中したようだ。

 クロスは槓桿を引いて次弾を装填する。


・・・キンッ・・


 薬莢が落ちる金属音が小さく響く。


「次の目標を!」

「えっ?もうですか?・・・基準から左に30、奥に15」 

  

 あまりの装填の速さに驚いたサリーナだが、直ぐに気を取り直す。

 

・・・バンッ!・・・キンッ・


「次を!」

「左に5からゆっくりと右に移動中、奥に5・・・左に2です!」

 

・・・バンッ!


「当たりです!」


 見えない砂ゴブリンを相手に3発で3体を仕留めたクロス。


 残りの2体はクロスの目でも見える位置にまで接近している。


「見えました、後は大丈夫です」


 手前に近づいている砂ゴブリンを狙って引き金を引く。


・・・バンッ!


 直ぐに次弾を装填して次の目標に狙いをつけた。


 砂ゴブリンはあと1体だ。

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「私が誘導します、私の指示した場所を撃ってください」 弾丸がもったいないでしょう。出てきたら、ひき殺したら良いだけじゃないの?
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